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再び霊峰へ

 視界が開けた瞬間、つま先が触れるのを感じ、すぐさま絨毯の上に着地した。

 手のひらの感触に、体の重さ、空気の冷たさも、現実と何一つ変わらない。

 

 やっぱり、こっちも間違いなく現実か。


 そう思いながら周囲を見渡す。

 前回ログアウトしたセラフィナの私室だ。

 隣を見ると、フェリナがいつもの少女の姿で立っていた。


「とりあえず、レックスに挨拶してから行こうか」

「はい。いまは執務室にいるようですね。行きましょうか」


 フェリナと並んで部屋を出る。

 出た先の廊下には静かな空気が広がっていた。


 朝だからか人の気配は少ないが、遠くでは使用人たちが動いている気配がある。

 記憶を頼りに執務室へ向かい、扉の前で軽くノックする。


「どうぞ」

 中から返事が返ってきた。

 よかった、そう思い、扉を開けると――


「おはようございます。お待ちしておりました、怜汰様、フェリナ様」

 レックスが、すぐ側まで歩いて来ていた。

 

「おはよう、朝早くにごめんね」

「おはようございます」

 俺に続き、隣でもフェリナが挨拶をしている。

 

「キリエより本日のご予定を聞いております。霊峰への許可証と移動手段、すでにご用意しております。いつでも出発可能です」


 まじか。


「キリエが、もうそこまでやってくれてたんだね。本当に助かってる。ありがとう」

「お役に立てているようで、何よりでございます」


 カロディール家にはお世話になりっぱなしでなんだか申し訳なくなってくる。


「外には高機動車両と護衛を手配しております。以前、共に任務に就かれたギルドの方々です」


「おー……もしかして、あのメンバー?」


「はい。前回の経験と装備更新により、戦力としても向上しているとの報告を受けております。霊峰でも足手纏あしでまといにはならないかと」


 それは、正直ありがたい。


「そっか。なら心強いな」

 軽く息を吐いてから、前を見る。


「待たせるのも悪いし――行こうか」


「かしこまりました。ご案内いたします」


 


 館から近い北門の外に出たところ、見慣れた顔ぶれが、揃っていた。

 輸送車両の横に並ぶ七人。


 暴走ドライバーのカーラ。

 聖女見習いのクーライズ。

 戦士タンクのガルド。

 剣士のロブ。

 魔法使いのエーヴェル。

 剣士の凛。

 弓使いの菜々。


 全員、以前よりも装備が新調されていて強そうに見える。なにより、ベテラン冒険者らしくカッコよくなってる。


「あー! 怜汰くんとフェリナさんだー! おっひさー!」


 凛が、相変わらずのテンションで手を振ってくる。見た目は変わっても中身まで変わるには時間は足りてないみたい。でも、この感じ、ちょっと安心するかも。


「怜汰くん、やっほー」


 菜々さんも、少しだけ笑って軽く手を上げた。


「よう、また世話になるな」

 ガルドが腕を組んだまま言う。


「お前、なんか偉くなってねぇか? 敬語とか無理なんだけど」

「……うむ」


 ロブとエーヴェルはいつも通り。


 その空気に、少しだけ肩の力が抜ける。


「みんな久しぶり」

 軽く手を上げて応える。


「別に偉いとかじゃないから、気にしないでいいよ。今まで通りで」


 それから、全員を見渡す。


「今日は護衛を受けてくれてありがとう。まずは行けるところまで行こうと思う」

「よろしくお願いします」

 フェリナも、静かに言葉を添える。


 その瞬間――

 

「……ぁぁ……神々しい……」

 クーライズが膝を着き両手を組んで震えていた。


 ……あれ? なんかキマってる?


「やはり……御姿を……」


 完全に信仰してる。

 なんか方向性が違う。

 こないだまで米を崇めてなかったっけ……。


 クー(食う)ライス(米)さん。

 ……ダメだ、触れたら負けだ。



 

 挨拶を済ませ、輸送車両へ逃げ込む。

 

 霊峰へ向かう道中、カーラとガルドから現状の説明を受けていた。


 世界が融合した影響で、六合目まではかろうじて舗装された道路が残っているらしい。

 一部では崩れかけているものの、車で進むこと自体は可能だという。


 ただし、安全ではない。

 モンスターが普通に出る。

 しかも初心者フィールドと比べ物にならないぐらい強い。


「道から外れんなよ。森に迷い込んだ瞬間、囲まれるぞ」

 助手席に座るガルドが短く言う。


「まぁでも、このメンツなら問題ないでしょー?」


 運転席に座るカーラが軽い調子でハンドルを切った。

 いや、スピード出しすぎじゃないか?


 視界の端を、何かが横切る。


 次の瞬間――


 風を裂く音。


 菜々の放った矢が一直線に飛び、遠くのモンスターの頭に突き刺さると同時に乾いた破裂音と光の粒子が後方へと噴き出る。

 そのままモンスターは消えた。


《ファイアーランス!》

 間髪入れず、別方向へと放たれた火魔法が炸裂する。


 爆炎と衝撃。

 モンスターは煙が引いても姿は見当たらなかった。

 こんな遠くから一撃で倒したのか。

 エーヴェルって何気に魔術師として優秀なのかもしれない。


「次、右奥」

「見えてる」


 短いやり取り。無駄がない。

 放たれる矢と魔法が、ほぼ同時に敵を貫く。

 完全に連携が仕上がってる。

 前より確実に強くなってるな……。

 

 動いている車から。菜々とエーヴェルが立って前方の敵を次々と処理していく。

 何度モンスターに襲われようとも、何事もなかったかのように車は進み続けた。


 

 ……いや、快適すぎるだろ。


 幌は完全に畳まれ、車はオープン状態。

 吹き抜ける風が、そのまま肌に当たる。


 視線を前へ向け、遠くに見える霊峰。


 その六合目と言われたあたりから遠目で見ても変わっているのが分かる。

 なんだろう、枯れ木が多く、霧が掛かっている。

 視界が悪いとなると、奇襲や囲い込まれない様に注意しないと。


「おう、この先が六合目だな」


 ガルドが顎で示す。


「そこまではまだ余裕あるけどよ――」

「六合目を越えたら、一気に変わるよー」

 カーラがガルドから続きの言葉をもぎ取る。

 ……ガルドがちょっとしょんぼりしてる。


「完全にモンスターのテリトリーだね、密度も段違い」

 その言葉に、周りのみんなが自然と息を飲む。

 確かにモンスターのレベルが高くなって来ている。

 でも、40レベル前後で同じぐらいならちょうどいい。

 少しみんなは背伸びでのレベル上げになるけど、その分レベリングも捗るはず。

 俺は適正だし、ひとまずはここで様子見するか。


「よーし、六合目に到達したらそこで固定狩りしましょう。余裕があれば進もうと思います」

 

「はーい、頑張るぞー」

 ずっと座りっぱなしで出番の無かった凛が、今にも飛び出しそうな勢いで身を乗り出している。


「クルマは近くに止めて数名ずつ交代で護衛かな?」

「ふっふっふー、その必要はありませぇーん!」

 

 ハンドルを片手で握りながら、じじゃーんと言って取り出したのは40cm角の布袋。

 もしや、それは――

 

「アイテム袋です! これには食糧が入っている他に、このクルマもしまえてしまう優れ物ですよ」

 

 すごいですねぇ、高いんですよぉとニマニマしている。

 前回は緋多さんたち、自衛隊の皆さんに護衛をしてもらえたからいいものの、ここは敵が溢れてくる危険地帯。

 クルマの護衛に人を割く必要が無くなったのは大きい。

 これで全員で戦闘に参加出来ることになった。

 


「私もそれなりには戦えるので協力しますね」

「それは頼もしいです。是非宜しくお願いします」

 フェリナが、柔らかく微笑んだ。

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