ジェネラルとの死闘
そろそろ決着をつけようか。
フェリナが復活した事で改めてバフが回ってくる。
身体が軽い。いや、さっきの比じゃない。
全てがもう1段階上へと、無理矢理引き上げられている。
これがフェリナの切り札――
《パッシブリンク・オーバーブースト》
一日一回、対象は自分ともう一人だけの制限しかなく、効果も10分ある。
ゴブリンジェネラルが、ゆっくりと動いた。
今まで以上に嗜虐的な笑みを浮かべている。
遊びの気配が消え、明確な殺意が立ち上る。ただのひ弱な獲物から、少しは遊べそうな敵へとランクアップしたってことか。
そりゃ光栄だ、お返しにその笑みを後悔と苦痛で塗り潰してやる。
重装の脚が地面を踏み砕き、巨体が一気に距離を詰めてくる。
――速い。
だが、今の俺たちなら。
「フェリナ!」
「はいっ!」
同時に動く。言葉はいらない。
いつものように、俺が左へ。
いつものように、フェリナが右へ。
ゴブリンジェネラルの剣が、中央を薙ぎ払う。
直撃すれば即死――そんな一撃が暴風のように振るわれる。
だが、そんなのは当たらない。守護獣と比べれば見える。レベルが低く身体が重くなったところで、見えさえすれば避けれるのは道理だった。だからこそ、さっきのバフが切れた時も、避ける事だけどなら問題はなかった。
俺が注意を引いた隙にフェリナの戦鎚が、背後から鎧へと叩き込まれる。
奴の鎧は硬い。だからこそフェリナは衝撃でのダメージを狙う。
俺は、その反動で体勢を崩したジェネラルの懐へ滑り込んだ。
剣を突き立てる。
――防具の隙間から首へと剣先を滑り込ませ斬り払う。
「っ……!」
ジェネラルは体を無理矢理捻る事で、防具を歪ませ浅く斬っただけで距離を取られてしまった。
だが、あとはこのハメ技で行けるとこまで削り切れる。
フェリナの声が、すぐ近く、奴の背後から響く。
「もう一度!」
戦鎚が、今度は縦に振り下ろされる。
全体重、全魔力、全力。
衝撃で、鎧が歪む。
そこへ――
俺の剣。
同じ場所へ、正確に、斬り込む。
鈍い音。
確かな手応え。
ゴブリンジェネラルが、初めて後退した。
――効いている。
だが。
次の瞬間、地面が爆ぜた。
振り下ろされた剣が、衝撃波を伴って地を叩く。
回避が、間に合わない。
「怜汰様!」
フェリナが、俺を突き飛ばした。
地面を転がり、視界が揺れる。
その隙を、ジェネラルは見逃してはくれない。
巨体が横たわるフェリナへと迫る。
頭上へと振り上げられた剣。
――間に合え。
俺は、地面を蹴った。
身体が、限界を訴える。
それでも。
オーバーブーストが、無理やり動かす。
振り下ろされた奴の剣を、横から弾く。
軌道が僅かに逸れる。
だが――衝撃によってフェリナが、吹き飛ばされる。
「フェリナ!」
今度は、受け身を取っていた。
すぐに立ち上がる。
「問題ありません」
そう言いながら、明らかに息が荒い。
オーバーブーストは、フェリナ自身にも負荷がかかっている。
もうじきタイムリミット。
時間も体力もギリギリ、長くは持たない。
分かっている。
決めるなら、今しかない。
ゴブリンジェネラルが、剣を大きく振り上げた。
全力の一撃。
真正面から受ければ、終わりだ。
「フェリナ、次で終わらせる!」
「了解です」
フェリナが、一歩下がる。
戦鎚を、腰だめに構えた。
魔力が、異常な密度で収束していく。
俺は、前へ出て注意を引く。
何度かの剣戟により、ゴブリンジェネラルの視線が完全に俺へ向いた。
剣が、振り下ろされる。
――来る。
ギリギリまで引き付けて、横へ跳ぶ。
地面が割れる。
その瞬間。
フェリナの戦鎚が、横合いから叩き込まれた。
「《インパクト》!」
踏ん張りが効かず、距離を取った俺の方へと吹き飛ばされてくる。
狙いは――
さっき歪ませた、同じ場所。
叩きつけるように《斬り上げ》る。
装甲が、砕けた。
完全に、割れる。
俺は、迷わず踏み込む。剣を、首へと突き出す。
――深く。致命傷を与える。
ゴブリンジェネラルの身体が、硬直した。
一瞬の静寂。
そして。
巨体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
光の粒子となって、空へと散っていった。
広場に、静けさが戻る。
……勝った。
オーバーブーストの効果時間が終わり、解除される。
身体が、一気に重くなる。
「怜汰くん!」
フェリナが、すぐに支える。
「大丈夫ですか?」
「ああ……なんとか……」
周りを見ると、みんな呆然としていた。
「……倒した、のか」
ガルドが、信じられないものを見る目で呟く。
「ゴブリンジェネラルを……」
凛が、小さく息を吐く。
フェリナは、戦鎚を肩に戻し、少し照れたように微笑んだ。
「皆さんの支援があったからです。私たちの勝ちです」
一瞬の静寂。
次の瞬間――。
「……は、はは……!」
誰かが、堪えきれずに笑い出した。
「やった……やったぞ!」
ガルドが、思わず拳を握りしめる。
「生きてる……!」
菜々がその場に座り込み、弓を抱えたまま膝を抱えて座る。。
「冗談だろ……あれ、倒したのかよ」
「……化け物だったな」
ロブが天を仰ぎ、エーヴェルは短く息を吐いた。
「うぉおお……!」
凛が遅れて大声を上げた。
「生き残ったぁ……!」
歓声とも、雄叫びともつかない声が広場に響く。
恐怖が抜け落ち、緊張がほどけ、ようやく終わったという実感が全員に行き渡っていく。
――生きていて良かった。
俺は、フェリナを見る。
「……ありがとな」
「当然です」
短く、でも確かに。フェリナは、誇らしげに頷いた。
戦闘が終わり、張り詰めていた空気がゆっくりとほどけていく。
「……レベル上がってる!」
凛がアプリを起動し、声を上げた。
「私も!」
「ほんとだ……一気にだな」
次々に確認する声が上がり、皆の顔に自然と笑みが浮かぶ。死線を越えた実感が、ようやく追いついてきた。
そんな中――。
「おい、見ろよこれ!」
ガルドが俺たちの足元、ジェネラルが消えた場所を指さす。
そこには、いくつかの小さな立方体が散らばっていた。
淡く光る半透明のキューブ。
ドロップ品は、アイテムキューブとして落ちるらしい。
拾い上げると、キューブの上に半透明のウインドウが浮かび上がるから中身が分かるんだと。
《アイテム名》と《開封》のボタンが表示される。
……これは、ゲームにはなかった仕様だ。
ゲームでは自動でアイテムボックスに入っていたが、現実ではアイテムドロップという形になるらしい。
「へぇ……」
フェリナも、興味深そうにキューブを見つめている。
「おおっ!?」
突然、ロブが声を張り上げた。
「金色だ! 金色のキューブがあるぞ!」
「マジか!? それ、かなりレアだぞ!」
三人組が一気に色めき立つ。
どうやら、キューブの色でレア度が分かるらしい。
灰色、銅、銀、金――この順で希少価値が上がる。
さらに、属性が絡むと青や赤、緑といった色も出るらしいが――
「俺は見たことないな」
「噂だけだな」
とのことだった。
そして、分配の話になったとき、少し揉めた。
「今回は……俺たちはいい」
ガルドが、はっきり言った。
「ナイトすら、あの支援がなきゃ勝てなかった」
「ジェネラルなんて、正直、手も足も出てねぇ」
ロブとエーヴェルも頷く。
凛と菜々も同意見だった。
「私たち、ほとんど何もできてないし……」
「正直、あの場に立って生き延びたこと自体が奇跡だよ」
謙虚すぎるくらい、全員が口を揃えてそう言った。
装備品のドロップの結果として――。
ゴブリンナイト三体からは、ミスリルソード三本、胸当て、マントがドロップ。
ガルド、ロブ、凛の前衛三人に剣と、防具をエーヴェルに渡した。
そして――ゴブリンジェネラル。
銀色と金色のキューブから出てきたのは、
大きな魔石と、《ジェネラルボウ》という弓だった。
「弓……」
菜々が、少し戸惑ったように呟く。
「使わないから、受け取って」
そう言うと、彼女は何度も断ったものの、最後には折れて受け取ってくれた。
ただ、こちらが申し訳なくなるほど、深く頭を下げられてしまった。
最後は何も受け取っていなかったクーライズに、大きな魔石を渡した。
これで分配は終わり――と思ったんだけど。
「……あれ?」
凛が、首を傾げる。
「怜汰くんたち、何も受け取ってなくない?」
その一言で、みんなの表情が強張った。
「いや、使わないもの持っててもしょうがないし、装備は使える人優先だよ」
本音を言えばそれだけだった。ゲームの時からの常識だと思っていた。
だが――。
ダンジョン産の装備は売れば金になる。
だから使わなくても受け取るのが当たり前だと言われてしまった。
「じゃあ、せめて報奨金は全部受け取ってくれ」
ガルドが即断する。
「異論あるやつ、いるか?」
誰も反対しなかった。
「……じゃあ、ありがたく、頂きます」
正直、手持ちはほぼゼロだった。
金は、素直にありがたい。
ゴブリン、ナイト、ジェネラル。
それぞれが、どれくらいの額になるのか。
ギルドへ戻る楽しみが、ひとつ増えた。




