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ゴブリン退治へ

 隣の部屋に入ると、一斉に視線がこちらを向いた。すでに受注を終え、待機していた冒険者たちのようだ。


「全員揃いましたね。では、さっそく出発しましょう。自己紹介は移動中にお願いします」


 そう言って、ギルド職員の制服を着た女性が足早に部屋を出ていく。東門を出た先にある、門番の詰所へ向かうらしい。


 その後を追うように、先に動き出したのは三人組。20レベル台のパーティだと、ひと目で分かる。


 分厚い盾を背負った大柄な男を先頭に、剣を下げた男と、杖を持った男が並ぶ。装備はいずれも使い込まれていて、無駄がない。

 いかにも歴戦の冒険者という雰囲気に見えた。……いや、二十レベル台って転職したてのはずだよな。見た目に騙されてるだけか。


 少し遅れて、日本人らしい二人組も歩き出す。剣士と弓使いの女性二人。説明にあった、十レベル台というのはたぶん彼女たちだろう。見た目的には大学生ぐらいなのかな。

 二人ともお揃いの動きやすそうな服装に、樹脂製のプロテクター。完全に異世界装備というより現実寄りでカッコいい。日本や海外の企業が、冒険者向け装備を売り始めているのかもしれない。ログアウトしたら、カタログでも探してみるか。


 そして――。


 壁際に、まだ動かずにこちらを見ている人物がいた。

 白を基調としたローブの女性。静かに立っている。身長は俺より頭ひとつ分ほど低い。だけど、彼女が手にしている杖は、ほぼ同じくらいの長さがある。回復職、か?

 視線の動かし方が落ち着いていて、場慣れしている印象。ただ、妙にこちらを見続けている。

 気になったのか、フェリナが一歩前に出て声をかけた。


「あの……何か?」

「いえ」

 女性は、はっとしたように一瞬だけ目を見開き、すぐに頭を下げる。


「不躾に見つめてしまい、申し訳ありません。……遅れてしまいますね。行きましょう」


 それだけ言うと、足早に部屋を出ていった。


 ……なんだったんだろう。

 まあ、悪意や害意はなさそうだ。

 深く考えるのは後にして、俺たちも遅れないように皆の後を追い、東門へと向かった。



 東門の詰所前で足を止めると、先に出ていたギルド職員が手を叩いた。


「はい、集まりましたね。では、こちらの乗り物に乗ってください。焦らず順番にどうぞ」


 そう言って示されたのは――。


 ……どう見ても、自衛隊の輸送用車両だった。


 無骨な車体。迷彩色。高い車高。

 ファンタジー感溢れる詰所の横、倉庫の中に置かれ暖気運転を開始するものの、すごく場違いだ。


 思わず、フェリナに小声で聞く。


「フェリナ、あれ……自衛隊のじゃない?」

「そうですね。年式は少し古いようですが、エンジン音からして整備状態は良好です。日本からの提供品でしょうか」


 すると、すぐ近くにいた職員が、聞こえていたのか笑いながら教えてくれた。


「ええ、日本との境が近いでしょう? だからすぐ向かえるように、払い下げてもらったクルマと言う乗り物よ。まだ配備されて間もないから、今日が初投入なの。私、運がいいわね」

 馬車なんかよりずっと早いわよ、と言う彼女の表情が少し惚けているのは気のせいだろうか……。

 

「さぁ、全員乗ったわね! 出発よ!」

 そう言った瞬間。


 エンジンが咆哮を上げた。


 アクセル、ベタ踏み。


「ちょっ――!?」


 身体が一気に後方へと引っ張られる。

 横向きに座る後部座席からは、野太い声から黄色い声まで、分け隔てなく悲鳴が上がった。そんなの聞こえないとばかりに運転席から奇声と罵声が聞こえてくる。


 やばい。

 この人、ハンドル握らせちゃダメなタイプだ!


「ちょ、ちょっと落ち着いてください!」

「そんなに急がなくても! 着く前に事故りますって!」


 数人が何度も何度も声を掛け続け、半分の道のりを過ぎたあたりでなんとか減速。

 ガクン、と速度が落ちたところで、車内に安堵の空気が流れた。


「……あ、ごめんなさい。つい」


 つい、じゃない!

 とはいえ、この一件のおかげで妙な連帯感が生まれたのも事実だった。

 自然と会話が始まり、移動中に自己紹介する流れになる。


「えっと……私たち、日本からの冒険者です」


 先に名乗ったのは、剣士の女性だった。

「剣士の凛です。レベルは16」

「弓使いの菜々です。レベル15です。よろしくお願いします」


 二人とも二十歳。大学生活の合間に冒険者を始めたらしい。装備が現実寄りなのも納得だった。


 続いて、向かいの席にいた三人組。

「俺がタンクのガルド」

「剣士のロブだ」

「魔法使いのエーヴェル」


 三人は全員24レベル。

 どうやら同じ時期に登録した同期らしく、息も合っている。淡々とした自己紹介だったけど、無駄がないあたりがそれっぽい。ただ、誰も女性陣からは興味が無いのかそれ以上、会話や質問は続かなかった……可哀想に。


 そして――。


 さっきから視線が気になっていた、白ローブの女性が、静かに口を開いた。


「私は、聖女見習いのクーライズと申します」

 柔らかい声だった。


「見聞を広げるため、一人旅をしております。回復はお任せ下さい」


 一通りの自己紹介が終わり、視線が自然とこちらに集まった。そうだよな。まだ名乗ってなかった。


「じゃあ、最後に俺たちだな」


 そう言って、シートから少し身を乗り出す。

「俺は怜汰。職は剣士で34レベルです」

 続いて、隣に座っていたフェリナが一歩前に出る。


「私はフェリナと申します。職業は――支援術師で32レベルです」


「支援、か」

 誰かが小さく声を漏らした。

 フェリナは軽くうなずき、落ち着いた口調で続ける。


「主に味方の能力補助を担当します。ステータスや戦闘効率の向上が中心です。戦闘そのものより、戦場全体の最適化が役割ですね」


 ……さらっと言ってるけど、結構すごいこと言ってないか?さすがフェリナさん。さすフェリってやつか。


「そうなると、バフ専門ってこと?」

 凛が興味深そうに聞く。


「はい。状況に応じて効果を切り替えますので、前衛・後衛問わず支援可能です。回復も少々使えます」


「そりゃ助かるな」

 ガルドが、心底ありがたそうに頷いた。

「この寄せ集めで回復と支援がいるってのは、正直かなり心強いな」


 クーライズも、フェリナを一度じっと見てから、静かに微笑んだ。


「支援術師……珍しい職ですね。ご一緒できて心強いです」


「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いしますね」

 フェリナが丁寧に返す。


 俺はというと、このメンバー構成を、頭の中で組み直していた。


 前衛にガルドとロブと凛と俺。

 火力にエーヴェル。

 遠距離に菜々。

 回復はクーライズ。

 そして、支援のフェリナ。


 ……うん。ゴブリンの巣くらいなら、十分すぎそうだ。


 自己紹介も終わり、話も落ち着いてきた頃、車体が大きく揺れ、減速する。

 窓の外には異様に静かな森が見えてきた。

 どうやら、目的地に到着したらしい。

 

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