食堂での祝勝会
向かったのは、みんながよく使っている行きつけの食堂だった。誰もが一度は来たことのある名店らしい。
夕刻の店内は、冒険者だけでなく、職人や商人、観光客までもが混じり、笑い声ですでにかなり賑わっている。
「ちょうど今、奥の席が空いてますよー」
恰幅のいいおばちゃんに案内され、少し広めの席へ。テーブルは二つに分かれており、自然と座っていく。
ロブさん、ガルド、エーヴェルの三人とクーライズで一卓。
そして、俺とフェリナ、凛、菜々の四人で一卓だ。
席に着くなり、ガルドが大きな声を張り上げた。
「とりあえず、俺らはビール三つ!」
ここのはよく冷えていて美味いんだと教えてくれた。
さすが常連、といった様子だ。
「私は蜂蜜酒をお願いします」
クーライズが、少し背筋を伸ばして注文する。この店のミードは甘さ控えめで飲みやすいらしい。
一方、こちらのテーブルでは――
「うーん……私たちは、カシスサワー二つ!」
凛が、菜々と顔を見合わせて元気よく言った。
「ここ、日本のお酒も結構メニューにあるんだよ」
と、誇らしげに教えてくれる。
残念だけど、みんなのおすすめはまたいつか。
俺はメニューを閉じて言った。
「俺とフェリナは、お茶で」
あとはみんな食べたい物を個々で注文し、最後の注文を聞いたおばちゃんは、冒険者顔負けの身のこなしで厨房へと伝えに行った。
「……君たち、もしかして未成年だった?」
「あ、はい。高校生です」
素直に答えると、凛は納得したように笑った。
「やっぱり日本人なんだね!」
そして、ちらりとフェリナを見る。
「でも……フェリナさんは?」
フェリナは、くすっと微笑んで肩をすくめた。
「ふふ。私は――どちらでもありません。なので秘密です」
「えー! なにそれ、気になるー!」
凛が身を乗り出すが――
「秘密って言われたんだから、聞かないの」
菜々がすかさず止める。
「そうですよ、凛ちゃん」
クーライズまで、やんわりとたしなめる。
「はーい……」
少し不満そうにしながらも、凛は素直に引き下がった。
「それにしても、怜汰くんは高校生なのにレベルも高いし強いねー、見た目も派手だし。ここらへんで噂になっていてもおかしくないような?」
「あー、俺たち今まで別の所でレベル上げしてて、ここに来たのは2回目なんです」
嘘ではない。1回目はかなり前だし、レベル上げはゲーム内だったし。
「ふーん、じゃあさ、これからはここで稼ぐの?タイミング合えばまたパーティ組もうよ」
「多分、来るとは思うけど、土日と祝日ぐらいなのかな……」
それでも合えばと言う二人、それに便乗して三人とクーライズも是非にと。とりあえず連絡先を交換していると飲み物が届いた。
「んじゃ、今回の功労者である怜汰、乾杯の挨拶を頼む」
「えっ……えっと……みんなお疲れ様!レベルアップおめでとう!またジェネラル狩り行きましょう、かんぱーい!」
「「かんぱーい!!」」
みんな勢いよくコップをぶつけてはしゃいでいる。
もう勘弁だと言うガルドたちのに近くから野次が飛び、ジェネラルなんてお前らじゃ簡単にお陀仏だと言われ、なぜか腕相撲に発展し、気づけば飲み比べが始まってしまった。
クーライズは周りの話を聞きながらひたすら料理を頬張り、如何に日本のコメが至高かを布教している。凛も菜々も春休みいっぱいは居るからまた行こうと誘ってくれてはいるけど、かなり酔っ払っていて明日まで覚えてられるかな?
混沌として楽しい時間はあっという間に過ぎ、時計が夜9時を指す頃にはみんな自分の宿へと帰る支度をしている。
「二人はどこに宿取ってる?おねぇさんが送ってこうか?」
へにゃりと笑う酔いどれ菜々さんのご厚意は丁重にお断りし、逆に送ろうかと提案すると食堂の向かいの宿だった。
「俺たち、ちょっと事情あって領主の所でお世話になっているのですぐ帰れますよ」
「んー? りょうし? 漁師ってどこの漁師だ?」
あ、これはとてもダルいやつ。
フェリナが変わって説明してくれた。
「ここの領主であるレックスの所でお世話になっています。なので、大丈夫です。なにかあればメールか領主館に伝言をお願いしますね」
「え、まじ?」「まじで?」
二人とも急に酔いが醒めたのか怪訝な顔をして見つめ合っているのは仕方ない。
とりあえず帰る事を伝えて、何かあればメールするとの事だった。
改めて、みんなとまた会う約束をして解散し、俺たちは領主館へと帰っていった。




