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12 会合~霊峰での課外授業 3 守るための戦いと恋心~

戦闘描写微妙ですけど・・・とりあえずマリュート編最後です。


レンはどうなったのか?不躾な奴は誰なのか?それは本編で。

『っ!?』



今まで取っ組み合いをしていたリリティアとシルディアは、突如聞こえた銃声に思わず音の方を向いた。そこで二人が見たものは、女性を抱きかかえて雪上に倒れているレンだった。



「レン!?」

「ご、ご主人様!?」



慌てて駆け寄る二人。見ると、右肩が着いている雪が赤く染まっていた。


































(・・・この人間、私を庇って・・・!?一体何故・・・!?)



シンシアは自分を引きこみ凶弾から身を呈して護った少年の行動の意味が理解できず、混乱していた。



「・・・ちょっと・・・失敗しちゃったかな・・・」

「貴方・・・一体如何して私を・・・!?」



シンシアは思わず聞いてしまう。それも、今までの冷静さは何処へやら、といった具合で。



「守りたい、と思ったから・・・じゃ、ダメかな・・・?」

「っ!!」



少年が答えてくれた理由に、シンシアの心は思わずときめいてしまった。普通の人間は「横取りされたくないから」などという自己中心的な理由でしか精霊を守らない。が、目の前の少年はどうか。己の体をを犠牲にしてでも自分を守ってくれた理由が『守りたかったから』というものだった。


シンシアがレンの言葉や行動にときめいていたその時、野太い声が聞こえてきた。



「・・・ちっ、あそこでガキが邪魔してくれなけりゃあよ、そこの最上位精霊の核獲れたのになぁ。核獲りのガルジャ様の名折れだぜ畜生が」



のしのしと近づいてくる小太りの男。傍らには雪山に来るには脆弱過ぎる服装な少女がいた。



「・・・貴方・・・まさか・・・!?」



シンシアは嫌な物を見たかのような目をして男・・・ガルジャを睨みつけた。





































(あの銃弾・・・眠り薬でも塗していた・・・!?眠気が・・・強い・・・!)



女性の上から退きつつも、レンは立ち上がれないでいた。強烈な眠気がレンを襲っており、それに抵抗するのがやっとといった状況なのだ。



「レン!眠ったらダメ!死んじゃ嫌だよ!!」

「り、リリティアさん、落ち着いてくだしゃっ!・・・うぅ、ひらかみまひら・・・」



右肩から血を流し、今にも眠りそうなレンを必死に起こそうとするリリティアと、術を持っているそぶりを見せながらも舌を噛んでしまうシルディア。二人ともテンパっているのは明らかだった。



「ご、ご主人様、すぐ治療します!え、えと、「癒しの降雨ヒーリング・レイン」!」



水属性特有の治癒魔法を雨状にして放つシルディア。その雨は凍ることなくレンに降り注ぐ。



「り、リリティアさん、ご主人様は私が看ます、だから・・・だから・・・!」

「・・・分かった、レンの仇は私が討つ!」

「・・・ご主人様、死んでませんよ・・・」



リリティアが(軽くボケてシルディアに突っ込まれながらも)ガルジャをキッと睨みつける。



「おーおー、よく見りゃ準最上位精霊がいるじゃねぇか。こいつらの核抜いて金にしたら大儲けだな、へへっ」



笑みを浮かべ、再び銃を構えるガルジャ。



「・・・下種が・・・!」



女性が吐き捨てるように言う。



「あー、でもダメだな、そこの準最上位は使役者がいるのか・・・じゃあ殺すか」



ガルジャが吐き捨てるように言った時、リリティアの堪忍袋の緒が切れた。



「・・・殺す」

「あ?」



リリティアの周りから殺気の籠った魔力が溢れ出ているのを気付いていないガルジャ。



「・・・顕現せよ、全てを射殺す魔性の槍よ」

「ちっ、面倒だ、あいつを狩るぞ、ナジャ!」

「は、はい・・・」



ナジャと呼ばれた薄着の少女が前に出て、彼女もまた詠唱を始める。



「全ての者に、安らかなる眠りを・・・永久の命に癒しを与えん・・・」

「我が呼びに応え、その魔を振るいて全てを屠れ!」



そして同時に詠唱が終わる。



眠りの樹木スリーピング・フォレスト

殺戮の魔槍デモンランス・ジェノサイド!」



ナジャの背後から巨大な樹木が現れるのと同時に、ガルジャらの影から黒色の槍が飛び出す。



「ちっ」

「あうっ・・・」



ガルジャは銃を犠牲にして咄嗟に回避、詠唱効果発動待機中のナジャは避けることが出来ず、右足を貫かれて倒れ込んでしまう。同時に後ろに現れた樹木は消え失せてしまった。



「くそっ、安値で買った樹木属性の精霊だったからな、弱いのは当然だったか」

「うぅ・・・っ・・・」



足を貫かれ、地面に倒れ込んで動けなくなっているナジャに近づくガルジャ。



「『開け』」

「・・・うあぁっ!?」



小さくガルジャが呟いた直後、ナジャから苦悶の声が上がる。



「役立たずな精霊からは核を抜いて売るのが最善だな」

「あ・・・や・・・やめ・・・て・・・」

「止めるかよ、格は大事に撃ってやるから、お前はこの辺で適当に野垂れ死んでおけ」



そういった瞬間、ナジャの胸をガルジャの腕が貫いた。



「・・・まさか、核を!?止めなさい!下手したらその精霊死ぬわよ!」



女性が慌てて制止に入るが、ガルジャは聞く耳持たず。



「あ・・・あぁ・・・うあぁ・・・」

「・・・お、あったあった・・・核は・・・いただく・・・ぜっ!」

「あぁあああああああああああああっ!!」



悲痛とも取れる悲鳴を上げるナジャから抜かれる腕。その腕には黄緑色の水晶が握られていた。直後、糸の切れた人形の如く倒れ込むナジャ。



「・・・最低・・・!精霊を道具としか見てない奴の典型的パターン・・・」

「・・・本当に最低だよ・・・!精霊は・・・人間と同じ・・・生きている存在なのに・・・!」

『っ!?』



不意に聞こえた声に、全員がその方を向いた。そこには足元をふらつかせながらも立ち上がるレンが。



「レン!」

「あいつは・・・絶対に許さない・・・!僕が・・・僕が倒す・・・!」

「えっ・・・」



足元がふらついているのにもかかわらず、『倒す』と宣言するレン。



「ご、ご主人様、無茶はダメですよ!」

「多少の無茶は・・・やらないと果たせないものもあるっていうの・・・知ってるから・・・!リリティア・・・」

「え、な・・・何・・・?」



いつものレンとは違った雰囲気の彼に、気押される形で返事を返すリリティア。



「剣に魔力付与をお願い・・・」

「う、うん、わかった!・・・我に宿りし闇の結晶チカラよ、力を欲す我が主に宿りて真価を発せ!」



レンが剣を抜いたのと同時にリリティアが魔力付与の詠唱を始める。そして、構えるのと同時に剣が黒く染まる。



「戦いも知らねぇ青臭ぇガキが大人に敵うわけがねぇんだよ!!」

「はぁぁぁああああああっ!!」



闇の魔力を持つ剣を両手に提げて走るレンと、対抗するように突き出して走るガルジャ。



「・・・レン・・・勝って・・・お願い・・・!」



見ていることしかできないリリティアは、レンの勝利をただ祈る。


そして刹那、二人が互いの横を通り過ぎた。



「・・・どう・・・なったの・・・!?」



女性が思わず呟いた時、レンが片膝を着いた。



「レン!?」



リリティアが悲痛な叫び声をあげたのと同時に、ガルジャがどう、と倒れ伏した。










































「・・・ナジャ、だったかしら?あの子の核を取り戻してあげないと・・・」



シンシアがそう言いながらガルジャに歩み寄る。



「・・・終わりの氷結エンド・フリーズ



呟いた瞬間、ガルジャの両手両足が凍りついた。シンシアはそのままガルジャの服のポケットを漁り、黄緑色の結晶・・・ナジャの精核を取り出した。



「精霊は精核さえ戻せばまた精霊として蘇る・・・。あの子がまた精霊として生きていけるのも貴方のお蔭よ、レン・・・」



シンシアはリリティアが読んでいた名でレンのことを言い、ナジャの胸に空いた穴に、核を戻した。



「下賤な奴だったわ、あの男は。・・・穴を開けたまま放置なんて正気の沙汰じゃない・・・『閉じろ』」



呟いただけでナジャの穴は消え失せる。



「・・・うっ・・・」

「・・・よかった、幸いにも凍傷を起こしてない・・・。大丈夫?」



ナジャを抱え起こすように抱きあげるシンシア。その元で弱々しく頷くナジャ。



「だい・・・じょうぶ・・・です・・・」

「そう」

「あ、あの・・・」



弱々しく語りかけてくるナジャに、シンシアはそれを拒もうとせず耳を傾ける。



「助けていただき・・・ありがとうございました・・・」

「・・・お礼は・・・」



シンシアは視線をナジャからレン達の方へ向ける。



「彼にちゃんと言いなさい。貴女の核が抜かれた直後、傷も治ってないのに立ち上がって、ガルジャを倒したのだから」

「・・・は、はい・・・」



シンシアがナジャを改めて見た時、あることに気付いた。ナジャの顔が心なしか赤くなっていることに。



(・・・そういうこと。道具として、じゃなくて家族・仲間・友達として契約する。それができるその大元が彼の場合・・・精霊が彼を好きになっちゃったから、ということなのね)



そう考えると自分の心臓がちょっとだけ早く動機することに気付く。



(・・・そして私も・・・彼に・・・レンに惚れちゃった女の子・・・か)



ナジャの気付かない所で苦笑いをするシンシア。霊峰に君臨していた人嫌いな氷の女王の、固く閉ざされた氷のドアが溶けて、彼女の心が露わになった瞬間だった。


































「レン、大丈夫!?」

「・・・ちょっと傷増やしちゃったかな・・・痛た・・・」



左肩をガルジャの攻撃で軽く切ったレンは殆ど愛想笑いでリリティアに返した。



「ご、ご主人様、あ、あまり無茶しないでくださいよぉ・・・」

「ご、ごめん」



シルディアがぷくっ、と頬を膨らませて抗議の言葉を告げた時、すぐに謝るレン。同時に女性が近づいてくるのが分かった。



「・・・今度は何をする気?」

「なにもしないわ。ただ、色々と言いたいことがあるの」



そう言い、レンの前に座り込む女性。



「まずは・・・あの子。あの樹木属性の精霊の子が助けてくれてありがとう、って。」

「そんな・・・お礼を言われるようなことはしてないよ」



恥ずかしげに左手で頬を掻くレン。左肩が痛むが、敢えて気にしないでおいた。



「それと・・・お願いがあるの」

『お願い(・・・ですか・・・)?』



同じ言葉で疑問を投げかける三人。



「そう。二つあるの。まず一つは・・・私のことをシンシア、と呼んで欲しいの」

「シンシア・・・それが・・・名前?」

「ええ。そして、もう一つが・・・その・・・」



女性・・・シンシアが今まで見せた姿からは想像できないほど俯いてもじもじし始め、決心したかのようにレンの方を向いていった。



「わ、私の氷を貴方の熱で溶かしてほしいの・・・」

「・・・え?」

『ええぇっ!?』



言葉の意図が理解できないレンと、理解できて大声を上げるリリティアとシルディア。



「そ、それって、つまり、その・・・」

「こ、こういうことよ・・・」



ズイッ、と身を乗り出すシンシアに呆気に取られたままだったレンは、そのまま唇を奪われた。



「ああああああっ!?!?」

「ご、ごしゅじ、そ、そんにゃ・・・あふぅ・・・」



リリティアはこの世の終わりだ、と言わんばかりの絶叫をし、シルディアは目の前のことが信じられなくなったのか失神した。ちなみにナジャは羨ましいな、という目で二人のキスを眺めていた。



「・・・な、な、な・・・」



唇が離れた後も、レンは自分に起きたことが理解できずに混乱していた。直後にシンシアはレンに抱きつく。



「貴方の事を・・・永久に愛し続けたいの・・・。たとえ貴方が嫌だ、と言っても、私の心はもう、貴方のものだから・・・」



恋を知らぬ女性が純粋な気持ちで言った、己の本心。レンはそれに困惑するだけだった。



「ダメっ!ぜぇったいっダメっ!!ぜ――――――――――――ったいに渡さないもん!!」

「痛いっ!?」



嫉妬したリリティアがグイッとレンを引っ張り上げてシンシアから引き剥がす。その時レンのことを考えていなかったため、レンは思いっきり痛いと叫ぶ。



「・・・レンは貴女のものではないのよ?それに・・・ふふっ」

「な、何よ」



クスっと笑うシンシアを睨みつけるリリティア。



「そんな未発達の体じゃレンを喜ばすことなんて到底無理ね」

「みはっ・・・!?発達してるもん!おっぱいだって大きいし!Fあるもん!」

「ちょ、何カミングアウトしてるの!?」



遠くから喧嘩を聞いていたナジャですら顔を赤くするほどのカミングアウト。間近で聞いたレンの恥ずかしさは海溝よりも深かった。



「あら、Fで発達してるっていうの?私はHよ?」

「んなっ!?」

「こっちもカミングアウト!?」



シンシアからもカミングアウトされ、レンは既に恥ずかしさが限界突破していた。



「あ、あのー、気失ってる子は大丈夫なのですかー・・・?」



ナジャの呟きは虚空に響き渡るだけで、依然口論を続けるリリティアとシンシアに届くことはなかった・・・






























どうにか復活したシルディアが緊急信号を打ち上げ、教師陣に救出してもらった。その際シンシアがついてきたことから周りが騒然としたが、一睨みで鎮静化した。



さらに余談だが、レンが二人の取り合いから解放されて意識を取り戻した時、目の前にいたのは顔をボロボロにさせたアッシュだった。その理由が、氷の精霊(幼女)に懐かれたことに嫉妬したネフィにフルボッコにされた、ということだった。

今日も順調にフラグを連立させるレン。彼に休息の時間はあるのか?



答えは否。なぜなら私がそのつもりが無いから(マテ)。


次回は帰ってきた翌日のことになります。三竦みの戦い、その結果は如何に?

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