19 激戦~沼地の戦争2 拉致と出会い~
19話、ついに完全に双子が登場します。彼女らもまた特徴的な性格というかなんというか・・・個性出てます、はい。
そして最後、こういった時にはお約束といった感じで。
「・・・どうしよう」
シエラは悩んでいた。姉のところに人を連れてこなければならない。・・・が、相手は精霊使役者。しかも5人の精霊を携えている。更に悪い話が全員隷属的でなく、むしろ恋慕的な使役状況。そんな状況でどう連れて行けばいいのやら、と悩んでいた。
「お姉ちゃんのお願いは叶えてあげたい・・・けど・・・私の毒と風の力じゃ・・・」
自分の力だけじゃ恐らく拉致も叶わないだろうと思うシエラ。
「どうすれば・・・あっ」
急に閃いたシエラ。頭の上には恐らく電球があるかもしれないほどに。
「そっか、毒と風なら・・・眠らせたり麻痺させたりはできるはず・・・!」
シエラはそこまで言ってブツブツとつぶやき始めた。・・・計画実行のために発動する精霊魔法の術式を・・・
「レ~ン♪」
「ちょっとリリティア!?さっき貴女はレンに押し倒されてるでしょ!?」
「やだもん、離れたくないもん♪」
「リリティアばっかりずるい~っ!!」
現状、レンは3人の精霊少女に囲まれていた・・・というか嫉妬する2人と甘える1人に囲まれていた。左腕にはリリティアが、右腕にはシンシアが。背中にはおんぶされる形となったルナーリアが。その後ろには抱きつけなくて仕方なく・・・という感じのシルディアとナジャがいた。
「はぁ・・・羨ましいです・・・」
「ボクも抱きつきたいなぁ・・・」
そんな感じで後ろからの羨望も受け・・・
(・・・こ、これ以上の、契約は避けないと・・・し、死ぬかも・・・!)
内心、レンはこれ以上の契約だけは避けようと決意していた。そんな中・・・
「・・・待って!」
不意にナジャが声を上げた。
「ナジャ?」
「皆、息をすぐ止めて!5秒でいいから!」
ナジャ以外の全員がすぐに大きく息を吸って止めた。その刹那。
「汝、我らに仇為す者から我らを守れ!『巨木の守護者』!!」
ナジャがそう叫ぶと、全員を囲む一方通行的な筒となるように木の板が現れた。そして風一つ入らないように囲んだ・・・が。
「・・・っ!?」
いの一番にナジャの膝が崩れる。
(体が・・・動かせない・・・!まさか・・・麻痺毒!?もしかして間に合わなかった!?)
痺れる体を無理に動かし、呼吸をしないよう知らせようとした・・・が。
「ナジャ!」
真っ先にレンが口を開いてしまった。結果・・・
「・・・だいじょ・・・う・・・!?」
彼もまた、謎の全身的な痺れに襲われてしまう。そうなれば雪崩の如く・・・
「・・・しま・・・」
「くっ・・・」
「あっ・・・」
リリティア、シンシア、ルナーリアと連鎖的に体の麻痺が発症する。シルディアはナジャの言葉と同時にアクアボール(エアー満載バージョン)を生成、レンには間に合わないことを理解した瞬間、せめて自分だけでも動けるように、自分の頭を突っ込んでいた。
〈み、皆さん!?〉
「ひ、ひぅいあ・・・!い、いぇひぇ・・・!」
レンがシルディアに、「せめて君だけでも逃げろ」と言った時。
「・・・ごめんなさい、本当ならこんな手荒な真似はしたくなかったの」
見慣れない少女が全員を開いている場所から見ていた。そしてそのままレンに近づき抱きかかえて・・・
「この人、ちょっと借りてくわね」
〈ご、ご主人様!?〉
シルディアが追いかけようとするも、遠回りをせざるを得なく、すぐに追えず・・・レンは見慣れぬ少女に連れて行かれてしまった。同時に、レンの方も最後に何か柔らかいものを感じた直後に、意識が闇へと落ちていった・・・
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「し、シエラ、お帰り・・・あっ・・・」
シエラは無事、姉の元へと戻ってきていた。胸に少年・・・レンを抱えるように。
「ど、どうにか連れてきたよ・・・あ、後は・・・頑張れとしか・・・」
「う、うん・・・!」
姉の前にレンを寝転がせるシエラ。傷つけないよう、優しく。
「くれぐれも!誘惑とかそういう、その、え、えっちなことはしないでよ!?」
「・・・う、うん・・・(恥ずかしいなら言わなきゃいいのに・・・)」
顔を真っ赤にして叫びシエラに、姉は心の中で言わなければよかったじゃん、と思っていた。
(け、けーやく・・・一方的なら、その、わ、わた、私から、ちゅ、ちゅーすれば・・・!)
何をすればいいかは分かっているが、決心がつかず一進一退な状態を繰り返す。
「・・・もー・・・あの人起こして無理強いさせた方が早いかも・・・」
シエラはどうしようもない状況に困惑しきっていた・・・
「・・・やっぱり・・・麻痺毒・・・しかも意識的に動かせる筋肉のみを狙ったもの・・・!」
「そ、それで・・・完全に戻るのにどれだけかかるの!?」
「わ、分かりません、この手は少なくとも10分以上は・・・」
唯一麻痺毒の影響を受けていないシルディアが一瞬で毒の系統を見極め、痺れている4人に治療を試みていた。・・・が、相手は毒であり、シルディアには分野外。種類は分かれど治療は難航していた(精々口を動かせるようになった程度。
「し、仕方ないよぉ、シルディアは治すの得意でもそんな細かいのまでは何ともできないって言ってたもん」
「も、餅は餅屋、ってやつ・・・?」
ルナーリアやリリティアがシルディアをフォローする。しかしシルディアは・・・
「・・・皆さん、痺れが取れるまでおとなしくしていてください」
「シルディア?どうするつもり?」
「・・・私、ご主人様を助けに行きます」
シルディアが決意したこと。それは単独でレンを救出すること。シルディアにとって危険な行動であり、また、自分より力の強い4人の助けを借りることもできないことでもあった。
「だ、大丈夫!?シルディア、一番弱いんだよ!?」
「ぁぅっ・・・」
ルナーリアから的確であまりに痛すぎる一言を受けるシルディア。しかし・・・
「・・・け、けど・・・い、行きます・・・!」
シルディアは意を決したように歩を進めた。
「・・・皆、痺れが取れるまで待機よ。下手に動いた所で・・・今の私達には何もできないもの」
「そう・・・だね・・・」
痺れが取れるのを待つ。そしてその後シルディアを追うという流れに至った4人であった・・・
「・・・うっ・・・」
拉致から1時間後くらいが経過した時。ようやくレンは意識を取り戻した。・・・目を開けたその先には・・・
「・・・っ!?」
「ひぅっ!?」
少女が覗き込んでいたのだ。あどけない顔の少女が・・・
「わっ、わあぁっ!?」
「ひゃうぅっ!?」
互いに驚く2人(レンは目の前に見知らぬ少女がいたから、少女はレンが突然目を覚まして、目が合ってしまったから)。そして、レンはもう1人いるのを確認した。
「え、えと、ど、どういうこと!?」
「・・・その、えと・・・ご、ごめんなさい」
混乱しているレンに、突然謝罪したもう1人の少女。
「・・・写真を見たままだったら・・・あなたに話をして一緒に来てもらおうと思ったんだけど・・・その、とてもあなただけに来てもらえそうになかったから、あんな強硬手段に出るしかなくて・・・」
「・・・そ、その、来てほしかった理由って・・・?」
強硬手段とかそういうのは関係なく、「来てもらいたかった」理由が知りたくなったレン。理由がないわけでもないため、怒る理由も気持ちもなかったのだ。
「・・・お姉ちゃん、頑張れ」
少女がそう言ったことによって、理由が目の前で俯く少女だということに初めて気づいた。
「・・・え、えと、あの、その・・・」
恥ずかしそうにうつむき、聞こえるか聞こえないか、の声で話しだす目の前の少女。一体何を言われるのか見当もつかないため、レンも自然と唾を飲み込むだけになってしまう。
「わ、わた、わた、わたし、と」
「・・・き、君と・・・?」
かなりテンパっているのか、言葉が途切れ途切れになってしまう。・・・が、レンもきちんと聞こうとして反芻する。
少女は決心したのか大きく息を吸い込んで・・・
「わ、私をあなたのキズモノにしてくだしゃ「バカ―っ!!」ふきゃん!」
目の前で起きた出来事に、レンは完全に呆然としていた。まず、妹・・・と思われる少女が姉(多分。消去法で考えた)の頭を引っ叩いた理由が分からない。また、叩かれた少女が言った意味が分からない。そして、本当は何が言いたかったのかが分からない。その3点を理解できず、混乱していた。
「お、お姉ちゃん!!言ってることと目的とが違ってるでしょ!?」
「で、でも、け、けーやくって、キズモノになるって」
「その先入観は捨てろって前から言ってるでしょ!?」
姉妹の言い争いが勃発している中、レンは溜息を吐くしかなかった・・・
その頃。
「ねぇ、本当に3属持ちがこの沼にいるのぉ?」
女性が男性に話しかけた。男性の左手には鎖が握られており、その先にはまだあどけなさが残る顔の少女の首へと繋がっていた。
「アイヴィー、俺の情報力を嘗めてるのかい?」
「ゼノの情報力は嘗めてないわぁ。おかげで私のコレクションも増えたんだもの」
「だろ?・・・おら、さっさと歩け」
「ぁぅ・・・」
じゃら、と音を立てる鎖に引っ張られ、少女は鎖の先を握る男に必死についていくのであった・・・
次回はカオス回です。まだバトルはありません。間違いなく。
けどカオスになります。主に双子で。




