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 モニターにはテラス席に座るマイミィが朝から元気にカフェリポートをする映像が流れているのだが、背景に映る駅通りの通学路に女子生徒が姿を見せたところでサトリが声を上げた。


「これ、自殺した生徒だよな?」


 全員がモニターを凝視しており、全員が居たたまれない気持ちが顔に表れていた。いつもならオチャらける仁太も、この時ばかりは真剣だ。


「あぁ、間違いない」

「一人で学校に行ったんだ」

「あぁ、そのようだ」

「でも、なんか様子がヘンだな」

「あぁ」


 そこでサトリが富彦に頼む。


「ループ再生させてくれ」

「うん」


 と返事をして、手早く作業を完了させる。レンは黙ったまま分析を試みている様子で、マイミィは何か考え事をしている様子だった。引き続き、サトリと仁太が感じたことを口にする。


「やっぱり歩き方がヘンだ」

「つんのめる感じか?」

「いや、引っ張られる感じじゃないか?」

「なんだろうな」

「でも普段の歩き方を知らないから何とも言えない」


 サトリは続けて指摘する。


「腕の動きもおかしいんだ」

「片方の腕だけ硬直した感じだな」

「ときどき痙攣けいれんするんだ」

「なんだろ」

「持病かな?」


 サトリが続けて指摘する。


「何度か振りむいてるよ」

「あぁ、カメラに気づいてそうだ」

「口元も動いているように見える」

「マイミィに話し掛けてんのか?」

「音声は拾える?」


 サトリが尋ねるが、富彦は首を振って説明する。


「マイクの性能が条件に合わないし、このパソコンじゃ音声解析も無理だよ。後で色々と調べてみるけど」


 彼が幼少の頃から出入りしている研究所では音や映像に関連する様々な実験が行われている。いま取り組んでいるのは音楽を視覚化して未知の映像体験を創り出すことだ。他にも音楽と一緒に体性感覚を刺激させて楽しむエンターテイメントを生み出そうとしている。


「ワタシ」と言いながらマイミィが立ち上がる。「撮影の準備があるから、もう戻るね」と、そそくさと出て行った。最後に「何か判ったら教えて」と返事を待たずに「また来るね」とだけ言い残していった。


 それを契機にして一時解散となった。ここから別行動になるが、学校が終わる昼過ぎにもう一度ここで集まろうと約束して別れた。


 レンは教室に戻り、仁太は情報収集に向かった。サトリは富彦のコネを利用して、二人で警備責任者でもある守衛室の室長に会いに行くことになった。先方とはすでに連絡済みである。


      ※


 高等部と中等部の間に管理棟が建っており、一階に守衛室があった。同フロアには仮眠室もあり、常に二人体制で夜の巡回も行われている。


 全ての教室に監視カメラがあるのでモニタールームもあるが、二人が室長と会ったのは警備員用の休憩室だった。校内で唯一の喫煙スペースでもあるので教職員が訪れることもある。


 室長は所轄署の少年課で勤務していた元警察官だ。五十代だけど太い黒々とした髪が印象的な体格のいい元気なおじさんだ。頼まれもしないのに中等部の玄関前で声かけ運動を毎朝一人で行っているような人物だ。


「参ったね」


 ソファに座って頭を抱える室長は、学校で起きた自殺に意気消沈していた。対面に座る富彦がなぐさめる。幼少の頃から木嶋家のパーティーで顔を合わせる仲でもある。


「そんな気を落とさないでください。守衛の責任じゃありませんから」


 あっけらかんとした言い方だが、それが室長にはありがたかったようだ。


「お気遣い痛み入ります」


 立場をわきまえた言葉遣いであった。富彦の隣に座るサトリだが、見慣れているので特に何も思わなかった。


「何か聞きたいことがあるんだよね?」


 そこで富彦がサトリに会話を任せた。


「室長が第一発見者だったんですよね?」

「はい。おっしゃる通りで」


 彼は木嶋家の友人にも丁寧な対応をした。


「その時の状況を教えてください」


 室長が振り返る。


「いやぁ、ま、とにかく驚きました。仕事柄あらゆる事態を想定しているものですが、まるで予想していなかった」


 学校創立以来、在校中の生徒による自殺は一件もない。


「目の前にいきなり落ちてきて、あるんだな、そういうことが。咄嗟とっさに校舎を見上げたのは憶えていますよ。頭をかばいながらね。他にも落ちてくるんじゃないかと無意識に思ったんでしょうな」


 いい判断だ。


「窓が閉まっていたんで屋上からだと思い、そこで自殺か事故だと判断しました。それから部下に指示を出して、自分は非常階段に向かいました。校内はカメラが回っているので、誰かと一緒に屋上に上がっていたとしたら、そこしかルートがないので」


 警察に説明した後なので話が上手くまとまっていた。


「結局、屋上には誰もいなかった。すれ違う者もなく、隠れる場所もない。それで自殺だと確信しました。遺書や書置きもネットに残す時代だというし、まず間違いないでしょう」


 死神に言及しないのは、子供たちの虚言や妄言をたくさん聞いてきたからなのかもしれない。


「どんな生徒でしたか? わかる範囲で」

「いい生徒でしたよ、今でいう陽キャのね」

「歩き方に特徴がありませんか?」

「いや」

「腕に持病か古傷を抱えているとか?」

「そんな様子は見られなかったな」


 そこで二人は室長にお礼を言って退室した。それから富彦は他の守衛さんにも挨拶をすると言って別れた。


      ※


「最上くん」


 高等部の校舎に戻るために渡り廊下を歩いていたサトリだが、そこで小走りに追い掛けてきた男に後ろから声を掛けられた。


「最上覚くんだよね?」


 足を止めて振り返るも、サトリには見覚えのない顔であった。無精ひげを生やし、髪もボサボサで、スーツもヨレヨレだったため、中等部に赴任してきた教師ではないと判断した。


「お父さんと同じ警視庁の秋津誠あきつまことです。よろしく」


 と言って、わざわざ身分証を丁寧に見せるのだった。サトリの父は警察官僚だが、他の者と違って現場に臨場する非常に珍しいタイプのキャリア組だ。


管理官をしていた警視時代には、警視庁の一課と二課の合同捜査など大きな事件で陣頭指揮を任されていた異色の傑物けつぶつだ。だから現場の刑事に話し掛けられても不審には思わなかった。


「本庁の刑事さんも来てたんですね」

「呼ばれもしないのに勝手に来たんだ」

「スタンドプレイは出世に響きますよ」

「もう諦めたさ」


 秋津刑事が本題に入る。


「最上くん、今回の事件ヤマだけど、どう思う?」

「え?」

「DB事件と似てないか?」

「なんですか、それ?」

「そっか、聞いてないか」


 そこで思案し、別の質問をする。


「『デスノート』は知ってる?」

「はい」

「へぇ、現役の高校生でも知ってるんだ」

「探偵Lの後継者を目指しています」


 秋津刑事がニヤッと笑みを浮かべる。


「今から十五年くらい前かな、映画が流行って、テレビで何度か放送された後、『デスノート』を真似た事件が起こったんだ。今回みたいに世直しするってね。結局、その時の死神がどうなったか分からなくて、今では偶然が引き起こした自然死として風化しちゃったけど、それと今回の事件が似ているんだ」


 サトリにとっては初耳だった。


「その事件に君のお父さんが関係しているというウワサだ。警備局のテロ対策本部が絡んだ事件だからファイルにアクセスできる者は限られている。本庁にいる現職の刑事でも知る者はわずかだ」


 サトリにとっての父は、怖い人というイメージしかない。会話がないというより、家で顔を合わせる機会すら少ない、そんな距離感だった。


「その事件について知りたくて君のことも調べていたんだが、知らないなら仕方ないか。いつかお父さんと話せたらと思ってる」


 そこへ中年女性が走ってくる。


「秋津くん!」


 バディを組む先輩刑事の天川蛍あまかわけいだ。簡単な化粧で済ませているが、ナチュラル美人なので四十代には見えなかった。オシャレではないが、素朴な品の良さを感じさせる。


「勝手にウロチョロしないで。家では息子の面倒を看て、職場でも子供みたいな後輩の面倒を看る。もう、勘弁してよね」


 ニヤニヤしながら秋津刑事がサトリを紹介する。


「こちら最上警視正のご子息です」

「え? うそ、どうしよう、はじめまして、警視庁の天川です」


 そう言って、普段はあまりしない敬礼をするのだった。


「はじめまして、最上覚です」


 そういった挨拶にも慣れているサトリだった。それから事件について軽く話して、三人で連絡先を交換し、「また会いにくる」と言って別れたのだった。


「サトリくん!」


 背を向けて歩き出した少年に向かって秋津刑事が呼び掛けた。


「オレはキラを崇拝する者だ」


 そう言って、ニヤッと笑うが、天川刑事に怒られて、腕を引っ張られるようにして連れ去られるのだった。その二人の後ろ姿が見えなくなるまで、ずっと目で追いかけ続けるサトリであった。


      ※


 午後になる前に学校が臨時休校となり、校内放送で下校を促すアナウンスが流れた。カバンを取りに教室へ行き、そのまま別棟の部室へと向かったのだが、三人の他に思わぬ来客の姿があった。


「遅かったな」


 仁太が出迎えて、正面のソファに座る少女を紹介した。事務机の椅子に座る富彦と、開けた窓の下枠に腰掛けるレンは黙って様子を窺っていた。


「オマエに話があるってよ」


 少女が立ち上がって挨拶する。


「こんにちは。私は死神です」


 D4の前に死神が現れたのだった。

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