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サトリが尋ねる。
「どういうことだ?」
「とりあえず、これを観てくれ」
仁太が富彦に動画をモニターに流すようにお願いする。
「緊急で動画を回しています!」
映像には女子高生が校門の前で自撮り配信する姿が映っていた。
「言えた! やっと言えました」
自己満足に浸る少女とは対照的に、視聴中の三人はポカンとしている。仁太だけがニヤニヤしていた。
「マイミィも一度は言ってみたかったんだよね。やっと自分の人生にも緊急で動画を回す事件が起きました」
そこで校門の横に設置してある掲示板を映す。編集によって一部にモザイクが施されているが、そこには例の〝死神の警告〟が貼りつけられているのだった。
「見て下さい。『デスボードに名前が書かれた者は死ぬ』だって」
それを少女は嬉しそうに読み上げるのだった。
「みなさん知ってますか? これって『デスノート』ですよね? ほら、『新世界の死神になる』って書いてあるし。ワタシ『デスノート』のミサミサが大好きなんです。ミサミサって、すごい一途なの」
それから少女は『デスノート』についてダラダラと喋り始めたので、軽く聞き流しながらサトリが仁太に尋ねる。
「この子は誰?」
「マイミィだ」
「だから誰だよ」
「自称インフルエンサーだ」
「誰だか知らないのにインフルエンサーなのか?」
「だから自称なんだろ」
「どんな子なんだ?」
「いつでもどこでも自分自分、それがマイミィの世間評だ」
次にレンが尋ねる。
「動画がアップロードされた日は?」
「一週間前だ」
「その前から貼られてたわけか」
「前日の朝はなかったという話だ」
「木曜の日中から金曜の朝か」
「これが証拠映像だ」
富彦が動画情報を報告する。
「他の動画は再生数が百未満なのに、この動画だけ万バズしてる。今もリアルタイムでどんどん数字が更新されてる状況だ」
仁太が補足説明する。
「昨日公開された動画が続報になっていて、名前が書かれている映像も残っているんだ。もちろんモザイク処理されてるけどな。でも裏取りしたから自殺した生徒で間違いない」
サトリの素朴な疑問。
「今朝の出来事なのに、なんでこんな拡散されてんだ?」
「先に自殺の配信映像がSNSに転載されたんだ」
「切り取りか」
「あぁ」
「でもまだ四、五時間しか経ってないのに」
「マイミィ動画の方は〝デスボード〟が検索に引っ掛かったんだな」
「それで一緒にまとめられたわけか」
「祭りってほどじゃないが、かなり盛り上がってる」
「しかし早朝の生配信なんて、よく見てる人がいたな」
「配信元は削除されたが、自動録画してる奴がいたんだ」
「それで無断転載されたわけか……」
重たく沈んだ空気の中に明るい声が響き渡る。
「おじゃましま──す」
満面の笑みで現れたのはマイミィこと夏芽舞美だ。丸みショートのボブカットが似合う元気いっぱいの女の子。D4と同学年のJK3だが、面識があるのは仁太だけだった。
膝上のスカートとショート丈のブレザーに、校章にもなっているハイビスカスの花をイメージした真っ赤なリボンが特徴的だった。
「鬼バズしているマイミィだよ」
それからテキトーに話し掛ける。
「ねぇねぇ、動画まわしていい?」
「ダメに決まってるだろ」
サトリが即断した。
「なんで? せっかくD4の隠れ家に初潜入したのに」
「隠れ家じゃなくて部室な」
D4の仮想探偵事務所に部外者が入室したのは、身内であるレンの妹を除けばマイミィが初めてだった。
「は──い、マイミィも入部する」
「ダメだ」
「うわっ、その冷たい感じ、夜神月っぽい」
「俺たちD4は探偵Lを信奉する者たちだ」
それが四人の最も重要な共通点だ。全てにおいてLには劣るけど、世界が認める推理力、尽きることのない財力、運動神経の良さを活かした行動力、国を動かすほどの統率力、それを四人で補い合う。それがD4結成の原点である。
「とりあえず座れよ」
「いや、オレが譲るよ」
仁太がマイミィに席を譲ろうとするも、レンが立ち上がって窓辺の壁にもたれ掛かるのだった。その余所余所しい態度を見て、マイミィの脳裏に妙な勘が働く。
「えっ、ワタシ、避けられてる?」
とりあえず座るが、誰も目を合わそうとしなかった。
「なに? ワタシ、何かしたの?」
サトリがボソッと答える。
「そりゃ、今回の悪ふざけを計画した容疑者だからな」
「えっ? どういうこと?」
本当に分かっていない感じだ。
「フィクションに限らず現実の世界でも、事件が起きたらまず誰が得をしたかを考えるんだ。今回の場合は君が一番得をしている。だから第一容疑者というわけだ」
それを聞いて、マイミィが激怒。
「は? なにそのヘボ推理。ポンコツ探偵団じゃん」
仁太がフォローする。
「冗談だよ。誰も本気で疑ってるわけじゃない。ただ、おれたち四人はミステリーの基本というか、捜査のイロハは押さえてるって言いたかっただけさ」
マイミィがグズり出す。
「ひどいよ。みんなでワタシのことイジメてさ。マイミィはつらい過去を抱えながらも明るく元気に振る舞ってるんだよ。ワタシの元気がみんなの元気になればいいなって。つらいのはワタシだけで充分だって。ほんとに、健気に頑張ってるんだよ」
これにはサトリもドン引き。
「それ、自分で言うのな」
「言うよ」
「そういうの、出会ってしばらく時間が経ってから明かされるもんじゃないのか?」
「それだと誰も理解してくれないじゃん」
サトリがペットボトルを差し出す。
「とりあえず、これあげるよ。まだ口つけてないからさ」
「ありがと」
結局、得をするマイミィであった。
※
それから甘い紅茶を飲みつつ、マイミィが一夜にして有名人になったことに対して浮かれに浮かれ、自分の動画がインプ稼ぎに利用されていることに激怒して、登録者が増えていることには歓喜しつつ、有名になるならもっと可愛くすれば良かったと落ち込んで、動画コメントに励まされて元気を取り戻すのだった。
マイミィが喋り倒す中、サトリは聞き役となり、仁太が茶々を入れて、レンは笑うのを堪えている様子が見られた。それを富彦はBGMのように聞きながらパソコンで事件の関連情報を調べているのだった。
話が〝デスボード〟に戻ったところで、マイミィが豪語する。
「Lは死んじゃったけど、今回の死神はワタシでも簡単に見つけられる」
サトリは同意しかねる様子だ。
「学校周辺にいる可能性は高いが、特定するのは難しいんじゃないか? キラは殺すペースが早かったから事件化されたけど、今回は自殺と処理されるだろうから本庁の刑事が来ることはない。イタズラ犯が正直に名乗り出れば別だけど、それでも逮捕まではされない、そもそも逮捕状が出ないんだから」
マイミィが不思議そうな顔をする。
「ん? どういうこと? 死神に殺されたのに、なんで警察は何もしないの?」
「ちょっと待って」
いつも冷静なレンが慌てて呼び掛けた。
「君は死神が殺したと思ってるのか?」
「殺されたじゃん。配信映像を観てないの?」
「フィクションとゴッチャにしてないか?」
「そっちこそゲンジツ見えてる?」
そこで二人のやりとりを見ていた仁太が「ハハッ! そうだよな」と豪快に笑った。同意を得られたマイミィが勢いづく。
「そうだよ。名前が書かれた直後に自殺するなんて、そんなの死神以外にできっこないじゃん。『コナン』くんのセリフなんだっけ? 『どんなに疑わしくても……』
サトリが補完する。
「不可能な物を除外していって残った物が、たとえどんなに信じられなくても、それが真相なんだ」
これにはコナン好きでもあるマイミィが感激。
「今の新一っぽい」
「バーロ、オレの言葉じゃなくてホームズの言葉だよ」
遊びに付き合ったサトリが話を戻す。
「冗談は抜きにして、つまり今の段階では自殺なのか、トリックを使った人間の犯行なのか、はたまた死神の仕業なのか、何も分からないんだ。警察が動けないなら俺たちで調べないといけないんだよ」
ここでマイミィが本領を発揮する。
「そんなことより、次の動画だよ。せっかくバズったのにストックが一本もないんだもん。何を撮ったらいいか、一緒に企画を考えてよ」
心の優しいサトリでも、そこまでは付き合ってられないといった感じだ。四人の中で最も社交的でノリがいい仁太が話に付き合う。
「マイミィ動画に企画なるものがあったのか」
「ちゃんと考えてるよ」
「ただ喋ってるだけじゃないか」
「でも結果は出したもん」
「喋りが評価されたわけじゃないだろ」
ダメ出しはお気に召さないようだ。
「後輩から『観てます』とか、『頑張ってください』とか、『応援してます』とか、声を掛けられることがあるんだよ。だからみんなの為に、そう、今朝だって登校する前に朝カフェのレポート動画を撮ったんだから」
マイミィお得意の努力アピールからの激怒。
「それを編集してアップする予定だったのに、死神のせいで動画が一本ムダになったんだよ。そんなの上げたら不謹慎だって怒られるでしょう?」
そこでサトリが身を乗り出す。
「その撮影って今朝の何時だ?」
「四時起きで五時から回したんだから」
「どこで?」
「駅通りのカフェだけど」
そこは英弘高校の通学路にある。
「その素材を見せてくれないか?」
「いいけど」
「富彦、頼む」
「うん」
と返事をして、無編集の映像をモニターに流し始めた。
最寄駅にある商店街から英弘高校のある〝教育の杜〟まで一本道になっており、地元の人間はその道を「駅通り」と呼んでいる。
教育の杜の東側に中・高の校舎があり、西側に付属大学の巨大キャンパスが広がっている。周辺にはグループ関連の研究所が密集しており、若い家族が数多く暮らしている活気ある街となっている。
キャンパスの通り沿いには飲食系の有名チェーン店がこぞって出店しており、中でも桜並木のテラス席はメディアで取り上げられたり、ドラマ撮影に使用されたりとホットスポットになっている。
「今のところ、ちょっと止めてくれ」




