20 激戦~沼地の戦争3 精霊少女揃い踏み~
20話、沼地編3話目です。
今回は・・・姉妹漫才第2弾と精霊少女達の騒ぎ、この2つのカオスをお楽しみください。
・・・シルディアが若干可哀想になりますが・・・そこはまぁ、気にしないでください。
「・・・ご主人様・・・どうか・・・どうか無事でいてください・・・!」
シルディアは1人、一度も来たことない沼地を、主を求めて走り続けていた。他の4人の回復推定時刻の10分はとうに過ぎ、おそらく彼女達が先に着いてしまっているだろう、と思い始めていた。
なにしろ、『彼女達』の中には、イヌ耳少女(尻尾もついてる)・ルナーリアがいる。彼女は犬のような嗅覚を持っているため、探すのは到底容易いものだとシルディアはよく知っていた。
(感だけを頼りにして・・・ご主人様を見つけられない・・・皆の前で堂々と言っておいて・・・!)
焦りを感じ始めるシルディア。『1人で行く、主を見つけ出して見せる』と啖呵を切っておいてこの有様となっては(4人は責めることはまずないだろうが)情けないことこの上ない、と思っていた為であった。しかし・・・
〈・・・〉
(・・・声?しかも聞いたことあるような・・・ううん、間違いない、ご主人様を連れ去った女の子の声だ!)
たった一言、だがその声を忘れるわけがない。シルディアは声がする方へと駆け出していった。
「まったくもう」
「あぅ・・・」
姉妹喧嘩はようやく終わる。ただの喧騒とは思えない言い争いは終始妹の方が強かったのは余談である。
「あの、さ」
ふとレンはあることを思った。そしてそれを問い質すことに。
「えっと・・・」
「私はシエラ。こっちのド天然はお姉ちゃんのシエルよ」
「ど、ド天然じゃないもん!」
「うっさい、この超ド天然!!」
また喧嘩が始まる・・・と思ったレンは宥めつつも話を切り出した。
「僕がシエルと契約したらシエルは一緒に来る・・・けど、シエラはどうするの?肉親のお姉さんがいなくなるから・・・独りぼっちだよ?」
「あ・・・」
レンに言われ、今頃レベルで気付いたシエラ。姉のことばかりを考えていたら、自分のことを完全に頭から切り離してしまっていた。それを気付かされ・・・
「ベ、別に1人でもいいもん」
「シエラ?」
「な、なによ」
「本当は寂しいんじゃないの?」
「・・・うっ・・・」
ド天然な姉からまさかの指摘。図星を突かれたシエラは当然言葉が詰まる。・・・が。
「ベ、べべ、べべ、べ、べ、べ別にきき、き、ききキスがはは恥ずかしいとかファ、ふぁ、ファーストキスだしだなんてそそそそういうわけじゃないんだから!!」
「キス、恥ずかしいの?」
「・・・あっ」
レンは思った。この姉妹、どっちもどっちのド天然だ、と。
「そ、そんにゃこちょよりっ!!」
(・・・思いっきり噛んでるなぁ・・・)
自分から矛先を変えようと躍起になるあまり噛みまくりなシエラを見て、やっぱりこの子も天然だなぁ、としみじみ思うのだった。
「さ、さっさと契約しちゃいなさいよ!この人の精霊皆来ちゃったらもう契約どころの話じゃなくなるんだよ!?見た所最上位もいたし!!」
「あ、ぅ・・・」
シエラが言って、レンはここまで連れてこられた(というか拉致されてきた)理由を思い出した。本来の目的、それはシエルの契約だったのだ。シエラが自分のことを忘れていたというのは余談だったが、とにかくどうすべきかレンは真剣に悩んでいた。
(・・・正直、これ以上契約したくないんだよなぁ・・・。最上位のシンシアとか準最上位のリリティア、上位のナジャに下位のシルディアとルナーリア・・・。既に5人の精霊と契約して更にまた1人か2人か・・・。本気で体が心配になってくるよ・・・)
また妹が姉をどやすような口論(とはいってもかなり一方的であり、口論と言っていいものか分からないが)が始まった時だった。
〈ご主人様ぁっ!!〉
『!!』
急に声が聞こえたのだ。しかも、人の名を呼ぶのでなく、『ご主人様』と呼んだその声は、レンにとって救いとなる・・・かもしれない声だった。そして、声が聞こえた数秒後。
「ご主人様ぁっ!」
「うわっとと、し、シルディア?」
現れたシルディアに、混乱とか嬉しさとか色々感情が入り混じった状態で聞くレン。件のシルディアはほっとしたように胸をなでおろして・・・
「ご主人様、無事でよか・・・っ・・・た・・・」
「シルディア?」
顔を上げた瞬間、シルディアの言葉が失われた。なぜなら・・・
「・・・あっちゃー・・・もう来ちゃったんだ・・・」
「え、ふえぇ?」
レンを(契約とかそういう意味で)必要とする姉妹、シエルとシエラが顔を上げたその先にいたからであり、言葉を失ったその最大の理由とは、
「お、おっぱ、お、おおき、そ、そんな、で、でも、ぁぅぁ・・・」
「シルディア!?シルディア!!」
リリティア並みの妹とシンシア以上、下手したらルナーリア以上の姉に愕然としていただけだった・・・
「・・・ということは、ご主人様と契約して、変な人に付きまとわれないようにするために・・・ということでいいんでしょうか?」
「そんな感じかなぁ・・・。お姉ちゃん3属持ちの野良精霊だから狙われやすくって」
「・・・それでいて既にご主人様が大好きだと・・・」
「うん、それは否定しないよ。だって・・・ほらこれ」
シエラとシルディアは何故か気が合うのか、仲良く話をしていた。とはいえ、なぜレンを連れ去ったか、という話が終止だったが。
そしてシエルとレンはというと・・・
「・・・(ちらちら)」
(・・・見ちゃいけない、見ちゃいけない・・・!)
もじもじした様子で、かつちらちらと自分を見やるシエルと、そんな彼女を見ないよう、明後日の方を向き続けているレンがいた。体勢が体勢のため、大きな胸が強調されているが、彼女は至って無意識のうちにやっていた・・・
「・・・うー・・・、シエルさんを助けるため・・・なのは分かるんだけど・・・私どんどん端っこに追いやられる・・・」
「端っこ?追いやられる?・・・あー・・・なるほど・・・うん、頑張れ」
「それ酷すぎますぅっ!!」
シエラにすら理解され、うわーんとレンに泣きつくシルディア。一瞬シエルが「あっ・・・」という顔をしたが、シエラに「今我慢しろ」と目で言われ、しょぼーんとしていた。
「おっと・・・し、シルディア?」
「ご主人様ぁ・・・私・・・私いらない子ですか・・・?」
唐突に来た質問、『自分は不要な存在か?』。しかしレンにとっては・・・
「・・・ううん、むしろいないと困るくらいかな」
「・・・ふえ・・・?」
返ってきた答えの意味が理解できず(言葉としては嬉しい限りなのだが)、首を傾げるシルディア。
「だって、僕以外じゃ今のところシルディアしかできないことっていっぱいあるし。ね?」
「私にしか・・・できない、こと・・・」
シルディアが言いなおしている間、レンは最早愚痴のようなことを言い始めた。
「・・・ちゃんとした料理できるのシルディアだけだし、洗濯だってシルディアがやってくれるから何とかなってるし、僕が死にかけた時も率先してシルディアが助けてくれるし・・・シルディアがいなかったらどれだけ大変だろうって・・・」
ブツブツ言いだしたレンに、シエラのみが苦笑いしていたのだった。
そして数十分後。
「レン―っ!!」
「ふぎゅっ!?」
動けるようになった残りの精霊少女達が、レンの元へと到着。真っ先に飛び付いたのはリリティアだった。
「・・・『空圧の緩衝物』」
その後の結末が見え切っていたシエラは、詠唱破棄で唱え、もつれて倒れ込むレンを助けた。・・・が。
「ふみゅぅ・・・」
「むぐっ・・・ぅ・・・」
倒れ込んだ先にはシエルもおり、レンはシエルとリリティアに挟まれる形に。
「あ、お姉ちゃんまで下敷きに・・・ま、いっか。女の子サンドイッチって男からすれば願望ってどっかで聞いたことあるし」
「ご、ご主人様っ!?」
若干取り合いとなり始めたリリティア・シエル間の抗争を宥めようと動くシルディアに、シエラを見てふー、ふー、と息を荒げて威嚇し始めるルナーリア、そんな彼女を宥めるのに必死なナジャ。唯一シンシアは・・・
(・・・あの双子、どっちも2属持ち・・・いえ、姉の方・・・かしら?あの子、少なくとも3属持ってる・・・)
1人だけ冷静になってその双子を観察していた。
(・・・それにしても・・・)
しかし、そんな冷静な観察も数分後にはどこへやらといった状況に。
(・・・最近巨乳・・・いえ、爆乳といった方がいいのかしら?そういったレベルの精霊の子がレンにまとわりつくようになった気がするのは気のせいかしら・・・?いえ、気のせいじゃないわね・・・。・・・あの3属持ち・・・3属分の精霊力があるとはいえ流石に大きすぎるわよ・・・!)
レンの下敷きになる前に見えたシエルの大きな胸に強い嫉妬の念を持つシンシアであった。
次回、前回の最後に出てきた存在が姿を現します。
そしてレンに悲劇が。
さらに・・・シルディアに大きな変化が訪れます。
謎の存在の目的はなんなのか、レンは大丈夫なのか、シルディアに起こる大きな変化とは何なのか。
全て、次回をお楽しみに。




