21 激戦~沼地の戦争4~消えゆく灯、覚醒せし水精霊~
1年ぶりの新話、大変長らくお待たせいたしました。
今回は・・・タイトルで大方の内容が理解できる、はず?ではでは、どうぞ!
リリティアらがレン達を発見し一騒動起こした後。
「・・・と、とにかく、そろそろ戻らないと・・・」
「・・・あ、そっか」
レンが懐中時計を見た時、時間にはまだ余裕があった・・・が、戻るにしても時間がかかる可能性がある。ましてや最低1人精霊少女が増えている状態(契約しているわけではないが)なので、余計に時間がかかる可能性も鑑みた結果、今から戻り始めた方がいいと考えたのだ。
「・・・で、なんで貴女までついてくるの?」
「・・・1人だと寂しいんだもん・・・」
シンシアはさみしいからとついてくるシエラに思わず溜息を漏らした・・・その時だった。
「精霊魔法・・・!?皆、気をつけて!!」
ナジャがそう叫ぶ。この中で一番感知力の強いナジャが叫んだということで、全員が辺りを見回す。その時だった。精霊達の真ん中にいた少年が倒れたのは。
「音は衝撃ぃ。いくら音がなかったと言ってもぉ、気を抜いたらダメなのよぉ?」
突如聞こえた声の方へ、シンシアとナジャが向く。そこには女性2人がいた。片方には鎖が見える。そしてその陰から男が1人現れた。
「貴方・・・闇討ちとは感心しないわね」
「闇討ちも何も、その2人は僕の精霊だ。僕のものに手を出したんだから当然の報いだろう?」
『僕のもの』という発言に、シンシアとナジャは双子を見た。・・・が。
「私達あんなわけのわからない奴のものでもないし、契約した覚えもないわよ!!」
シエラが啖呵を切るように叫び、シエルもそれに続くように頷く。しかしそんな事等露知らずという感じの男。
「準最上位に最上位・・・2属持ちの下位・・・僕の持ってないものばかり・・・よし、あいつを殺して奪ってしまおう。そうすればみんな僕のものだ」
「破綻してる・・・!あんなの・・・あんなの正気の沙汰じゃないわよ・・・!!」
そんな言葉まで飛び交う中、倒れて動かないレンをただ呆然と見るだけのリリティアと、今までの知識総動員で回復を試みるシルディアがいた。
(心臓は・・・止まってない・・・けど、どんどん音が小さくなってってる・・・!呼吸は・・・止まってる!?・・・治癒は私の専門・・・ご主人様・・・絶対お助けします!!)
動かないリリティアを除き、全員が全員行動をしている。リリティアは1人、ただただ呆然と立っていた。
(・・・レンが・・・私の・・・私のせいだ・・・私が・・・私がもっとしっかりしてれば・・・)
シンシアとシエラが前線に立ち、中衛にルナーリア、後衛(レン達防御)にナジャとシエル・・・という陣形を咄嗟に組んだ。
「ふぅん・・・ゼノぉ、あの子たち完全にやる気みたいよぉ?」
「・・・らしいね。アイヴィー、あの壁貫いといて」
「はぁい」
アイヴィーと呼ばれた女性は何の反論もなく、左手を前に突き出した。
「壁の貫通・・・ナジャ!」
「大地に根ざし数多の巨木よ、我が呼びに応じ我らを護りたまえ・・・」
シンシアに言われるや否や、詠唱を始めるナジャ。しかし・・・
「『大地の巨槍』」
アイヴィーは通常行われるはずの詠唱を一言も告げることなく発動したのだ。
「詠唱破棄!?シエラ、直ぐ3歩下がりなさい!詠唱破棄、『氷点下の防壁』!」
「うわっ!?」
シエラに声を上げて下がらせた直後、自身も対抗するように詠唱破棄で氷の壁を創り上げた。
「かったい氷・・・流石は最上位ねぇ」
「腐っても最上位よ・・・貴女みたいな精々上位程度の精霊が調子に乗らないでくれるかしら?」
「言ってくれるじゃなぁい」
「それだけの力があるだけよ!一撃貰っていきなさい、『氷結の矢』!」
シンシアとアイヴィーの激戦。その最中、指示を出すわけでもなく座りこんで成り行きを見守っているゼノと呼ばれた男。そのゼノが口を開けた。
「手古摺ってるようなら・・・貯蔵庫から譲渡するけど?」
「可能ならほしいものねぇ・・・!上位1人で最上位と上位を相手にするのってぇ・・・結構骨が折れるのよぉっ!」
「はいはい。まったく、面倒を起こす精霊達だ・・・回路接続、接続先、アイヴィー」
ゼノがそう告げた瞬間だった。
「・・・っ!?」
後衛組のシエルが身震いしたのだ。当然ナジャもそれを感じており・・・
「・・・なに、これ・・・!?上位の精霊の力なんてものじゃない・・・!!」
「怖い・・・なんだか・・・怖いよ・・・」
どちらも恐怖を感じていた。
「・・・あははっ、やっぱりこの感じ、たまらないわぁ・・・」
「・・・どういうこと?ただの力の譲渡という次元を超えてる・・・!」
「・・・ううん、保有量をまるで無視した譲渡よ・・・!危険すぎる・・・下手したら死ぬわよあんた!!」
シンシアとシエラがアイヴィーに向けて声を荒げた。しかし、彼女から返ってきた言葉は更に上をいくものだった。
「私は死なないわぁ」
「・・・なんですって?」
下手したら死ぬと思われていたが、本人が「死なない」といったことに疑問を持つ。
「私もそこの貯蔵庫もぉ、ゼノのおかげでこういったことに耐えられる体になってるのよぉ?貯蔵庫は体の中で膨大な力を圧縮して保有できるようにぃ、私はその力を利用できるようにぃ」
「まさか・・・精霊実験を・・・!?」
「その実験などでぇ、何体もの精霊が死んじゃったり堕ちちゃったりしたけどねぇ」
恐るべき事実を聞いたシンシアは、目の前の精霊を見て思わず一歩足を下げてしまっていた。目の前の精霊は『自分の強さのためなら、他の存在の生死は気にしない』ということを平気で言ってのけたのだから・・・
そして、レンの復活を願い、一心不乱に心肺蘇生法を繰り返すシルディア。人工呼吸も同時進行で行い、時々胸に耳を当てて鼓動を聞いていた。しかし・・・
(心臓の音が・・・鼓動が小さくなっていってる・・・!死なせない・・・死なせません、絶対に!!)
息は止まり、心臓の鼓動も徐々に小さくなっていっている。シルディアはただ1人必死に行動していた。治療を専門とする彼女でも、『蘇生』については専門外という致命的な問題があった。
(リリティアさんが動けない間・・・私が頑張るしかないんだ・・・!ご主人様・・・!頑張ってください・・・!!)
周りに戦いを頼む形とはいえ、頑張り続けるシルディア。しかし・・・
「・・・っ!?」
ふと何かを感じ、レンの胸に耳をあてる。その時、シルディアの顔が驚愕に染まった。その理由は・・・
(・・・心臓が・・・止まった・・・!?)
一番恐れていたことが起きてしまったのだ。心停止。最初にもらった一撃が致死レベルのものだったのだ。
「ご主人様が・・・しん・・・じゃう・・・」
目の前で起きてしまった、起きてほしくないと心の奥から願っていたこと。願っていたことと真逆のことが起きてしまい、一瞬シルディアは茫然としてしまった。
「そんなの・・・そんなの・・・嫌・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
シルディアが「嫌」と叫んだ瞬間、彼女やレンを囲むように青い光が柱のように天へと昇った。その光には、どこか神々しさを感じられた。
「な、なんだあれは!?」
「こ、これは・・・警戒しなきゃねぇ・・・!」
ゼノらは思わず動きを止め、警戒していた。しかしシンシアたちも例には漏れず・・・
「これ・・・あのちっちゃい子がやったの!?」
「シルディアの・・・水属性の光よ・・・けど・・・あれは・・・なんなの!?何の光なの!?」
「なんだか・・・きれー・・・」
「ほえー・・・」
全員が全員足を止め、光を見つめていた。・・・ただ1人、リリティアを除いて。そして光が柱となって数分が経過した時だった。
「我が内に眠りし全ての祖たる蒼き水面よ・・・我が思いに応え、その身を不死なる鳥に変え、消えゆく灯に再び力を与えたまえ!」
突然声が聞こえた。シンシアたちからすれば聞き慣れた声。いつも主を気遣い、一番主のことを考え、好意を誰よりも押さえつけていた少女。その少女の声で、全く聞き慣れぬ文言が聞こえた。
「『蒼き不死鳥』!!」
精霊魔法が唱えられ切った直後、光の中から蒼い巨大な鳥が現れたと思いきや、その身を翻して光の中へと消えていった。
「・・・うっ・・・」
レンは胸に感じる痛みによって目を覚ました。違和感を感じた時から今までの間の記憶が一切なく、なにがあったのかさえ分からない。自分が何故地面に仰向けになっているのかも。
「ご主人様・・・よかった、目を覚まして・・・」
声のした方に顔を向ければ、そこには見慣れない少女がいた。長く綺麗な青色の髪、とても綺麗な体。慈しみを感じる目。その少女の姿には全く覚えがなかったが、、聞き覚えのある声と「ご主人様」と呼ぶその少女には、レンは全く敵意を感じなかった。
「えっと・・・もしかしなくても・・・シルディア?」
恐る恐るといった感じで少女に名を聞くレン。返ってきた言葉は・・・
「・・・はい。あなたを心の奥底から想い、あなたに永久に仕える存在、シルディアです」
レンが知っている姿から大きく変わったその少女・・・シルディアは、レンに対し膝をついて深く一礼した後、レンに近づき、その口に自らの唇を当てた。その瞬間、周りを包んでいた光が弾けて消えた。
「・・・ご主人様・・・良かったです・・・本当に・・・」
シルディアは口を離した後すぐ、そう言ってレンに抱きついた。
次回は・・・最上位へと化したシルディアに加え、もう1人大きな変化が。・・・さて、一体誰が変化するでしょうか?
それは次回のお楽しみにと言うことで。




