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「直接会ってお話するのは初めてですね。天使という名で動画配信をしている春名と申します。以後、よろしくお願い致します」


 英弘女子には学校指定の制服が三種あるが、彼女が着ているロング丈の白いワンピースをチョイスする女生徒は少なかった。しかし下級生の間でシェアが広がっているのは間違いなく天使の影響だった。


「有名人が会いに来てくれるとは光栄だ」


 社交的な仁太のお世辞に対して有頂天になることもなく、深刻そうな表情を崩さなかった。マイミィとは対照的だった。


「どうしたんだ?」

「ご相談があるのです」

「そういうのはサトリの役目だな」


 仁太がレンの隣に席を移して、天使を空いたソファに座るように促した。会話はバトンを渡されたリーダーが引き継ぐ。


「最上です。相談というのは?」

「お願いに上がりました」

「俺たちで良かったら話をきくよ」

「お言葉に甘えさせてください」


 独特な言葉遣いであった。


「すでにご覧になったと思いますが、夏芽さんが昨夜アップしたマイミィ動画で、彼女は後悔されていました。撮影中に偶然通りかかった被害者の女の子がSOSを発信していたのにもかかわらず救えなかったと」


 その最新動画もかなりの反響があった。


「そのことに気づいたのは友達で、そこでD4の名称を口にされました。そして、その動画には死神の姿も映っていて、準備が出来次第、公開すると予告までしたんです」


 サトリやレンは初耳だったらしく、同時に富彦に目を向けた。


「公開するのか?」


 サトリの質問に答える。


「素材は彼女のものだし、僕は借りてるだけだから、相談を受けて『好きにしたらいいよ』って返信しただけだよ」


 特に問題を感じていない様子だ。


「公開して大丈夫なのかな」


 不安そうなサトリに仁太が自信を持って答える。


「問題ないだろう」

「死神の証拠映像だぞ?」

「まだ仮説の段階だ」

「でもパニックにならないか?」

「そこまで視聴者もバカじゃない」

「しかし実際にヒト一人が死んでいる」

「所詮は加工した映像だろう?」

「お前がマイミィに入れ知恵したんじゃないだろうな?」

「おれは富彦の連絡先を教えただけだよ」


 呆れ顔のサトリが話を戻す。


「それで俺たちに相談というのは?」

「わたしの動画にも協力してほしいんです」

「協力といわれても、何をすればいいのか」

「探偵活動を一緒にさせてください」


 D4が探偵団だと知らない者は校内に存在しない。


「ちょっと待って」


 サトリが返事をする前にマイミィが現れた。


「ノリコ、こんなところで勝手に何してんの?」


 二人は幼馴染でもあり、ライバル関係でもあった。


「その名前で呼ばないでって何度もお願いしたでしょう」

「ワタシがどう呼ぼうがワタシの勝手なの」

「勝手な行動で邪魔をしないで」

「ジャマをしているのはノリコでしょ」

「今はわたしがみなさんとお話をしている最中よ?」

「D4はワタシの友達なんだから取らないで」

「あなただけのお友達じゃないでしょう?」

「昔から何でもワタシの真似をするんだから」

「それはあなたが抜け駆けしているだけ」

「またワタシを悪く言う」

「あなたが先に悪く言うから」

「とにかくD4はワタシの友達なの」

「それを言うためにストーカー行為をしたの?」

「ワタシがストーカー?」

「現れるタイミングが良すぎるもの」

「それは自分のことでしょう?」


 そこで仁太が立ち上がって二人の間に割って入る。


「一旦、落ち着こう」


 普段は修羅場を面白がる野次馬男がブレーキを踏んだ。


「ここはリーダーの話を聞こう」

「俺なのか?」


 この場のリーダーは誰なのかを強力に印象付けた仁太によるファインプレイだ。指名を受けたサトリが天使に尋ねる。


「さっきの話の続きだけど、一緒に探偵活動をするって、どんなことを想像してるんだ? その目的は?」


 この日の天使も髪のつやが良く、いつものように天使の輪ができている。


「今はクラスの女の子だけじゃなく、中等部の子や、小学校に通う姉妹、その家族もみんな不安になっています。早く終わってほしいって、みんな願っています。わたしはその人たちに言葉を届けることができます」


 校内人気が高いのは事実である。


「今がどんな状況なのかを知ることができれば正しく伝えることができます。気休めの嘘や、間違った情報ではなく、事実だけを伝えたい。それが配信者の責任だと思うので。だから一緒に活動させてほしいんです」


 計算高いと揶揄やゆされることもある彼女だが、正しさを求める高潔なる精神は本物だ。それに共鳴しないサトリではなかった。


「情報か」


 サトリが思い出す。


「本家の『デスノート』でもメディアが重要な役割を果たしていた。情報をコントロールするのも重要なのかもしれない。仁太はどう思う?」


 愉快そうに答える。


「いいじゃないか。せっかくバズったんだ、利用しない手はないさ。イタズラに不安を煽るだけのオールドメディアになんか任せてられるか。『デスノート』みたいに死人が出るのはゴメンだけどな」


 サトリがつられて笑う。


「これはメディアを暴走させないためでもある。SNSでもトラブルを起こさないように注意喚起するのも重要だ。富彦はどう思う?」


 淡々と答える。


「そもそもオールドメディアは扱わないよ。立件されれば別だけど、未成年の自殺は見て見ぬふりしかできないんだ。ネットニュースも最近はどうだろう? 自殺報道は後追いの誘発を招くから取り扱いが難しいって聞くからね」


 サトリが悩む。


「俺たちも『自殺』というワードには気をつけた方が良さそうだな。そこは全員で動画の最終チェックをしよう。レンはどう思う?」


 落ち着き払って答える。


「オレは反対だ。多くの人が指摘していることだが、Lがメディアで挑発しなければキラは暴走しなかったんじゃないかっていう見方がある。それはフィクションだが、現実では起こらないとも言い切れないからな」


 サトリが苦慮する。


「刺激させないようにと言っても、相手が何を考えているか解らないからレンの言いたい気持ちも理解できる。追い詰められたと感じた瞬間、一線を超えて無差別テロをする可能性もあるからな。マイミィはどうする?」


 今まで経験したことのない責任を感じている様子だ。


「ワタシ次第なの? そんなの困るよ。殺されたくないし。リスクが高いんだよね。メリットって何だろう? もう、わかんなくなっちゃった」


 レンが答える。


「メリットといえるか判らないが、十五年前のDB事件では犯人がネットの掲示板に現れたんだろう? だから今回の犯人も動画のコメント欄に現れる可能性がある。もちろん、そんな犯人が実際にいたらの話だが」


 天使のお告げ。


「配信しましょう。もしも犯人がわたしのコメント欄に現れたら、もうイタズラはやめましょうって説得してみせます。それで何も起こらなくなれば解決じゃないですか? 後追い自殺の誘発、そう、そういうのを止めさせたいんです」


 それが決め手となり、デスボード関連の動画配信を続けることとなった。


      ※


 すぐに一回目の捜査会議を行う運びとなった。サトリと富彦がいつもの席で、応接用のソファにレンと仁太が並んで座り、向かいの席にマイミィと天使が座った。議事進行はリーダーのサトリが務める。


「まずは報道に関して決まり事を設けておきたい。今後の配信内容だけど、二つのチャンネルがあるので差別化しておこうと思う。マイミィ動画は死神犯人説で、天使動画は人間犯人説で番組を作っていこう」


 意図を説明する。


「それは現時点でどちらの可能性も残されているからだ。そもそも死神の存在自体が信じられるものではないし、今の段階で大真面目に死神を語ってもわらわれるだけなので、子供がやったイタズラという線も残しておきたいんだ」


 仁太が納得する。


「つまり陰謀論好きの死神認識派と、オカルトを嫌悪する懐疑的な現実派、その両極端な視聴者層を二つとも取り込んでおこうというわけだな」


 富彦も賛同する。


「おもしろいね。Lが別名義の探偵を使い分けていたのを思い出すよ」


 レンも賛成する。


「今回の犯人もネットのどこに出没するか分からないから、毛色の違うチャンネルを持っておくのは有効だ」


 賛を得られたサトリが役割を決める。


「それではマイミィ動画は仁太が監修して、天使動画はレンに監修してもらおう」


 仁太が待ったを掛ける。


「なんか勘違いしてるが、おれは別に死神なんか信じちゃいないぞ?」


 レンも不服そうだ。


「オレだって宇宙人や神の存在を絶対に認めないなんて言った憶えはない」


 サトリは意に返さない。


「それは問題じゃないんだ。報道の主役となるジャーナリストは彼女たちなんだから。D4は二人をサポートするだけだ」


 マイミィが自信満々に宣言する。


「ワタシ、頑張るよ。死神をカメラに収めた人類最初の人なんだもん。ワタシ以上に〝持ってる〟人なんていないよね? ピューリッツァー賞をもらってもいいくらい」


 天使は控え目に承諾しょうだくする。


「わたしは誰かのイタズラだと思っています。過去にイジメを行っていた子が、今度は匿名でイジメを受けた。そんな自殺の連鎖は見たくありません。その連鎖を断ち切るのが年長者の役目だと考えています」


 その情報はD4にとって初耳だった。議長のサトリが尋ねる。


「イジメてた子が死んだのか?」

「はい。後輩からそう伺っています」

怨恨えんこんの可能性があるのか」

「去年、イジメを苦に自殺した子がいたんです」


 そこで天使のスマホの着信が入り、口元を押さえながら読み上げる。


「一緒にイジメをしていた別の子も亡くなりました」

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