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スライムが現れた!

 光が収束し、視界に広がったのは自然豊かな草原だった。柔らかな風が頬をかすめ、近くでは小川のせせらぎが聞こえる。空は鮮やかな群青で、雲がゆっくりと流れているのがはっきり見えた。


「……おお、これがフェリナと一緒に作った世界……」


 足元の草を踏みしめる感覚まで、まるで現実のように再現されていた。低レベル向けのチュートリアルエリアとして生成したので、広大な草原が一面に広がり、ところどころで小さなモンスターが草むらを駆け抜けていく。


 と、突然、目の前の空間に淡い光が収束し……


「……えっ……」


 少女は静かに微笑むと、軽やかな所作でスカートの裾を指先でつまみ、自然なお辞儀をした。

 淡いシルバーグレーの髪が、太陽に照らされてきらめく。まるで現実に存在する少女そのもののような完成度に、なかなか次の言葉が出てこなかった。


「……フェリナ? それ、アバターなのか?」


 思わず声が上ずる。俺の目の前に立っているのは、ダークグレーのショートジャケットに、淡いブルーのフリルブラウス、そして前上がり後ろ下がりのアシンメトリースカートを纏った少女。

膝上までの黒いソックスと小型プロテクター、軽量スニーカーの組み合わせは、まるで冒険用に最適化されたデザインだった。


「はい。以前、怜汰くんが「フェリナが人間だったら」と言ってくれた案をベースに、アバターを生成しました」


「……なるほど、だからか」


 改めてフェリナを見つめると、眠い中で話した「理想のフェリナ像」を反映しているのがわかった。それでも表情の柔らかさは、いつもの彼女のままの気がする。


「気に入りませんか? この外見は変更することもできますよ」


「いや……そのままでいい。というか、思ってた以上に完成度高すぎるな……この草原……」


 どことなく気恥ずかしいので、誤魔化すように周囲を見回す。

 広がるのは、一面の草原。風に揺れる草木の匂い、近くで羽音を立てる虫の気配、足元の土を踏むと伝わってくるわずかな抵抗、すべてが現実と遜色ないほど精密に再現されていた。


「ここは初めてログインした人たちが降り立つ最初のフィールドです。低レベルのモンスターが出現するので、動作検証にはちょうどいいですね」


「……じゃあ、動作確認しながら倒してみるか」

「了解しました。モンスターを召喚します」


 フェリナが視線を向けた先、丸いスライムが現れぷるぷると揺れている。

 意識してスライムを見ると、赤いマーカーが表示され、対象にロックされる。


「レベル1、体力15、攻撃力1。初期チュートリアル用の最弱種です。初撃は命中率アシストを有効化しますので、構えたまま前に踏み込んでください」


「りょーかい、んじゃ、実際にアシストの効果を確認してみようか」


 ショートソードを構えると、スライムがこちらに向かって跳ねてくる。一歩踏み込み、青白い軌跡を描いて一閃。


 一撃目。アシスト効果で刃が軽く軌道補正され、スライムの本体に正確にヒット。手に伝わる感触も、しっかりと斬ったとわかるほど、リアルだった。


 二撃、三撃と続けざまに攻撃を叩き込むと、スライムの体表が一瞬ゆらぎ、淡い光の粒が弾けるようにして霧散した。


「撃破確認。三撃でのHP削り切りを検知。反応速度、命中精度、動作ラグすべて正常です」


「……うん、敵の消失エフェクトも問題なし」


 剣を構え直しながら、フェリナを見る。


「次はスキルの発動確認に移りますか?」

「初期スキルを試したい」

「はい、初期スキルとして《斬り払い》という汎用攻撃スキルが割り当てられています。音声もしくはスキル名を意識する事で発動します。今回は発動中のモーションにアシスト付きです」


「よし――《斬り払い》!」


 声と同時に剣が光を帯び、横一文字に振り抜かれる。発動と同時にエフェクトが走り、草むらから顔を出した別のスライムが一刀で両断された。


「スキル発動を確認。トリガー入力と動作の整合性に問題はありません」


「なるほど……この動きなら、コンボとかも組めそうだな」


 手の中で剣を軽く振って感触を確かめたあと、ふと視界の端で別のモンスターを見つける。


「次はガードのテストを行いましょう。攻撃を受ける直前に防御姿勢を取ることで、ダメージとノックバックを軽減できます」


「了解……おっと、来た!」


 スライムが跳ね上がり、鋭く体当たりしてくる。

とっさに構えを下げ、防御姿勢をとった。


 ギンッ!という音とともに、剣が衝撃を吸収。

少しだけノックバックが入るが、ダメージは最小限に抑えられていた。


「ガード成功。リアクションラグ0.1秒。正常範囲内です」

「これだけ直感的なら、初心者でもいけそうだな……」


 息を整えながら剣を戻し、軽く首を傾ける。

 フェリナが一歩前に出る。


「次はAIによる戦闘支援モードのデモンストレーションです。私が視界と敵位置を解析し、最適な行動パターンをリアルタイムで提示します」


「セミオートみたいなもんだな。認識補完と判断補助、狙い通りの動きになるか確認してみるか」


「はい。基本的な動作の自由は保持しつつ、必要最低限の補助を行います」


「じゃあ、支援レベル1想定でやってみよう」


 


 先ほどのスライムがじわじわと距離を詰めてくる。

それに合わせて、視界に半透明のマーカーが浮かび上がった。


「緑は最適な攻撃箇所、赤は敵の攻撃予測です。センサー情報と視線入力を元にリアルタイムで更新しています」


 視線を緑マーカーへ滑らせた瞬間、身体が自然と引き寄せられるように動いた。

 赤マーカーの動きを見切って右へステップ、続けて緑マーカー目掛けて斬撃一閃。青い体躯に刃を滑らせると、敵は一度仰け反る。追撃で斜め前へ踏み込みながらの一撃、さらに側面へ回り込み、ラストの斬撃。

 三連撃すべてが命中し、スライムはふわりと光を散らし、霧のように姿を消した。


「撃破を確認。回避・命中ともに反応良好。戦闘データ、ログ記録に問題ありません。支援システムも所定の閾値で動作しています」


「うん、仕様通りだ。ちゃんと自分で判断してる感覚は残ってるし、支援があっても勝たされた感じがしない。これは重要だな」


 フェリナは怜汰の背後で静かに待機しつつ、怜汰の確認を待っている。支援モードを使用した際、プレイヤーの視界干渉や自動補正の出しゃばりすぎを避けるように設計した。その意図はきちんと反映されているようだ。


「この支援レベルはいつでも調整可能です。慣れてきたら、補助を最小限にすることも、支援レベルを最大にすることで全自動回避を有効にすることもできます。あくまでプレイヤーの意図に寄り添った補助を前提に設計されています」

「うん、これなら使い方を自分で選べるって感覚になるな。初期のプレイヤーには、ちゃんと自分で戦ってるって錯覚を与えられる……上手く組み込めて良かった」

 

 そう言って剣を一振りして鞘に戻す。

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