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王道

「じゃあ、キャラ設定とかスキルの細かいところは、俺が基本の部分を決めてデータにして渡す。フェリナは初期フィールド案をいくつか出してくれない?」


『了解しました。小規模ワールドの試作として、二つの配置案を生成します。それと、一つ提案があります』


「提案?」


『はい。完全な架空地形ではなく、現実世界の地形データを一部参照してみてはどうでしょうか。標高や河川、街の配置などをもとに、スケール調整と加工を加えた似ている別世界を構築できます』


「現実の地形をベースにするってこと?」


『あくまで参考です。同一ではありませんが、なんとなく見覚えがあると感じるレベルの相関を持たせることは可能です』


 その案を聞いた瞬間、胸が少しだけ高鳴った。


「それ……めちゃくちゃ良くない? いつか実際に旅行して、『あ、この谷、ゲームのあそこっぽい』とか言えたら絶対楽しいじゃん」


『そのような体験は、プレイヤーの記憶定着にも有利です。では、日本にある公開地形データをベースに、特徴量の近い地形を抽出しながら生成します』


「お願い。直線の川とか、いかにもゲーム用の地形より、ちょっと歪んでるくらいのほうが雰囲気出るしね」


『了解しました。初期マップ案を仮構築します。環境・拠点・ダンジョン・生態系の初期パラメータ、生成開始』


 数分後、卓上ホログラム投影機から、空間に立体的な地形が浮かび上がる。


 俺の目の前に、色鮮やかに映し出される大地のミニチュア。中央の街並み、うねる川、森の陰に潜む遺跡、ところどころ、どこかで見たことがあるような谷の形や、川の曲がり方が混ざっている気がした。ホログラムが一度明滅し、一つ目のマップ案が展開される。


『仮構築が完了しました。パターンAです。こちらは王都から少し離れた地方都市が起点となる構成です。周囲に森と川と平原が広がり、初心者向けの活動圏を形成します。

 現実世界の地方都市周辺の地形を一部参考にしており、ありそうな街外れ感を強調しました。中級者以降は王都方面へ自然に進む導線を設定しています。王都の先には山と海が広がり、難易度は中〜高を想定しています』


 猫アバターのフェリナが、マップの横にちょこんと座って、器用に指示棒を持ちながら場所を指して説明している。

 ……猫の設定はどこいった?

 いや、可愛いからいいんだけど。

 説明がまるで頭に入ってこないのが問題だ。


 ホログラムの地形が霧のようにいったん消え、別の形へと組み替わる。


『続いて、パターンBです。こちらは最初から王都がスタート地点になります。王都を中心に東西南北へフィールドを展開し、それぞれ難易度を変えています。

南側を初心者向けフィールド、西側を中級者、北側を上級者、東側を特殊フィールドとして和風エリアにする構成です。暫定のため、地形の基礎データはパターンAと同一ですが、王都そのものは別の都市圏の地形データを参考にしています』


 フェリナの説明は的確で、言っていることはちゃんと理解できる。

 ……けど、猫アバターから目が離せない。

 いつの間にか丸メガネまで掛けてるし。

 そんなの設定した覚えないんだけど。ずるい。かわいい。


「どちらも、すごくありそうな感じがして良いな……。ありがとう。選ぶなら、今回はAをベースにしたいかな」

『理由をうかがってもよろしいですか?』


「ゲームの王道ってさ、まずは街の外れから始まるイメージが強いんだよね。街で準備して、外に出て、ちょっとずつ世界が広がって、やがて王都へっていう流れ。確かにテンプレなんだけどさ」


 きっと、ありふれたパターンに見えるはずだ。


 でも……だからこそ、フルダイブした世界を自分の足で歩きたいと思った。


「昔読んだテンプレみたいな物語ってさ、実はめちゃくちゃ胸が熱くなるんだって……最近、改めて思ったんだよ」


 口にしてから、自分でも少し笑えてくる。高校生にもなって、こんなことを真剣に語ってるの、やっぱりちょっと恥ずかしい。


「夜更かしして夢中になった冒険……あれを自分でもう一度やってみたい。誰かのためとかじゃなくて、俺自身が。もう一回、あの興奮をちゃんと味わってみたいんだ」


 フェリナのアバターが、静かにこちらを向く。猫の瞳に、ホログラムの光が淡く反射して揺れた。


『怜汰くんは、その感覚を再現したいと考えているのですね』


「うん。昔は、画面の向こう側にあるどこか遠い世界だと思って見てたけど……今度は、自分の足でそこに立ちたい。街を出て、仲間を得て、王都を目指す――あのワクワクする始まりを、自分で作りたい」


 言葉を重ねるほど、胸の奥が少し熱くなる。


「それにさ。もしこのマップが現実のどこかとちょっと似てたら――いつか、本物のほうにも行ってみたくなるかもしれないだろ?ゲームで最初に来た街に、今度は現実の自分で行く、みたいな。

 そういうの、ちょっとロマンない?」


『プレイヤーの行動傾向としては、十分にありえるケースだと思います。ゲーム内体験が現実世界の移動先選択に影響を与える事例は、既存のデータにも存在します』


「うん。だったら、その最初の一歩を作れるのって、けっこう大事だよな」


 フェリナは小さく首を傾げ、演算ログを読み取るように静かに言った。


『要件、理解しました。怜汰くんが求める体験の構造を再現するため、現実の地形データとの相関を維持しつつ、フィールドの生成を継続します』


「はは……言い方は相変わらず淡白だけどさ。

でも、それで十分だよ。フェリナ、よろしく」


『了解しました』


「……じゃあ、今夜はここまでにしよう。フェリナ、初期フィールドの生成と、あとで配置する用のオブジェクト生成をお願い。まずは街とその周辺、平原と森、それから川沿いの地形。ひとつひとつ小分けに生成して、あとで順番に並べ替えられるようにしてほしい」


『ログを保存します……完了しました。ホログラムを終了します。続いて、マップデータの初期生成を開始します。進捗は明日報告します』


 ふわりと、空間に浮かんでいた地形のミニチュアが霧のように消えていく。

それを見届けてから、大きく伸びをした。


「さて……明日もがんばろー」


『はい。お疲れさまでした、怜汰くん』

 





 まだ陽の光も微かで、部屋の中は仄暗い。実際、寝てから五時間もたっていなかった。

 手にしたエナジードリンクを見つめながら、静かに息を吐いた。眠気を断ち切るようにひと口含み、目を閉じたまま口を開く。


 「おはよう、フェリナ。昨夜の進捗を教えてくれる?」


 机に置かれた卓上型ホログラム投影機が反応し、淡い光を放つ。

 ふわりと空中に展開されたのは、フェリナのアバターと、その隣に並ぶ未完成の地形データ。半透明のミニチュア地形がふわりと浮かび上がり、ゆっくりと回転しながら全体像を見せていた。


『現在、平原エリアの地形はおよそ20.3%の生成が完了しています。森と川の境界線に関しては問題ありませんが、植生シミュレーションに時間を要しています。草地の密度や樹木の種別、風や光源による影響モデルに曖昧さがあり、データの拡張が必要と判断しました』


 ホログラムに目を向けたまま、静かに頷いた。


「なるほど……やっぱり開発キットに入ってた植生データだけじゃ精度が足りないんだな。フェリナ、参考になりそうなデータの候補を探しておいてくれる? 植物名や周辺環境をシソーラスで展開して、動画投稿サイトなども含めて横断的に検索、できれば再生数や説明文の評価点を見て信頼性を判断してくれると助かる」


『了解しました。類義語を含めたキーワードリストを生成し、動画・画像・説明文の再生数と評価点をもとに精度の高いものを選別します。ただし、画像および映像データの内容解析には大規模な並列演算が必要になります。スパコンへの解析リクエストと、解析結果との連携設定を夜間作業の際にお願いします』

「うん、わかった。ありがとう。夜にまた一緒に進めよう」


 フェリナの応答を確認していると、ついニヤけてしまった。まだ時間はかかりそうだ。でも、確実に少しずつ形になってきている。この手間も遠回りも全部が楽しい。


 エナジードリンクを飲み干し、そっと立ち上がる。

 そろそろ学校にいかないと。

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