15 騒動~ルナーリアと学校、そして戦争?~
ルナーリアが生まれてからの光景です。・・・戦争は言わずもがな、ルナーリアのことで困るレンと、意外と優しい(・・・のか?)アッシュの行動にも注目あれ。
偶然発生した事故のせいで生まれた、火・土の2属性を持つ精霊ルナーリア。彼女の存在は各地でも予想だにできないものだった。一介の学生が偶然とはいえ高度技術を必要とする精霊生成陣を用いたこと、生まれたのが発生が稀な2属持ちだということ。この2つの要因が世間を騒がしくさせた。
養成所側にも取材を、取材を、という記者が多数詰め寄せるという事態になり、毎日つっ返すという流れが茶飯事となっていた。
そんなことを知ってか知らずかのレンは相変わらずルナーリアにべったりという表現が似合うほど懐かれていた。ちなみにルナーリアの服はシンシアのお古を流用している。
「ごしゅじんさま、だいすき♪」
「ルナーリア、お願いだから離れてよ・・・反省文やってるんだから」
「・・・ごしゅじんさま、るなーりあのこときらいなの・・・?」
「・・・そういうことはないんだけど、ルナーリアが抱きついてくると腕が動かしにくいんだ」
何かレンがする度に抱きついてくるルナーリア。離れてほしいと言うとすぐに目に涙を湛えてしまい、レン自身その少女をどう扱えばいいのか分からず終いだった。
そして、それが面白くないのが彼と契約した3精霊の少女達。人一倍我が強く我儘で、誰よりも独占欲が強いルナーリアにレンを独占されてしまっている状況が彼女たちにとって非常に迷惑極まりないものだった。
「・・・ルナめ・・・!レンにベタベタして・・・あれは私の特権なのに・・・!」
「・・・同じ様にご主人様ってレンを呼ぶシルディアですら自重してるのにあの子は・・・!」
「むーっ・・・」
リリティアは誰が見ても一目瞭然なほどの怨嗟の声で呟き、シンシアも似たような声でシルディアと比較。シルディアはただただ頬を膨らませて唸っている。
「・・・はぁ・・・この反省文今日中に終わるのかな・・・?」
今回の騒動の罰として、反省文を書いているレンは、それがその日のうちに終わるかどうかが心配になっていた。期限としてはまだ三日残っているものの、明日養成所行った際に職員室に立ち寄って渡せば楽だと思っているからだ。
・・・だが、終わる気配が見えなくなっていた・・・
翌朝起きてすぐ、部屋の入口にある郵便受け箱の中に養成所からの一通の手紙が入っており、それがまた波乱を呼んだ。
「レンと私の二人っきりな空間がぁ~・・・」
「そうは問屋が卸さないものなのよ」
レンに抱きつくリリティアがそう漏らし、レンの横を歩くシンシアがそれに返した。
リリティアとシンシアが抱きついていない側の腕は、胴体の方にルナーリアが抱きついていた。だが、いつもの『甘える抱きつき』じゃなくて『怖がる抱きつき』なのは、彼女がシルディアからねじ曲がって受け継いだ性格に起因している。
彼女は今、自らに刺さる視線が怖くて仕方がないのだ。かといって部屋に一人ぽつんと残りたくない(シルディアが残っているが、ルナーリアからすれば一人で留守番しているのに変わりない)という状態になっていた。一度、レンが用事があるからと言ってルナーリアから離れ、帰って来た時に見たのは、リリティアほどの異常事態ではなかったものの泣き喚くルナーリアと、そんな彼女にお手上げ状態になっていたリリティア達だった(リリティアはシンシアが来て以来、一人でいられるよう(言い換えればレンに少しでも依存しないように)特訓していたため、1日くらいは平気になっていた)。
なお、ルナーリアは特例中の特例として初日から触れ合い禁止期間がないものとなっていた。理由は単純、シンシア以上の精霊力を持つ下級精霊だから・・・つまり、タイマーが全く表示されていない時限爆弾と同等の扱いを受けたからだ。
「・・・しかしこの視線・・・癪に障るわね。凍りつかせてやろうかしら」
「し、仕方ないよ。今の僕はある意味時の人みたいなものだから」
「レンがそういうなら我慢するけど・・・」
後ろを歩くシンシアがそう言葉を呟き、レンになだめられて苛立ちを収める。しかしその顔には未だ苛立ちが残っていた。
教室内。そこでもレンは奇異の目で見られていた。見られていたのはレンだけではない。ルナーリアもだ。
「ごしゅじんさまぁ・・・」
「・・・さ、さすがにこれは・・・辛いなぁ・・・」
刺さる視線(ともう一つの要因)にレンは心底参っていた。向けられる奇異の目線、そして刺さる見ず知らずの女子からの『色情魔』の目線(完全にとばっちり・・・)。
が、見られても仕方ないと言えば仕方ないのだが。何しろ、彼が従えているのは美少女精霊ばっかりなのだから。
「・・・この際この部屋まとめて潰しちゃったら・・・」
「・・・そうね、そうすればレンも落ち着いて勉強できるはずね」
「だ、ダメだから!!」
レンは慌てて2人の精霊を止めた。プッツンして教室を圧壊したり氷結させてしまうのはたまらないということで。
その頃シルディアは1人レンの部屋に残り洗濯物をまとめていた。・・・が。
「・・・お、おおきい・・・」
女物用の洗濯かごに無造作に入れられているリリティアの下着(一部かごからはみ出ている)やきちんと入れられているシンシアの下着を見て、絶望していた。そして・・・
「・・・ルナーリアの下着も・・・大きい・・・くすん・・・」
同じ下位精霊なのに魔力量が桁違いに違うルナーリアの下着を見て落ち込んでいた。
「・・・私だけちっちゃいままですぅ・・・」
準最上位精霊のリリティアや最上位精霊のシンシアは仕方ないとしても、同格のルナーリアに天地の差をつけられたということが非常に悔しいシルディアなのであった。
休み時間になると必ずと言っていいほどルナーリアの事を聞かれるレン。好奇の目に曝され慣れていないルナーリアは、休み時間になった途端に机の下に隠れてしまう。そして今、シルディアが疲れ果てた様子でレン達の元に着いた後。
「はいはい、レンへの問い質しはお終い、さっさと席に着けって」
今回もまた、アッシュによって質問会は閉会され、それぞれ渋々と言った体で戻っていった。
「しっかしまぁ・・・レン」
「な、なに?」
唐突にアッシュに呼ばれ、変な声を上げたのに気付かず返すレン。
「・・・お前・・・」
その後のアッシュの一言は、少女達の戦いを激化させる火種にはもってこいとなっていた・・・
「どの娘を嫁にするつもりだ?一夫多妻にするなら正妻は?」
「・・・それ・・・禁句・・・」
ネフィが気付いた時には既に時遅し。リリティアとシンシア、そして弱々しいがシルディアの間に火花が散っていた。
「せーさい?ごしゅじんさまのおよめさんのこと?・・・だったらるなーりあがなるー!!」
「レンの正妻は・・・一番付き合いが長くてレンの事をよく知ってる私が相応しいよね!」
「あら、正妻に相応しいのは私よ?あなた達のお子様な体じゃレンを満足させられないわよ?」
「た、大切なのは、か、家事能力ですぅっ!」
そのまま口論へと発展してしまう。私がー、私が-の繰り返し。一番真っ当なことを言うのはシルディアだが、リリティアの意見も実は一理あったりする。確かに家事能力は必須。しかし、付き合いが長く相手の事を知っているとなれば、相手の弱点をカバーできるという事実もある。ただただ「お嫁さんになる」と連呼するルナーリアや、魅惑的な体を武器にしているシンシアには若干不利な部分もあった。
「ネフィ的にはどう見る?」
「あたし?んー・・・シルディアかなぁ?けどリリティアももしかしたらーってこともあり得るし」
ネフィの言葉が聞こえたのか、シンシアの動きが固まった。ルナーリアは「やー」とぐずってるだけになっていた。
「ど、どういう、こと、かしら?」
「えらく動揺してるなおい」
「単純に付き合いが長いリリティアが家事できるようになったらレンを誘惑するどころの話じゃなくなる。むしろ何時でも結婚OKな感じになるわ。シルディアは付き合いの長さと身体つきの問題もあるけど、昇格したらどっちもカバーできるようになるし・・・シンシアは付き合いの長さも家事能力もないから・・・あ、ルナーリア・・・だっけ?その子も同じか」
刹那、レンは2つの衝撃を感じた。片方にはリリティアが、もう片方には気がついたらというレベルでシルディアが抱きついていた。
「・・・昇格するまでに家事できるようになってやる!」
「は、早く昇格するです・・・!」
第三者からの視点によって、誰が今有利か、がはっきりした。また、リリティアとシルディアに至っては当面の目標ができあがった時でもあった。
次回は若干タイトルが違います。・・・レンの心労と被害、お楽しみに。
・・・レンは幸せなのか不幸せなのか・・・
・・・あ、もうじき「あの子」が出てきますので。あと、年内行進は今回ラストです・・・次回は来年!




