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タイム・アウト  作者: ハロル・ロイド
8/23

小屋の男

 ソファーの背もたれに体を預け神部は首をユックリと回した。

 一昨日からほとんど睡眠を取っていない神部だった。

 壁にかかっている時計に神部の目が止まった。

 「止まっている。十二時で止まっている」神部は辺りを見渡した。

 時刻を刻む全ての時計に目をやった。

 掛け時計、置時計、時計と言う時計が全て止まっていた。


 「この部屋の時計までもが止まっている。どういうことだ」


 角田が戻ってきた。

 「奥様は今日一晩、酒井様の奥様に付き添われるとのことです」

 「分った、で、酒井君の容態は変化なしか」

 「はい、集中治療室で完全看護の状態です。一週間がヤマかということです」

 「一週間か」

 神部は大きくため息をして立ち上がった。

 「時計が止まっている。直しておいてくれ」

 「えっ、あっはい。分りました。直ぐに、でも、どういうことでしょうかね」

 「何が」

 神部は首を傾げる角田に問うた。

 「はい、さきほど病院の待合室で、時計を見ましたらやはり、十二時で止まっていたんです。しかも私の時計もです。どういうことでしょうか」


 何か得体の知れないものが忍び寄ってくる、神部はそんな不安な気持ちになった。


 ぼんやりとした朝。まだ朝日が顔を出さない空が少し青みを帯びた早い時間。


 ここは、川沿いの土手の道。


 車一台分の道幅はあるが


 舗装されていないため、

 地面はところどころ凹凸に波打っている。

 真昼でもめった人も車も通らない。


 土手の近辺は田畑らしき土地が広がっているが誰も耕す者はいない。

 荒れ放題で子供の背丈程の雑草が生い茂っている。

 そして今にも朽ちそうな小屋がポツンポツンと見えるだけの寂しい場所だ。


 ただ、川のせせらぎが心地よい音を奏でている。


 浩二はいつものように口笛を吹きながら自転車を漕いでいた。


 白木爺さんから借りている小屋に向かうところだった。


 つい先日、助監督の森からある小道具を造ってくれと頼まれた。


 今回頼まれた物は銃だった。ワルサーP38と、ルガー。年式も注文に入っていた。


 わざわざ銃を網羅した分厚い本を森から渡された。


 それを参考にしろという事だ。


 今回は鋳物技術が決めてになる。時間も限られているので早めに着手しなければ間に合わない。


 しかも今度の成功報酬は今までとは桁が違う。


 自然と口笛が出る報酬なのだ。


 電信柱に取り付けられた粗末な蛍光灯の灯りがパカパカと点滅しているのが見えてきた。


 その電柱のすぐ側、草が伸び放題の畑が白木爺さんの土地だ。その畑のほぼ中央に、草で半分隠れた小屋が浩二の仕事場だ。


 畑の中には、人一人が通れるぐらいの草を刈り取った道がある。

浩二はその通り道を自転車を引きながら進んだ。


 浩二はフト足を止めた。


 「ん?明かりが点いている。誰かいるのかな」


 窓のカーテンの隙間から明かりが漏れていた。


 「泥棒?それとも白木の爺さんか?」


 首を捻りながら浩二は小屋にユックリ近づいた。


 自転車を置き、ドアの鍵穴にキーを差し込み回した。抵抗なく鍵が回る。


 鍵はかかっていない。


 浩二はユックリとノブを回しドアを開いた。


 白いシャツを着た男が後ろ向きで何か作業している。


 「ここで、何やってるのだ」浩二は小さく呟いた。


 白いシャツの男は夢中で作業を続けている。

 小屋の中を見渡せば 今まで神部が使っていた作業場の風景じゃない。


 しかも揮発性の溶剤のような臭いが、部屋の中に充満していた。


 男は黒い車体のバイクを白に塗り替えようとしているのだ。


 俺の仕事場で何をやっているんだ?


 浩二はだんだん腹が立ってきた。俺が借りている仕事場を勝手に模様替えして使用するなんて普通じゃない。


 神部はそっと小屋の中に入った。


 男は気づくこともなく刷毛でバイクを白く塗り替えていた。


 神部は机の上に置いてある金属のバールのような物を掴んだ。


 これで少し心強くなった。

一呼吸おいて、神田は叫んだ。

 

「おまえはだれだ!」




 途端 作業中の白シャツの男が動きを止めた。


 そしてユックリと後ろを振り返り始めた。


 神部は、男の顔を見て思わずバールを落とし大声を上げた。


 神部はソファーから飛び起きた。

 いつの間にかソファーで横になり眠ってしまったようだ。


 大きく深呼吸をし、息を整え額の汗をぬぐった。


 「夢か・・・」


 その白シャツの男の顔を見たが、夢から覚めるとその顔の記憶が消えてしまう。


 この夢は最近よく見る。


 だが一体あいつは誰だったんだろうか。

 そう思いながら、神部は苦笑した。



 所詮、夢の中の出来事なんだ。












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