14 創造~事故で生まれた新たな生命(イノチ)~
久しぶりの更新、お待たせしました。14話です。
新キャラ登場、レンの心労はさらにマッハで増えました。
「・・・で、ここはこうなるの。分かる?」
「・・・一応理論上は、ね。けどいざ実際にやるとなるとまた違ってくるからなぁ・・・」
「大丈夫。落ち付いてやればできるから」
一日の授業が終わったその放課後。レンはリリティアとシンシアという二人の教師によって個人授業のようなものをやっていた。レンが一番不得手としている精霊術式錬金を。
そして今、シンシアの前には小さな金の塊が地面に描かれた術式陣の中に存在していた。その小さな金の塊は元々どこにでもあるただの石ころだった。
「・・・今までできて武器の錆取りくらいだからなぁ・・・はぁ・・・」
「誰だって最初はうまくいかないもの。私だって最初はここまでできなかったわ」
「そうだよ、練習すればレンもできるようになるよ!絶対!」
ちなみにその横ではシルディアが必死になって同じ精霊術式錬金がすっとできるように練習していた。
「ふにゃあっ!?」
「・・・シルディア、少し肩の力を抜いてごらんなさい」
「・・・ふえぇ・・・」
とりあえず彼女ができる範囲は、金ができあがる術式を組んで石を鉄鉱石に変える程度。ポンっ、という音を立てて煙がわき上がるとシルディアはやはりと言った感じで驚き、シンシアは何度もそれを見ていたため呆れていた。
「リリティア、まだ大丈夫?」
「うん。レンのためなら私いくらでも頑張っちゃうもん!」
「む、無茶はしないようにね・・・」
胸の前でガッツポーズを組み、ふんすと鼻息荒く言うリリティアに苦笑するレン。
「じゃあとりあえずもう一回。今私が組んだ術式なら石を金に変えられるはずよ」
「うん・・・!」
レンが再び魔力で陣を描き、精霊力媒体であるリリティアから精霊力の回路(不可視)を通して精霊力を受け取る。その時リリティアが艶めかしい声を上げていたがレンにそれを気にする余裕はない。
(・・・変われ、石・・・!)
石が光り始めたと同時にリリティアの腰が砕けてぺたりと床に腰をつける。
(変われ・・・!変われっ・・・!!)
一瞬強くまばゆい光が周りを覆い、その光が晴れた時、その石は銀色に輝いていた。
「・・・金じゃなくて銀だったようね」
「・・・うん・・・というかリリティア大丈夫!?」
「らい・・・ひょう・・・ぅ・・・」
くてんと床にへたり込むリリティア。口では大丈夫と言っているものの、その様子は全く大丈夫には見えなかった。
「さっきよりも状態が酷いみたいだけど・・・なにかあったの?」
「れ、れんがぁ・・・わらひのひかりゃ・・・いっぱいもってっらのぉ・・・」
「・・・回路を通じた精霊力譲渡量が多すぎたみたいね」
「ふきゃんっ!?」
シンシアが失敗した理由を分析している間、その横ではシルディアがまた失敗して今度は石を爆散させていた。ちなみにその被害は微々たるものだったが。
「今のところ考えうる理由だけど、レンの回路はリリティアと繋ぐと相性が良過ぎて逆にダメ、かといってシルディアじゃ力が弱いし私はリリティアよりも相性は悪いけど力が強すぎて上手くいかない・・・準上位か上位くらいがレンが精霊術式錬金を行う時に一番合う精霊なのかもしれないわね」
「力が合わない・・・かぁ・・・」
「・・・私でもダメなの?」
「ってこらそこ!どさくさ紛れにレンに抱きつかないっ!!」
「やだもん、私はレンの所有物で未来の旦那様だもーん」
またリリティア・シンシアの取り合いが行われるが、シルディアは疲れて動こうとしない。レンはというと・・・
「・・・そうか!」
『え?』
急に声を上げて立ち上がった。釣られるように膝立ちになるリリティアとシンシアは揃って疑問符を浮かべた。
「力が弱いなら2人で調整すればいいんだ!」
「・・・その発想はなかったわ」
リリティアもシンシアも力や繋がりが強すぎてダメならば、良いくらいの繋がりでかつ力の弱いシルディアを加えて行えばいいのでは?と考えたレン。理論上は問題ないことを頭の中で確認したシンシア。
「けどその方法って前例ないからどうなるか・・・」
「・・・いえ、いけるわ、私も回路開放量を抑えれば若干力が弱まるし、シルディアと合わせれば回路の総開放量はいい具合になる・・・!精霊力も安定していけるかも・・・!」
「じゃあ!」
「けどレン、言うは易く行うは難し、よ。この方法は難しいということを頭の中に入れておいて」
「分かってる。シルディア、シンシア、お願い!」
二人がコクリと頷いて立ち上がった。リリティアが選ばれなかった理由は、想いが強すぎる故にパスも繋がりが強く、調整し辛いというのが理由だ。
「・・・シンシアからレンへの回路接続完了。シルディアからのは・・・今接続を確認できた。同調率は・・・シンシア65、シルディア35、ちょうど100になってる。レン、大丈夫だよ」
「・・・よし、いくよ!」
無造作に置かれた石を中心に、陣が描かれていく。
「・・・?」
その光景を見ていたリリティアは、その陣に違和感を持った。
(・・・なんか陣が錬金のと違うような・・・?)
徐々にその幾何学模様を成立させていくその陣を見つめながら頭の中の記憶の海を手繰り寄せるリリティア。精霊術式錬金の本を読んでいた時に偶然見かけたような、という記憶からだ。
「・・・あっ!レン、すぐ陣生成を止めて!シンシアとシルディアはすぐに回路切断して!」
「リリティア、どうし・・・っ!?」
シンシアが目を開けて何が起きたかを把握した時、言葉を失った。レンは完全に集中し過ぎて陣を間違えているのに気付いていなかったのだ。そして間違えて描いた陣は・・・
「・・・精霊生成陣・・・!自然の摂理を踏み外した陣がなぜ精霊術式錬金の陣に酷似して・・・!?」
「え?えっ?」
「シンシア、すぐに回路を「無理よ、陣は8割完成してる」・・・」
混乱するレンを放置する形で慌てるリリティアと冷静に無駄を告げるシンシア。シルディアもレンと同じく何が何やら、という感じになっている。
(・・・早く気付いていれば・・・!あれは自然の摂理に反するもの、レンがどうなっちゃうのか分からなくなるのに・・・!)
精霊生成陣。精霊を生み出す方法の一種で、物に生命を与え精霊とする、ある種自然に反する行い。精霊を生み出す方法で2精霊の力を混ぜて生み出す方法もあるが、それに比べると代価と労力、自然に反するという意識の存在などから行われることがまずない方法。
それを偶然レンが陣を描き、成立させてしまったのだ。既に陣の中の石ころは陣の中に沈み込み、その姿は見えなくなっている。
「・・・リリティア、落ち着きなさい。自然に反するとは言っても半分人工的なだけ。完全に人工的な精霊じゃない分レンの評価は変わらないわ。それにこれは偶然の事故、少なくとも罪に問われることはないわ・・・」
「そうだけど・・・でも・・・」
シンシアとシルディアは既に回路を切断しているが、完全に形成してしまった陣はもう消せない。効果が現れ、自然消滅を待つだけとなっている。
「・・・精霊生成陣・・・私の記憶だとその方法で生み出される精霊は使役する全ての精霊の性質を受け継いだ子になる・・・力の保有量を継ぐのか、性格を継ぐのか・・・そこはどうなるか分からないけど・・・生まれる子は少なくとも土属性なのは間違いないわ」
「・・・レン・・・」
心配しながらレンを見つめるリリティア。刹那、陣が眩い光を放ち、辺りを光に包んだ。
「うわっ!?」
『きゃああっ!!』
「くっ・・・!」
「・・・いったい・・・どうなったの・・・!?」
眩い光が消え失せ、真っ先に視力を取り戻したシンシアが見たのは・・・
・・・シルディア以上に幼さを感じる体とその体に不釣り合いなシンシア以上の大きさに思える胸、犬耳&犬尻尾を生やした少女がすやすやと眠っている姿だった。
「・・・う、生まれたばかりだから裸なのは仕方ないわね・・・。・・・けどあの子、精霊力の保有量は私並み・・・いえ、私以上なのに力の階位が下位精霊・・・どういうことなの・・・!?」
シンシアが一人思慮に耽っている間に、他の精霊2人も視界を取り戻す。レンはまだ回復していなかった。仕方ない、最も陣に近い場所にいたのだから。
「な、何この子ぉっ!?お、おお、おっぱい大きすぎるぅっ!?というかワンちゃん耳!?」
「落ち着きなさい、貴女だって悪魔の羽根があるじゃない、背中に」
「・・・」
リリティアは見た目そのままの感想を言い、シルディアは胸一点だけを見つめて絶望していた。
「・・・リリティア、貴女『女の精霊の精霊力の保有量はなぜか胸の大きさに比例する』ということを聞いた事無いかしら?」
「・・・聞いたことあるかも。というかなんで精霊の女の子の持ってる力がそこに集中するのかなぁ・・・?」
「原理は知らないけど・・・昇格した時にスタイルが一段と良くなるのは何度も見たわ。・・・けどこの子はそんなこと関係無しと言わんばかりの子なの。全ての摂理と通説を踏み躙る位に、ね・・・」
「・・・んー、けどこの子、誰のどの性質を受け継いだのかな?間違いなく力はシンシア譲りだと思うよ?」
「だとしたら髪は貴女じゃないの?灰色と乳白色じゃ違うけど、一番近い色は貴女だし」
「じゃあシルディアは・・・力に依存しない身体の部分ということ?」
リリティアとシンシアが話しあっている間に、精霊の少女は目を覚ました。
「あ、起きたみたい」
リリティアがそれに気付いてそう言った時、怯えたように周りをきょろきょろしだす精霊の少女。そしてまだ視力が回復しないで蹲っているままのレンを見つけて、四つん這いの状態で近づき・・・
「・・・♪」
「うわぁっ!?」
『あ』
抱きついた。レンからは「何が起きたの!?」と言い換えられる悲鳴が、リリティア・シンシアからは突然のことに呆けてしまった声が上がる。
「・・・今あの子が受け継いだ性質が分かったわ」
「・・・なんとなく私も分かった気がする・・・」
二人揃って同じことを言う。
「髪の色とレンに対してべったりで甘えんぼなところはリリティアから受け継いでるわね。で、最初私達を見た時に見せたあの怯え方からあの子は人見知りなのね。そこと身体つきはシルディアから。力の量は私から、ということになるのかしら?」
「・・・そう・・・かも」
「・・・私だけ1つ・・・か。羨ましいことこの上ないわね」
どこか切なそうな顔をして呟くシンシア。その言葉には何処か自虐を含んでると感じたリリティアだった。
「・・・ところでシンシア」
「何かしら?」
不意に声をかけられたが、いつもの様子で返すシンシア。リリティアも別段戸惑うこともなく言葉を告げる。
「いい加減あの子引き剥がさない?ちょっとレンを独占し過ぎだと思うんだけど」
「そうね。生まれたばかりで悪いけどレンは私のものだって認めさせないといけないわね」
「・・・私の旦那様だもん」
いがみ合う点はあったものの、共同戦線でレンに抱きついた生まれたばかりの少女を無理矢理引き剥がしたリリティアとシンシアであった。
「・・・えーっと、話を纏めると、僕が精霊術式錬金の陣を間違えて精霊生成陣を描いちゃって、それでルナが生まれた、ということでいいのかな?」
シンシアの私服を着た少女、ルナ(本名:ルナーリア)を膝に抱え(正確に言うとベッドに座った途端に抱きついてきたため、止むを得ず抱きかかえる形になっていた)、今までのことを纏めるレン。
あの騒動の後、養成所の教師一同がレンの部屋に集まり、事の顛末を問いただしていた。シンシアが全てを説明し、今回の生成陣は偶然が生んだ事故だということで決着がついた。ルナの属性を調べたところ、火属性と土属性を併せ持つという、非常に稀な「2属持ち」と呼ばれる子だということが判明した。
ちなみに名付けたのはレンで、理由は髪の色が乳白色であったことで、月長石がその色だったような、確かこんな呼び方があったような、という考えからそう名付けたのだ。言葉も完全にとは言わないが、レン達が喋っているのを聞いて覚えたらしく、一応の会話ができるようになっていた。
「それで合ってるわ。ただ、石を金に変える錬金陣をレンにやらせようとした私も愚かだった、と言っておくわ。まさか精霊生成陣と描く陣が酷似しているなんて思わなかったもの」
「すぐに止められなかった私にも責任があるよ・・・」
「・・・僕も悪い所があったんだ。集中し過ぎて間違いに気付けないでいて・・・そのまま陣を完成させちゃったから・・・わぷっ」
言葉の最中にルナーリアがギュウッ、と抱きついてきたため、言葉が詰まるレン。
「ルナーっ!!レンは私の旦那様なのーっ!!だから!だから抱きついておっぱい押し付けるのダメ―っ!!」
「やーっ!!」
「むがむが・・・」
ルナーリアとリリティアによる取り合いが起きているのを見ていたシルディアとシンシア。
「・・・あの子のレンが関係した時の我儘振りは・・・私達3人に共通する部分なのかもね・・・」
「・・・そ、そう・・・ですね・・・」
そんな2人も眉がぴくぴくと動いていた。
「ごしゅじんさまのおよめさんになるんだもーん!!」
「だから私の旦那様だって言ってるよね!?だから離して!!」
「・・・ちょっと2人とも?さっきから聞き捨てならない事を聞いている気がするんだけど?」
「・・・ご、ご主人様と結婚するのは、わ、私ですぅっ!!」
(・・・僕の意見は・・・聞いてもらえないんだろうなぁ・・・)
4人にもみくちゃにされ、そして窒息も加わって遠のく意識の中で、そう思うレンであった・・・
次回は今回生まれたルナーリアの処遇と教室での風景です。
アッシュがなんとなく火に油を注ぎました。お楽しみに!




