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タイム・アウト  作者: ハロル・ロイド
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止まった時計

 「アキ、さっきデッカイ流れ星が夜空を横切ったの見た?」


 「流れ星?」


 「ああ、流星さ…」 若者は自慢げに夜空を仰いだ。


 「知らない、夜空を見てるどころじゃなかったもん」


 「それもそうだ。必死に逃げてる最中だったからな。すごくきれいな流れ星だったぞ」


 「何ニヤニヤしてるの?」


 「うん、願い事が叶うって言うだろう?」


 「願い事?へえー、コウちゃん願い事したんだ」


 「何笑うんだよ」


 「だって、顔に似合わないことするんだもん」


 「この顔は願い事する顔じゃないって事かい」


 「そうは言ってないわ」


 「そう聞こえたよ」


 「案外ロマンチックなところがあるのねって感心したの」


 「ロマンチックか」


 「で、どんな願い事したの?」


 「当ててみろよ」


 「当てたら何かくれる?」


 「おい、なんだよ。貧乏人に向かってよく言うね、そうやって客にオネダリしてるのかい」


 「ねだらなくてもくれるわよ。わたし、高級クラブのナンバーワンホステスなのよ」


 「はい、はい」


 「願い事が分ったわ、お金持ちになりたいって願ったんじゃない?」


 「ええ?何で分ったんだ」


 「何でって?当たったわけ?フフフ、コウちゃんホントに単純なんだから」


 「ただの金持ちじゃない、日本一、いや世界一、いいや宇宙一の金持ちだぞ」


 「へえ、面白い」


 「何が面白いんだ、真面目に祈ったんだ」


 「きっと叶うわよ、コウちゃん真面目なんだから」


 「真面目か、真面目な奴は金持ちになれるのかい?」


 「そうね、もう一つ条件があるけどね」


 「なんだい?その条件って」


 「意地の汚さ…」


 「意地の汚さ?じゃあ、俺は無理だ。汚いもきれいも意地自体どっかに落っことして、今持ち合わせが無いんだ」



  ジェットヘリは猛スピードで目的地に向かっていた。

 神部浩二は窓の外を黙って眺めていた。


 「何を考えているの?」

 ぼんやりと窓の外を眺め続ける神部に、心配そうな顔で昭子は尋ねた。


 「いや、つい先、流れ星を見たんだ。それを見たときあの時のことを思い出したのさ」


 「あの時の事?」


 「ああ、四十年以上前の話さ。アキが夜中に帰宅する時、チンピラに絡まれた時があったろう」


 「え?チンピラに絡まれる…」


 「ああ、俺がたまたまそこを通りかかったから、難を逃れたんだぜ。忘れちまったのか」


 「そうだったかしら…でも、そんな昔のことよく覚えているわね」


 「覚えてるさ。俺の人生のターニングポイントがあの時なんだから。しかし、アキが忘れているとは驚いたね?」


 神部は苦笑しながら窓の下を見下ろした。


 そこには街の灯りがキラキラと星のように輝いていた。


 「おかしいわ」


 「どうした?」


 「時計が止まっているの」


 「時計?」


 「どこかでぶつけて壊れたんだろう」


 「そんなことない。手首の内側に嵌めているものぶつけるはずが無いわ。まだ買って新しいのよ。一ヶ月も経ってないのに。故障するはずなんかないわ」


 「また買えばいいさ」


 「私の時計だけでなく、ほら備え付けの時計も止まっている。壁時計も、電波時計も」


 神部は自分の腕時計を確かめた。

 「俺のは止まっていない」


 「ほら見て、全ての時計が十二時で止まったままよ。長針も短針も全部十二をさしたまま」


 神部は昭子の時計と室内の全ての時計を見比べた。

 確かに12時で止まっていた。


 「昭子、これは単なる偶然だよ」


 「偶然?ホントに偶然なの。私達が未来を変えようとしたから何かが始まったんじゃないの」


 「何かってナンダイ?」神部は尋ねた。


 「分らない。でも…」


 「アキ、心配するな。第一俺の時計は止まっていない。だから何も起こるものか。起こるんだったらもうとっくに起きてるはずさ」

 二人が予想していた、世界が消滅するという最悪のシナリオはまだ起きていない。

 

 「そうね」 昭子はユックリと頷いた。どうやら落ち着きを取り戻したようだ。


 そんな昭子を見つめながら神部は思った。確かに、「車の事故」だと白木の爺さんは言った。この事は昭子も知っている。

 なのになぜ、風呂場で倒れたのだ。

 神部は頭の中で時間をまき戻し過去の出来事を一つづつ思い起こした。


 昭子は昭子で神部の言葉に違和感を覚え始めた。


 私がチンピラに絡まれた?他の女性と勘違いしてるんじゃないの。それに私のことをアキ?何故、今頃その名前を言うの?


そう思いながら昭子は、神部の横顔を見つめるのだった。



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