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ボス戦

「開きましたよ」


 フェリナは、どこか晴れやかな表情で一度だけ息を整えると、砕け散った扉の向こうへと大胆に足を踏み入れた。


 俺たちも後を追うように入っていくと、そこには……思っていたのと、まるで違った。


 内部は通路でも、居住区でもない。

 そこに広がっていたのは――青空が見える広い空間だった。


 遮蔽物は何もない。

 壁際まで視界を遮るものがなく、まるで最初から戦うためだけに用意された場所のようだった。

 

「……なにここ、広場?」

 凛が、思わず声を漏らす。

 たぶん――ここが、最終地点なのだろう。


 広場の中央には三体のゴブリンが立っている。

 今までの個体とは明らかに違う、真新しく重厚な装備。全身を覆う金属鎧。大きい盾と剣を構え、微動だにしない。


「ありゃゴブリンナイトだな」

 ガルドが低く呟く。

「ちと厳しいぞ……」

 

 そして――。

 さらに視線を上げた、その先。


 広場の奥。壁の上に一際高く組まれた建造物の上に、それはいた。


 目の前のゴブリンより、二回りは大きい体躯。

 筋肉の輪郭を完全に覆い隠す、重装備。

 隙間なく着込まれた鎧は、身体を守るというより――存在そのものを要塞化している。


 静かにこちらを見下ろす、その姿。プレッシャーが違う。

 そして、ボスの証である表示。

 視界に浮かび上がる情報――ネームは濃い赤。

 自分のレベルより格上を示す、警告色。


 BOSS:ゴブリンジェネラル Lv50


 ……は?


 一瞬、思考が止まった。


 俺はレベル34。

 仲間たちは10~20台。

 これは――勝負にならない。

 戦えば死ぬ。

 それも、いくら策を練っても運が悪ければ一瞬で。

 幸いにも他のみんなには赤い名前は見えていないようで、そこまで絶望はしていない……。動きが鈍るよりはマシだと思うしか無い。


 ゴブリンジェネラルは、ゆっくりと首を巡らせ、俺たちを見下ろしていた。まるで、逃げ場のない檻に追い込んだ獲物を眺めるかのように。


 次の瞬間。


 言葉とも唸り声ともつかない低い音を発し――

 ゴブリンナイトが、一斉に動き出した。


 突如として始まった戦闘。

 三体のゴブリンナイトは、迷いなくフェリナを狙った。

 この場で最も重要な存在を、正確に理解している。


 まずい。このままフェリナがやられて弱体化した、全員まとめて押し潰される。


「フェリナ、行くぞ!」


 俺とフェリナは同時に前へ出た。

 正面から受け止め、全力で押し返す。左右へ、そして後方へ。二人がかりで押し返し、無理やり間合いをずらす。

 一撃が重いものの、フェリナのバフがあるからこそ、優位に立てていた。


 そして、狙い通りにゴブリンナイトは三方向に分断される。

「ガルド、ロブ、エーヴェル! 三人で左の一体を!」

「凛と菜々はフェリナの近くで右の一体を!」

「クーライズ、全体フォローお願い!」

 今取れる最善を頭の中で組み立て、口早に指示を飛ばす。

 

 まだ静観しているゴブリンジェネラルはいつ降りてきてもおかしくない。降りてくる条件は分からないけどまずは一体でも減らさないと四体は対処できない。

 いまは時間との勝負だった。


 基本スキルを混ぜながら剣を振るう。

 剣士の基本スキルは元々単発で使う事は考えていない。連続で絶え間なく斬りつける事で真価を発揮する。

 ゴブリンナイトへと接近し、《斬り下ろし》《斬り上げ》《突き上げ》などを一撃に乗せながら削っていく。


 俺の視界の端で、凛と菜々が必死に動いている。

 三人は上手く間合いを取りながら的を絞らせず、死角から攻撃を入れている。

 クーライズはどうしても受けてしまう攻撃を即座に回復出来るよう全体を把握しようとしている。


 ――少し優勢だ。だが、余裕は一切ない。


 そしてついに俺の魔剣が、ゴブリンナイトの急所、首を捉えた。


 ――いける。

 この一撃でクリティカルダメージを叩き込んで終わらせる。

 

 その油断した瞬間だった。


「怜汰様――危ない!!」


 フェリナの叫び。


 剣はそのまま、ナイトの急所を貫いた。

 光の粒子が弾けるのを見届けないまま、反射的に身体を捻る。

 

 同時に。


 視界の端で、巨大な影が接近を捉えた。


 ――ゴブリンジェネラル。


 速い。大きさに反して、異様なほど速い。

 次の瞬間、後方から鈍い衝撃音。


 フェリナが、横合いからのゴブリンナイトの一撃をまともに受け――吹き飛ばされた。


「フェリナ!!」


 地面に叩きつけられ、動かない。

 その瞬間、身体が重くなった。

 

 全員のバフが、消えた。

 まずい。崩壊する。


「――私が抑えます!」


 クーライズが前へ出た。

 両手を掲げ、即座に詠唱。


「《セイクリッド・バインド》!」


 光の鎖が伸び、ジェネラルとフェリナが受け持っていたナイトの二体を地面へと縛りつける。


 だが――軋む音が、はっきりと聞こえた。


「長くは持ちません!」

 クーライズが叫ぶ。

「凛さん! 菜々さん! 今です、決めて!」


 残ったナイトへ、全力で畳み掛ける。


 剣と矢。

 息を合わせ、押し切る。


 ――二体目、撃破。


 三人組も、限界だった。

 すぐさま合流し、残る一体へ。

 そして、最後のナイトが崩れ落ちた気配は感じる。

 

 なんとか。本当に、ギリギリの線でなんとか持ち堪えた。

 

 だが。

 いま俺が対峙しているゴブリンジェネラルへ誰も近づけない。

 近づけば死ぬ、ただ見ることしかできない。

 圧倒的な力量差。

 



「フェリナさん……」

 クーライズが駆け寄り、気絶するフェリナの治癒を施す。そして、ゆっくりと目を開いた。


「……皆さん、ナイトは……良かった、ありがとうございます」


 立ち上がり、側に落ちている戦鎚を握り直す。


「あとは――」

 フェリナはゆっくりと歩き出す。

「私と、怜汰様で打ち滅ぼします」


 再び、光が走る。

 さっきと同じ、バフ展開。


 ――だが、違う。


 《パッシブリンク・オーバーブースト》


「怜汰様、お待たせ致しました」

 

 フェリナが、微笑んだ。

「行きます」

「無事で良かった……いつもの、いくよ!」

「はいっ!」


 二人で、前へ。


 ゴブリンジェネラルが、ゆっくりと笑った――ように見えた。

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