理想よりリアル派
星屑の様に舞う粒子に包まれた意識が、ふっと浮上する。眩い光が収束し、視界がゆっくりと明転していくとそこは、何もない純白の空間だった。
天井も壁もない、ただ無限に広がるような部屋の中央に、半透明の操作パネル群が浮かんでいる。
指先を動かすたびにホログラムのウィンドウが波紋のように揺れ、視界HUDには項目名が順次表示されていく。
《ログイン認証:成功》
《初期設定モードを起動します》
『Dive空間への転送、完了です。ここではキャラクターデータの初期設定を行います。』
フェリナの声が、まるで頭の中に直接響いてくるかのように聞こえた。右端のユーザーインターフェイス――UIには、彼女の小さなホログラムが表示されている。
「おぉー、ちゃんとキャラメイキングルームになってるね」
『はい。外見・身体データ・初期ステータス、すべてここで設定可能です』
目の前に立体ホログラムのパネルが次々と展開する。中央には等身大のアバターが半透明で投影されている。視線を操作パネルへ移し、指先で軽く触れる。すると、中央に自身の等身大ホログラムが、数値を変えるたびリアルタイムで変化していった。
「結構自由に変更出来るし、動作もいいな」
『はい、Dive空間専用のインターフェースなので遅延はありません。次は、顔とボイスの調整に移りますか?』
深く息を吐き、無機質な空間を見渡した。
ここでのキャラクターメイキング――まるで理想の自分をゼロから設計するような感覚に、胸が高鳴る。
『まずはキャラクターの基本データを設定します。身体情報のキャリブレーションを行いますので、このまま数秒間お待ちください』
「キャリブレーションね。フェリナ、これ自動でやってくれるのか?」
『はい。Dive Unitが怜汰くんの身体データを直接取得しています。身長、体格、可動範囲、握力や視力まで自動で同期しますので、怜汰くんの現実のスペックに近い状態で始められます』
短い電子音と共に、HUDに数値が次々と表示される。体格、筋力、反応速度、握力など、まるで健康診断の結果をリアルタイムで見ているようだった。
「……いや、握力の数値とか出す必要ある?」
『あります。武器の装備条件に関わりますから』
「なるほど……リアルだな」
同期が終わると新たなパネルが追加される。
《種族選択》
《性別設定》
《体型・骨格バランス》
『ここから、種族と性別を選択します。人間型以外にも、獣人、エルフ、魔族など選択可能です。
現在は、開発者モードなので隠し種族にもアクセスできます』
「隠し種族か……いや、今回は人間型のハイヒューマンでいこう。他は慣れてからでいい」
『了解しました。では、怜汰くんの現実データをベースにアバターを自動生成しますか?』
「お願い。せっかくだし生成したアバターの調整してみようかな。少しだけ身長を上げてみたい」
設定を変えていくと、アバターの身長がリアルタイムで伸び、体格バランスが最適化されていく。フェリナはその様子を見守りながら、小さく頷いた。
『おすすめは、現実比プラス5%以内です。
あまり極端に変えると、空間認識にズレが生じます』
「なるほど……じゃあ変更なしで……」
骨格の設定が終わると次のホログラムへ切り替わり、顔や髪型を調整するパネルが浮かび上がった。
『ここからは外見とボイスの設定です。
リアルに近づけるか、まったく別人にするかは自由です』
「せっかくだから少し理想寄りにするか……」
髪の長さを変えると、アバターの映像も自然に変化する。視線を動かすだけで、表情や肌の質感、声のトーンまでも細かく調整できた。
『声も三段階で設定できます。現実ボイスをそのまま使う、加工して低めにする、あるいは完全に別の声に置き換えることも可能です』
「じゃあ、現実より少し低めにしておこうかな。渋く、かっこよく聞こえるように」
『了解です。リアルタイムで試聴しますか?』
「お、試聴できんのか。聞かせて」
HUDから流れてきたサンプルボイスを聞き……これが自分の声になると。
「うん! 違和感しかない、全てリアルデータにベースに戻して」
『了解です。現実スペックを基準に反映しますね』
全てのキャラクター設定を終えると、俺のUIに小さな完了アイコンが点灯した。淡い光がパネル群を包み込み、無機質だった設定ルーム全体が静かに暗転していく。
『初期キャラクターデータの設定が完了しました』
フェリナの声が、少しだけ柔らかい響きで耳に届く。
『クローズドα用サーバーへの転送ゲートを起動します。怜汰くん、準備はよろしいですか?』
「……いよいよか」
思わず小さく呟き、握っていた手をゆっくりと開く。フェリナのホログラムが視界の端で頷き、次の瞬間、足元から星屑が舞い上がるように光が広がった。
目の前に、淡く輝く巨大なゲートが形成される。
幾何学模様のラインが絡み合い、中心部に向かって吸い込まれるように流れ込む。
フェリナが残りの秒カウントを表示した。
『ここから先はゲーム内の仮想ワールドです』
「ここまできたら向こう側を見ないとね、どんな感じか見にいこうか」
『はい。現在はテスト環境なので、NPCも最低限しか稼働していません。ですが、動作検証には十分です』
「やっぱりチュートリアルのチェックまでしたら終わりにするか」
『了解しました。ゲームの中への転送を開始します』
光の奔流に包まれ、重力の感覚がふっと消える。
一瞬、世界との接続が切り離されたような感覚に囚われ、身体が宙に浮く。やがて視界は一面の白に包まれ――そして、まるで水面を突き破るように、俺は新たな世界へと滑り込んでいった。




