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クロマグロ

作者: スグル


私は、ある日、高校をサボった。

なんというか、勉強するのがやだったし、学校に友達はいなかったし、進路を考えると頭痛がした。

だから、親に仮病を使い休んだ。

部屋で、引き籠もって、テレビを見ていた。

すると…。


「さぁー、始まりました。『お料理、萌えー!』の時間ですー!」


むかつくくらいに、アナウンサーがキッチンに立ち、明るく声を出す。

そういえば、この昼の時間は、料理番組をやっているのか…。

臭いメロドラや、ワイドショーには興味がなかったので、チャンネルをそのままに見ていた。


ブラウン管の中では、アナウンサーが…。

「さぁーて、今日のお料理の先生は、濁汁料理学校講師、黒鮪黒陰くろまぐろ くろかげ先生です」

なんだ、その灰汁抜きの練習が多そうな料理学校の名前…。

すると、ポップな音楽に合わせ、目の下のクマがすごい若い長髪の男がキッチンに現れた。

こいつが、黒鮪黒陰先生とやらか…。

「みっ…、なっ…、さん、こん、にちは…」

テレビの音声さんに迷惑掛かるくらいの小さい声で、挨拶した。

料理の先生にしては、暗すぎるぞ…。

「先生、こんにちはー!!」

アナウンサーが挨拶を返すと、彼はボソボソ…、となにかを呟いている。

なにを言ってるんだ…。

音声さんでも、拾えない声出すなよ…。

「先生、今日のお料理は?」

話し進めちゃったよ…。

なんだ、料理番組にしちゃ暗いぞ…。

例えると、ラーメン屋で一人だけ、ざるそば食べた時みたいな…。

「今日の…、お料理は…、『綿棒』を焼きます…」

!?

「先生、なにを言ってるんですか!?」

アナウンサーが、本気で焦ってる。

「耳に…、入れる…、奴ですよ…。鼻に…、入れる…、奴じゃないです…」

「そう言うことじゃないです!!!」

どっちにしろ、綿棒は食べれないやろが!!

なんだよ、お前の言い分だと、耳に入れる奴は焼けば食えるのか!!

「綿棒…、嫌い…、なんですか…?」

黒鮪は、残念そうに言う。

嫌いとかのレベルじゃないだろが。

就職希望先の面接官が、そんなこと言い出したら、ダッシュで帰る。

「じゃあ…、目玉焼きを作りましょう…」

黒鮪は残念そうに、料理を変えた。

いや、目玉焼きなんて、料理番組でやらんでもいいだろ…。


黒鮪は、フライパンに油を敷く。

そして、火を点けた。

「いいですか…、目玉焼きを作ります…」

やっと料理番組らしくなってきた。

しかし、こいつ暗いな…。

「あの…、アナウンサーさん…」

黒鮪は、フライパン片手にアナウンサーに弱々しく声を掛ける。

「はい、なんでしょう?」

明るくアナウンサーは、答える。

「僕、こないだ…、ネズミ王国行ったんですよ…」

ああ、あのテーマパーク。

なんだよ、こいつ楽しい話題があるんじゃないか。

「お友達と?」

アナウンサーが、そう聞くと…。


「一人で行きました…」


アナウンサーは、黙り込む。

テレビから音が、まったく聞こえなくなった。

しばらくして、黒鮪が、卵を取り出し…。

「さぁ…、焼きますよ…」

そう言うと、アナウンサーが笑顔を取り戻し…。

「あっ、はい、そうですか!はい!」

必死だ。

グッヅジョブ、アナウンサー…。

ジュウジュウ言う、フライパンを前に、黒鮪が…。

「いいですか…、目玉焼きの醍醐味は…、黄身を割らないことです…。食べる前に、目玉焼きの黄身を割るという行為をするものは、オーソドックスに海で溺れればいいんだ…」

なに、言ってるんだ…。

アナウンサー、ひいとるがな…。

そう言い、彼はフライパン目がけ、卵を割った。


ベチョッ


フライパンの上で、黄身が割れた。

「…」

「…」

テレビの中で、二人とも黙り込んだ。

黄身が、白身にへばりつく。

僕は、泣きそうになった。

『彼は感情のない子です。将来が不安です』

と、小学校時代に言われた僕の目から、なにかが込み上げる。

テレビでは、黒鮪が一人で、ブツブツと喋っている。

「そっ、そんなっ…、こんなっ…、こんなつもり…、つもり…、じゃあ…」

爪を噛んで、ガチガチ硬直している。

噛んだ爪から、血が出てきてる。

そこまで、噛むなよ!そんなに思い詰めなくてもいいよ!!

アナウンサーは、もう喋りもしなかった。

「僕なんて…、左脳はじけろ!!」

初めて、彼は大声出した。

そして、そのまま、キッチンから立ち去って行く…。

「先生!せんせぇえええーーー!!!」

アナウンサーが、大声で叫ぶ。

僕は、塞ぎ込んで泣いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルに並々ならぬ親近感を覚え、やって来ました。マグロ頭です。 黒鮪黒陰先生、いいキャラしてますね。どうして、料理番組なんかに出ることになったのでしょうか?気になるところです。また、黄身が…
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