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タイム・アウト  作者: ハロル・ロイド
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巨大ビル

どんぐりの背比べのように立ち並ぶ都心のビル。


その中で一際高く聳え立つ超高層ビルがある。


とてつもない高さ、下から最上階を見上げれば首を痛めること間違いなしのビルだ。


高層ビルにつきもののビル風…時折、台風並みの突風がビル周辺に突然起こる。 しかし、この超巨大高層ビルには、その突風はほとんど見られない。


 この巨大建造物には各階の壁際に扇風機を横にして取り付けたようなものが無数にせり出している。一つ一つの羽根が風を受けて勢い良く回っている。巨大なビルに比べればその扇風機様の装置はは小さく見えるが、大きさにして二メートル四方の枠内に四つの羽根が取り付けてある代物だ。一片の羽根の長さだけでも子供の背丈ほどある。

 四角い頑丈な枠は、それぞれ好き勝手な方向に向きを変えている。向きを変えると言っても、枠と壁を繋ぐ支柱が回転するだけなのだが。

 コンピューター制御で吹き降ろす風の流れに対して、枠の角度を微妙に変え、回転する羽根の勢いを調節している。

 勢いよく回る羽根が風のエネルギーを吸収し、地上へ向かう風の勢いをなくしているのだった。そして、その吸収されたエネルギーはこのビルの発電に置き換えられている。このビル自体が使う電気の五分の一はこのビル風により賄われている。

 ビルの高さは、約千メートル、尋常な高さではない。

 二百階建ての巨大ビル。

 ビルの名は、ソウルオブジャパン。ソウルは都市の名前ではなく魂という意味で名づけられた。日本の魂、そんな感じで命名された。

 しかし、世間ではもう一つの名で知られている。

 

「天国に一番近いビル」と。


 最新の制震技術を駆使し、世界一高くそして世界一安全なビルと謳われるこの巨大建築物。ただ、世界を驚嘆させたのはただ単にビルの大きさ、高さ、耐震技術、安全性だけではない。

 それ以上に、このビルにはあるモノが備わっていた。

 

 それは屋上にあった。

 そこは緑が溢れている。

 独自に開発された特殊な人工の土が屋上に敷き詰められ、松や桜、楓、銀杏、等の木々が整然と植えられている。

 もちろん草花が咲き乱れる野原もごく自然に見る事ができる。

 そこには普通に田園風景が広がっているのだ。


 小川も流れ、電気自動車が走れる舗装道路まで整備されている。

その緑あふれる屋上は、敷地に換算すれば悠に四千坪以上はある。

ところどころに池が造られ,ジョギングができる遊歩道もある。

 

 芝生が広がる場所にはゴルフの打ちっぱなしのネットが張られ、そしてハーフコースのゴルフ場が設置されている。

その隣にはドーム型で格子状の強化ガラスで囲われた室内プールがある。


 屋上の中心で一人佇めば森を切り開いたリゾート地にいるのかと誰もが錯覚するだろう。

 しかしここは屋上。

 周りは、二重に頑丈な特殊合金の柵に囲まれた屋上がある。

そこから外を覗けば眼下に雲海が広がっている。

 まさしくここは天国に一番近いビルだ。

 

 その屋上の南端には平屋のペントハウスがある。

 ペントハウスの上にはへリポートが備わり、そこに特注で作られたと思われる巨大な流線型のジェットヘリがゆっくりとプロペラを回転させていた。


 一方、ペントハウスの中では 二人の男女が肩を揃え立っている。

 2人は一面のガラス窓の向こうに見える壮大な夕日を眺めていた。

 

「涙が出そうな景色ね」女は呟いた。


「全くだ。心が洗われるな」男は言った。


 男の名は、酒井次郎さかいじろう


 隣の女性は妻の恭子きょうこ


 五十代前半と思われる中年の二人は窓の外に見える深紅の夕日に見とれていた。

 

 広い室内には革バリの豪華なソファーが置かれ、床は赤い絨毯が敷き詰められていた。壁は総檜、木の香りが部屋中に充満している。周りは贅を尽くした調度品が置かれてある。

 

 「やあ,よく来てくれた」突然、甲高い声が部屋に木霊した。


 ドアの前に恰幅のいい白スーツの男が立っていた。年齢は六十代前半であろうか。

 隣には、同じく白のスーツ姿の女性が立っている。

 「綺麗な夕焼け!久し振りに見るわ」とスーツの女性が感嘆の声を上げた。

 「社長、入社以来いつもお目を掛けていただきありがとうございます。それにこの度は、私ごときに部長という大役を仰せつかり、勤まるかどうか戸惑っている次第です。なんてお礼を申していいのか」

 酒井は小走りに白スーツの男の前に出向き、そう言いながら深々と頭を下げた。




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