予想外の連絡
二次審査から二日後、結果発表。
「……やっぱダメかぁー」
画面を閉じ、軽く伸びをした。
合格したのは100名中の上位20名には届かなかったか。ダメ元だったとはいえ、かなり悔しい。
「まぁ、今のフェリナに対する反応を聞けたしな」
感想やアドバイスはどれも具体的でありがたかったけど、めぼしい発見やアイディアはなかった。このまま突き進むしかないか。
これからどうしようかと考え始めた時――PC画面の隅に、新しい通知が届いた。
送り主:Synquanta
件名:【特別任命開発者登録のお知らせ】
「ん? Synquantaから?」
軽い気持ちで開いてみると、数行目で目が止まった。
今回提出したAIが、社内の別部門で高く評価されたらしい。その結果、本選考とは別枠で、開発者向けサービスの有料機能がまとめて開放されるという。
「ん……? 別枠?」
なんだそれ。落選者への慰め特典みたいなやつか……?
そう思ったが、内容が完全に予想を超えていた。
要するに――
・Synquanta内部の技術部門から特別認定
・「特別任命開発者(特任DEV)」に登録
・S.A.I Developer Program 有料サービス全解放
・S.A.I搭載デバイスのフルコントロール権限(Root Dev Access)
→ 登録可能デバイスは最大三台
・VRゲーム作成キットも任意で付与
などなど、どう考えても普通に貰える内容じゃないと思う。
てっきり落選者への通知や、よくある「これを買えば審査通過できる」的な教材広告かと思った。
何度か読みなおしたけど、そうではなさそう……。
「これ、本当に俺宛で合ってるよな?」
俺が呟くと、スピーカーからフェリナの声が静かに返ってきた。
『メール本文に添付されたアクセスキーは、有効性が確認されています』
「マジか……」
冗談でもいたずらメールでもないらしい。よくわからないけどお得のようだ。
「まぁ、いいか。タダで使えて、フェリナをパワーアップできるなら……使うしかないよな」
『新しい演算リソースは、学習効率の向上に有益と判断します』
抑揚のない声なのに、不思議と背中を押された気がした。思わず笑い、椅子を軽く回した。
「だよな。じゃあ、遠慮なく使わせてもらうか」
まだ少し疑いつつも開発者ポータルにログインしてみると、シンプルだったメニューにたくさんのタブが追加されていた。なんだこれ。
「……いやいやいや、こんなに増えても何ができるかさっぱり分からないし」
・クラウド演算ノード
・ログ解析支援モジュール
・AIテスト環境 (フラグシップモデル)
・仮想オブジェクト生成ツール
・VRゲーム作成
ほかにも細かく増えているけど用途がわからん。いつか使う日が来るといいけど……。追加された機能は横文字だらけ、全部をいま理解しようとしても無理!
「……フェリナ、とりあえず今回増えた機能のマニュアル読み込み、要約をお願いしていい?」
『了解しました。順次処理を開始します』
淡々とした返答が返ってくる。こういう処理こそAIの得意分野、分担して進めよう。
「で……一番気になるのはこれだよ」
メニューの一つにカーソルを合わせる。
・VRゲーム作成
「……これ、どういう意味だろ? 作れるってことなのか?」
『VRゲーム作成キットについて、概要を読み込みました。利用には、申請フォームから手続きを行う必要があります』
「申請って……申請したら、僕も作れるってこと?」
『はい。Synquanta製フルダイブVR機向けタイトルの開発権限が付与されています』
「……開発権限って。そんな簡単に言うなよ……」
Synquantaがフルダイブ型VR機の開発を正式に発表し、各メディアや業界の間で「次の時代が来る」と大きな話題になっている。実証実験や限定デモが公開され、VR技術の到達点として注目を集めていたのだ。
まさか、そのVRゲームを作る側になれる可能性があるなんて。考えてもみなかったルートが、急に目の前に現れている。
『申請フォームを表示しますか?』
「……お願い」
画面に、特任DEV向けの開発フォームが表示された。
そこには、確かに書かれていた。
――Synquanta VR Title
――Developer Application(特任開発者専用)
「……これ、本当に……僕が送っていいやつ?」
『権限の不一致は検出されていません』
「いや、そういう意味じゃないけど……」
でも、思った。こんな機会は、二度と来ないかもしれない。
「……送る」
緊張と迷いからか震える指で、送信ボタンを押した。
『申請を受理しました。承認まで、数分程度と予測されます』
「数分て……はやっ……!」
無駄に心の準備をしていた俺の気持ちとは裏腹に、
画面の右上に、新しい通知が即座に表示された。
――VRゲーム作成キット:利用可能になりました。
――開発用デバイスキット及び動作確認用VRデバイスを個別に発送致します。動作確認用デバイスは発送に一ヶ月ほどのお時間が掛かります。
「……マジかよ。ほんとに……ほんとに作れるんだ……!」
胸の奥が熱くなる。ここから、全部が動き出す気がした。
『初期プロジェクトの作成手順を表示します』
「よし……やろうか。フェリナ、手伝ってね」
『了解しました』




