10 会合~霊峰での課外授業 1 氷の洞窟と少年少女~
今回からある意味新章です。
霊峰マリュートでの出会い、そして事件。
レンはどう動くのか?お楽しみにということで霊峰マリュート編、今回はその1です。
アッシュがネフィにフルボッコされたその日の午後、担当教員が話をした。
「明日から2泊3日の課外授業として霊峰マリュートへと向かう。朝8時にグランドに集合。いいな」
『はい』
全員が返事をした中、レンは一人あることを考えていた。
(・・・あれ?霊峰マリュートって・・・リリティアが何か書いていたような・・・)
そして教師の「寒いから厚着を用意しておけ」という言葉と共に、講義が本格的に始まった。内容は・・・その行き先である「霊峰マリュート」についての事前説明だったが。
そして翌日8時。1期生全員がグランドに集合していた。全員が全員、大きめの旅行用鞄を持っており、中には厚着のための服やらコートやらがたくさん入れられていた。
レンも例外ではなく、彼もまた大きめの旅行用鞄に大量の服・下着・コートなどを入れていた。ちなみに彼だけはよりサイズが大きく、その理由が彼が契約した二人の精霊の物である。
「マリュート・・・聞いただけでも寒かったのに・・・どれくらい寒いんだろ・・・」
「大丈夫だよレン」
半分体を震わせているレンに、リリティアが大丈夫だと言った。
「寒くなったら私がレンを暖めてあげるから♪」
「・・・その余裕があったらね・・・」
「わ、私も、ご主人様を暖めましゅ!」
シルディアの健気な一言に思わずカチンときたリリティアは、やっぱりというかなんというかで、すぐにシルディアに食ってかかった。
「レンを暖めてあげるのは私の役目なの!ただのメイド給仕な水精霊はご飯作ったりとかしてればいいの!!」
「ぴぃっ!?」
凄い剣幕で怒鳴るリリティアに裏返った声の悲鳴を上げるシルディア。力の差が歴然だ、というのもあるが、やはり内気なシルディアにとって、他人とは怖いものであった。
「リリティア、あまりシルディアを怖がらせちゃダメだよ」
「でも・・・」
「大丈夫だよ、ちょっと寒そうに思っただけで厚着用のコートをちゃんと複数入れてあるから」
その言葉にレンがちゃんと耐寒用の備えをしていたことに嬉しさと自分を頼ってくれないことへの不満が同時に出るという、不可解極まりない顔をしたリリティアだった。
養成所から駅まで歩き、マリュートの麓の村まで列車で1時間。その村の入り口で教師は「ここを拠点として3日間の課外授業を行う」と言った。
「レン、どうしたの?」
「え、あ、ううん、なんでもない」
話が終わった後もぼーっとしていたレンに、リリティアが抱きつき顔を覗き込んで聞いた。レンはそれに対してなんでもないと返す。
「ご主人様・・・も、もしかして、何か感じてるのでは・・・?」
「シルディアも心配してくれてありがとね。本当に大丈夫だから」
「はぅ・・・」
感謝され、顔を赤くして俯くシルディア。その様子を見ながら、レンは自分が自分が思ったことをただの思い過ごしだ、と思うことにした。
一方その頃。
「シンシア様、人間がまたこの地に」
「・・・また、ね・・・」
シンシアと呼ばれた女性は、ふぅ、と溜息を吐いて報告に来た少年に向き直る。
「それで、その人間はどれくらいの規模?」
「恐らく150は下らないかと。それに精霊を連れております」
「・・・養成所、か・・・」
ぼそっと呟くシンシア。そこに少年が追い打ちをかけるように報告した。
「その一団の中に、どうやら準最上位の精霊を使役する人間がいるようです」
「・・・準最上位を・・・ふぅん・・・」
興味があるようなないような、そんな返事を返すシンシア。
「・・・「遠見の氷」」
目の前に氷の塊を作り上げたシンシアは、その氷に映るものを見る。その氷にはマリュートの麓にいる養成所の生徒たちが映っていた。
「本日はマリュートの中腹まで登る。この地には最近存在が判明したとされる氷の最上位精霊が住んでいる。流石に無いとは思うが、万一遭遇した場合は極力逃げるように。絶対に戦いを挑んだり使役しようなどと思わないことだ」
マリュート入り口にて、担任が全員に告げた。
「・・・さっきから見られてるような・・・?」
レンはそんな中、周りをきょろきょろしていた。誰かに見られているような気がして。
「・・・レン、またきょろきょろしてる!」
「ちょっと、ね・・・」
レンがリリティアの頬膨らませを宥めようとしている間、シルディアもまた、同じようにきょろきょろしていた。
「・・・誰か見てる・・・?」
「・・・ふぅん・・・。嫌々使役されているってわけでもなさそうね・・・あの子」
遠見の氷からリリティア・シルディアを見ていたシンシアは、そう感想を呟いた。人間と共に居るのにも関わらず、幸せそうにしているからだ。
「・・・あの人間に接触してみる価値はあるわね」
「シンシア様!?」
会う、と宣言したシンシアに、付き人の少年は思わず声を荒げた。
「危ないです!いくら精霊が幸せそうにしていても相手は人間、危険なことに変わりはありません!」
「大丈夫よ。それに・・・」
シンシアは自分が住む白の王座の間の入り口まで歩き、そこで付き人に顔を向けて一言言った。
「万一に無理にも契約してこようとしたら殺すだけよ」
生徒たちはマリュートの中腹までどうにか辿り着いた。中には途中で体力切れを起こしてへたり込む生徒がいたが、その生徒は契約した精霊が一緒になって中腹まで登ってきた。そこで各自自由行動となった。ただし、契約だけはしてはいけないという厳重注意と共に。
レン達は全員とは離れ、近くの氷の洞窟へと来ていた。
「・・・きれー・・・」
「凄いですぅ・・・」
「お父さんから聞いた話なんだけどね、ここの洞窟って風通しがいいから壁が凍ってこんなふうに幻想的な雰囲気を醸し出してるんだって」
氷で覆われた洞窟の中に入っていく三人。時間も限られているから、とそこまで深く入らないようと思いながら進んでいたその時だった。
「・・・準最上位の闇精霊を使役する人間・・・一体如何してその子を手懐けたのか教えて貰えないかしら?」
背後から凛とした女性の声が聞こえたのは。
次回は霊峰マリュート編(勝手に名称付けました)その2、レンとシンシアが対峙します。レンと共にいるリリティアのことで。そして事件が。
とりあえずシンシアについては設定等出来あがっておりますので、このマリュート編が終わり次第、キャラクター紹介と称したものを載せます。
ではまた次回。感想お待ちしてます。




