表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/54

来訪者

 翌日、日曜日の朝八時。


 作業部屋で昨日の事を考えていた。

 こっちでも見れる様になったステータスウインドウと睨めっこしている……。

 ゴブリン討伐の影響で、レベルは一気に43まで上がっていた。34から9レベルのアップ。


 ……さすがに、上がりすぎだろ。いくら格上のボスを倒したとはいえ、そこまで急激に上がることは無いはず。ゲームデータを引っ張り出してゴブリンジェネラル50Lvの取得経験値と34レベル以降の経験値テーブルを照らし合わせても、辻褄が合わなかった。ジャイアントキリング時の倍率アップを加算してもせいぜい2レベル上がれば良い方なのに。


 なにより、他のメンバーは、1レベル上がった程度だったはず。あの戦闘内容を考えれば妥当だし、むしろ俺だけがおかしい。


 考えられる理由はいくつかある。

 ゲーム時代のシステムが強く反映されている俺の経験値テーブルと、他の人だと違うのか。

 それとも――俺が生身ではなく、アバターで戦っていたからなのか。

 ただ、それだとガルドさんたちは俺と同じ条件のはず。


 頭の中で整理しきれず、俺は卓上にいるフェリナを見る。


「フェリナ。昨日の件だけどさ、俺だけレベルが異常に上がった理由、分かりそう?」


 猫の姿をしたフェリナは頭を傾げ、少し考える素振りを見せてから、静かに答えた。


『確証はありませんが……一つ、仮説はあります』


 そう前置きしてから、言葉を選ぶように続ける。


『怜汰くんのアバターは、《マギア・ニュートリノ》という物質で構成されています。そして、昨日倒したモンスターたちも――同じく、マギア・ニュートリノ由来の存在でした』


 ……確かに。

 倒したとき、肉体が崩れるのではなく、光の粒子になって消えていった。


『アバターもモンスターも、本質的には同一の物質――マギア・ニュートリノで構成されており、それが、マギア・ニュートリノ干渉装置によって、物質として観測・実体化されているのだと思われます』


「何度か聞いた未知の装置か……」


『モンスターは討伐されると、再びマギア・ニュートリノへと還元され、そのエネルギーが、討伐者へと吸収される。……つまり、アバターは、その吸収効率が極めて高い可能性があります』


「なるほど。生身の人間よりも、同質の存在であるアバターの方が取り込みやすいと」


『そして、もう一つ』


 フェリナは、俺を見る。


『アバターは、ログアウト時にマギア・ニュートリノへと戻ります。その状態で――最終的に、怜汰くん自身へと帰還する』


 ……え。

 それはつまり。


「じゃあ、俺が直接吸収してるみたいな状態ってこと? モンスターのエネルギーを?」


 フェリナは、はっきりとは断言しなかったが、小さくうなずいた。


『可能性は高いと思います』


 だから、俺だけレベルが跳ね上がった。

 だから、成長速度が異常だった。


 これはあくまでもフェリナの仮説ではある。だけど、今のところ一番、筋が通っている。


 ――この仮説が正しいなら、俺は、どこまで人間なんだろうか。

 考えがまとまらず、かといって何か別のことをする気力も湧かない。作業机に向かったまま、ただただ、ぼんやりと考えながら時間だけが過ぎていった。


 そのとき。

 ピン……ポーン、と間の抜けた電子音が鳴った。


 来客?

 誰か来るとしたら昂太と彩月くらいだけど、今日は特に予定してなかったはず。

 少しだけ警戒しながら、玄関のドアスコープを覗くと――案の定、昂太だった。

 ほっと息をつき、すぐにドアを開ける。


「おはー、良かった。元気そうじゃん」

 開口一番、いつもの軽い調子。

 その横には、彩月も立っていた。


「一昨日、なんか様子おかしかったからさ。心配になって来ちゃった。顔色も良さそうね。ほんとよかったよー」

 どうやら本当に様子を見に来てくれたらしい。

 心配をかけたな、と思いながら苦笑する。


「ごめん。ちょっと考え事してて、でももう大丈夫」


「そかそか、それならいいけどさ――」


 彩月がそう言いながら、玄関の外へと顔を向けた。


「……それで、怜汰の知り合いなのかな。怜汰んちの前で、ずっと立ち止まってた人たちがいたんだけど……」


 そう言って、彩月が一歩横にずれる。


 その先にいたのは――

 黒のワンピースに、肩から胸元までを覆う真っ白なエプロン。クラシカルなメイド服に身を包んだ、金髪の少女だった。

 癖のない、綺麗に整えられたストレートの髪。

 顔立ちは思い出せないが――この髪だけは、見覚えがある。

 ……間違いない。多分、キリエだ。


 そして、その少し後ろ。

 背筋を正し、静かに立つ黒と銀の礼装を着た銀髪の男性。落ち着いた佇まいに、隙のない立ち姿。

 間違いない、ディアスだった。


「ディアスも、いらっしゃい……?」


「急な訪問で申し訳ございません、怜汰様」

 ディアスは静かに一礼する。


 そして、隣の少女が一歩前に出た。きちんと姿勢を正し、頭を下げる。


「私が無理を言って来たのです。申し訳ございません、怜汰様。母上より身の回りのお世話を言い遣わされて参りました。差し支えなければ、本日よりお願い致します。」


 澄んだ声。

 真っ直ぐな瞳。


 ――え?


 頭の中で、ついさっきまで考えていたことが、一瞬で吹き飛ぶ。


 長年仕えてきた、経験豊富な人。

 掃除ができて、気配りができて、細かいところまで目が届く。

 ……そんなイメージ、どこ行った。


 横で、昂太と彩月が同時に固まっている。


「……え?」

「……メイドさん?」


 いや、俺も同じ気持ちだ。


 ディアスが、いつもの落ち着いた調子で補足する。


「本日は、セラフィナ様の命により、こちらへ参りました」

「今後、怜汰様の日常生活の補佐を担当する者として――」

 そこで、ちらりとキリエを見る。

「キリエをお預けいたします」


 ――は?


 一拍遅れて、理解が追いつく。

 昨日の手塩にかけて育てた優秀な子。

 ……そういう意味だったのか。


 頭の中で、セラフィナの微笑みと、「末永く、よろしくね」という言葉が、嫌なタイミングで蘇った。


 俺は、ゆっくりと息を吸い――

「……ちょっと待ってください」

 

 そう言わずにはいられなかった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ