六合目
六合目に入り、これ以上はクルマで進めないとの事で全員クルマから降りる。
確かに、舗装されていた道路は途中で途切れていた。
それでも時間が経っているから、土や枯れ草が道路に侵食し境界線をあやふやにさせる。
ここから先は切り取られてしまったのか、それとも異物に上書きされたのか。
むき出しの土、ひび割れた地面。
そして、目の前に広がるのは枯れ木の森。
葉が落ち、急成長したからか螺旋状に捻れた木々が、まばらに生えている。
この地の栄養を全て吸い取って糧にしているんだろうか。この捻れた木が、ここの土が死んだ要因の可能性がたかそうだ。
それに、漂う霧のせいで視界がやけに悪い。木が密集しているわけじゃなく、霧が隙間を埋めているのが原因だろう。
うーん、遠くがまったく見えない。
視界が悪いとこんなにも不安になるのか。
ここまで登ってくる際にクルマから見えてた霧は、思っていた以上に厄介だな。
隣でカーラがクルマをアイテム袋にしまった。
袋を持ったままクルマに手を当てると、ホログラムが解ける様に消えていった。
なるほど、それでアイテム袋に入ったことになるのか。
てっきり、クルマが袋の口に吸い込まれるように入るもんだと思ってたのに……ちがったみたい。
「……雰囲気、変わったねー」
菜々が自分の肩と弓を共に抱きながら、凛の後をついて行く。
「ここから先はモンスターがさらに増えますので注意してください」
カーラの声も、心なしか緊張を帯びている。
まずは戦いやすい場所の確保をしたのち、レベリング。
遭遇するモンスター次第で山頂に向かうかの判断をしようと思う。
俺とフェリナも普段着から専用装備へ。装備変更ボタンをタップして着替える。
俺はバラグラムの剣を持ち、フェリナは世界樹の杖を持っている。一瞬で着替え終わった。
「準備はいいですか? 少し横に逸れましょう。これから固定狩りできそうな場所を探しにいきます」
全員が頷き、俺を先頭に森の中へと進む。
途中、フォレストウルフやホブゴブリンが現れるが、すぐに対応できた。
前衛は敵が近寄ってくるモンスターを易々と斬り伏せる。
後方からは、矢が飛び、風魔法が走り、こちらに近づけないように仕留めていく。
連携も前よりスムーズになっていた。攻撃が被る事もなく自分の攻撃可能エリアを殲滅していく。
「俺たちもよ、あれから六人で何度もクエスト受けたからよ、それなりに連携はとれるぜ」
一週間前よりもみんな仲良くなっていて少し羨ましい。その中でもガルドは兄貴気質からみんなを引っ張っている。
「やっぱりフェリナ嬢のバフがあるだけで殲滅速度が段違いだな」
「ちげぇねぇ、なんだか英雄様にでもなった気分だぜ」
上機嫌なロブとガルド、確かにと頷いている凛の前衛組。前衛にとっていかに早くモンスターを倒せるかが自分の身を守る上で大切な事だからこそ、より実感しているのか。
確かに、思い通りに動ける体、敵の場所を把握しながら最短経路で斬り結んでいくのは快感だった。
「この調子ならもう少し上に登りながら拠点をかまえましょうか」
少し上のエリアに変更し進むが、僅かな異変が起きていた。
――少ない?
上に登るにつれて、明らかに遭遇する頻度が落ちてきた。
「……なんか、静かじゃない?」
凛が小さく呟く。
「先ほどからモンスター減ってきてますね」
クーライズも不測の事態に備え、常に万全の体制を維持できる様にサポートしてくれている。
みんなが同じことを思っており、さらに警戒を強める。
聞こえてくる雑音に水の流れる音が混じりはじめた。
なので、まずは水の音が聞こえる方を目指すことに。
もしかしたらここら辺のモンスターが減った原因が見つかるかもしれない。
ふふ、これは間違いなく良い前兆だ。
ゲームだったら大抵はこの後何かあるはず。
楽しみだ。
「怜汰くん、顔緩んでますよ」
「おっと、隠せ隠せ」
思わず緩んだ口元を、鎧の襟に押し付けるようにして隠した。
みんながスリルを満喫しているのに、隣でニヤけている人がいたら流石に興醒めだろう、自重しないと。
そんな温度差を抱えたまま、音の大きくなる方へと進んでいくと――視界が、開けた。
「……え?」
誰かの声が漏れる。
目の前にあったのは――大きな滝だった。
遥か上の岩肌から、水が激しく降り注ぐ。
その滝の麓には、少し広い開けた空間。
ただ。
妙に、空気が重い。
水が流れているのに、清々しさがない。
どこか、澱んでいる感じがする。
「……水、飲まない方がよさそうだね。美味しくなさそう」
「同感です」
軽く頷き合う。
周囲を見渡す。
視界も最低限は確保できているので敵を見つけやすく、休みやすい。
背後は滝で遮られている。
それに、きっと大きな敵が出てくるとしたらこういう広い場所だろう。
悪くない。
「よし、ここが良さそうだ、ひとまずここを拠点にしましょう」
枯れ木の森も、この滝もおそらくは融合した向こう側の影響。
ここまで散見していたモンスターもほとんどいない。
休むにはいいけど……レべリングには物足りないな。
軽く手を叩く。
「まずは、この周辺のモンスターを排除して安全確保しよう」
全員の視線が集まる。
「二手に分かれます」
指を二本立てる。
「俺とロブさん、エーヴェルさん、クーライズさんのパーティ。フェリナ、凛さん、菜々さん、ガルドさん、カーラさんのパーティ」
それぞれ、軽く頷く。
「俺たちは山頂側を押さえます。フェリナたちは反対側。お願いします」
「了解です」
「任せてー!」
「うむ」
返事が重なる。
フェリナが一歩前に出て、小さく微笑む。
「では、それぞれ警戒を怠らずに。異常があればすぐ共有を」
「了解」
深く息を吸う。
視線を前に向ける。
「よし」
少しだけ、口元が緩んだ。
「行動開始」




