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タイム・アウト  作者: ハロル・ロイド
10/23

白木爺さんの秘密

 新幹線で名古屋駅を降りた白木は付き物がついたようにある場所に突き進んだ。地下鉄を乗り継ぎ、ある駅で降りた。


 「白木さん、あんた名古屋の出身かい?よく知ってるね」

 神部はサッサと歩く白木爺さんの後を必死に追った。


 白木は途中何を思ったのか売店で傘を買った。

 「爺さん,こんなに晴れてるのに傘なんかもったいないよ」


 白木は神部の忠告を無視し、傘を片手に駅近くの公園に入った。


 「神部さん、これから私の言う事をよく聞いてほしい。そしてこれから起こる事実をよく見てほしい。いいかい」白木は懇願するように神部に言った。


 今まで白木のこんな真剣な表情を見たことがない。


 神部は頷いた。


 「今何時だい」白木は尋ねた。


 神部は腕時計を見た。


 「もうすぐ三時になるよ」


 「そろそろ、高校生風の若者がこの公園に入ってくる。学生服の色は、ネズミ色。独特の色だからすぐ分かる。学生は黒縁のメガネを掛け、ズボンのポケットに両手を入れてやって来るはずだ・・・・」


 白木がそう話し終わるや否やその学生が公園内に現れた。


 学生服はくすんだグレー、確かにねずみ色だ。


 黒ぶちのメガネを掛けている。両手をズボンのポケットに忍ばせていた。


 「どうして…」神部は呟いた。


 「もう直ぐ反対側の入り口からチンピラ風の男が三人入ってくる」


 「えっ?」


 そう言った、まもなくその風体の男が三人、別の入り口から公園に入ってきた。


 「三人の内の赤いジャケットの男とあの学生の肩が触れる。それを因縁に学生はけんかを吹っかけられるんだ」


 白木は下唇を噛みその学生を見つめた。


 ナレーションを読むような口調で話す白木。

 まるでドラマのワンシーンを見てるようだと、神部は錯覚した。

 ヒョッとするとこれは映画の撮影で白木爺さんはこの撮影のエキストラとして出ているのかと疑い始めた。

 遠めで映写機が俺達を狙っているのではないかと神部は周りを見渡した。



 赤いジャケットを着たサングラスの男は肩を揺らしながら学生に向かっていた。


 男の肩が学生の肩に触れた。


 突然、公園内で大声が響いた。


 「おい,なにするんだよ!肩が脱臼したじゃねえかよ。いてエー」


 「ひでえなあ。こりゃあ全治一ヶ月の重傷だぜ。お兄ちゃん、どうするんだよ。ダチが痛がってるじゃねえか」


 仲間の一人が大袈裟に喚いた。


 学生は横目でそれをチラッと見、無視して通りすぎようとした。


 すると、頭を丸坊主にした男が学生の両肩を掴み振り向かせようとした。


 学生はそれを振り払い足早にその場を去ろうとした。

 

  赤いジャケットの男は素早く学生の前に立ちはだかり脱臼したと言い張った右の腕で学生の胸倉を掴んだ。


 「てめえ,学生の分際で!礼儀って言うのをしらねえのか」

学生とほとんど歳は変わらないようなその男は左手の拳で学生のみぞおちを突き上げた。


 学生は体を折り曲げ地面に膝をついた。

 突然今まで晴れわたっていた空が黒雲に覆われた。


 そして大粒の雨がかわいた地面に土埃を上げながらポツ、ポツと落ち始めた。


 白木は傘をさし、神部の方に寄った。


 季節はずれの夕立が雷を伴って襲ってきたのだ。


 雨の中を三人のチンピラは寄ってたかって学生を痛めつけた。


 サンドバック代わりに、サッカーボール代わりに拳と足が学生の全身を襲った。


 「一体いつまでやりゃあ気がすむんだ」神部は舌打ちをした。


 「大丈夫だ。もう直ぐ誰かが助けてくれる」白木は言った。


 「誰かってそんなの待ってたらあいつ、やられるぜ」と、言うが早いか神部はチンピラの方に向かった。


 白木は神部の走る後姿を見つめて言った。

 「助けてくれたのはあんただったのか」


 神部は勢いよく飛び上がり、赤いジャケットの後頭部めがけ、思いっきり右肘を打ちつけた。


 鈍い音と共に赤いジャケットの体は宙に飛び地面に叩きつけられた。


 すかさず神部はもう一人、坊主頭の両目に右手の指を突き刺した。


 指は第二関節まで眼窩にめり込んだ。


 坊主頭はのけぞりながら仰向けに倒れた。


 もう一人の男は神部の目にも止まらぬ攻撃を見て腰を抜かしていた。


 雨は周りの視界を遮っていた。


 神部は素早く体を移動し尖った革靴の先で勢いよく、腰を抜かした男の米神を蹴り上げた。


 それは一瞬の出来事だった。、



 三人のチンピラは地面で倒れたままだった。


 雨が少しづつ止みはじめた。


 神部は、びしょぬれの高校生を助け起こそうとしたが、高校生はその手を振り払い、よろけながら自力で立ちあがった。


 「大丈夫か?」


 学生は俯いたまま無言でお辞儀をし、回れ右をして片足を引き擦りながらその場を立ち去った。


 神部はその学生を暫く眺め、白木の元に駆け寄った。


 「あいつ大丈夫だろうか」


 「大丈夫。少し顔面は腫れるが二週間で治るさ」


 「なんで、それが分かるんだ。・・・・あんたの言ったことが眼の前で現実になっていく、一体どうして?白木さん一体これはどういう事なんだ」




 白木は神部の顔を見つめボソリと言った。


 「実を言うとあの学生は私なんだ」

 

 「はあ?あの学生があんた。何言ってるの。意味不明だよ。じゃあ、あんたは一体誰なんだ?」


 「さあ、私にもよく分からん」

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