混ざり合った世界観
ひとまず、レベル上げの為にアバターにログインし、カロディールに向かう事にした。
いつも通りVRデバイスを装着し、いままでのゲームにログインするのと同じ手順を踏む。ただ、手順は同じでも、実際には未知の技術が使われている事までは分かってる。このまま放置せずに早く解析したいとは思うものの、いかんせん情報が足りなさすぎる。マギア・ニュートリノって何よ……。世界が融合してから整合性を保つ為に変わった部分があるんじゃないかと推測している。フェリナと共有しつつ今は調べ続けるしか無さそう。
すぐ解決しそうにない事は後回しにして、今回も無事に領主館にあるレックスの執務室へと降り立った。
「……人の気配、ないな」
「そのようですね。街に向かう前に誰かいるか聞いてみましょうか」
執務室を出ると、廊下で何か作業をしていたメイドたちが、こちらに気づくなり一斉に姿勢を正した。
「怜汰様、フェリナ様、おはようございます」
その中から、他よりも落ち着いた佇まいの女性が一歩前に出る。服装も少し異なり、年齢も一回りほど上に見えた。
「侍女長のマリーと申します。レックス様は現在ご不在ですが、伝言を申し付かっております。お二人には、こちらの領主館をご自宅と同じようにお使いいただきたい、と。何かございましたら、どうぞお気軽にお声がけください」
とてもありがたい申し出だ。これからすぐに出ていくのが少しだけ申し訳ない。
ひとまず今日は外出することを伝え、戻った際には改めてお願いしますと告げて、領主館を後にした。
朝9時すぎ。
領主館の門を抜けると、街はすでに動いていた。
革鎧の冒険者。ローブ姿の魔術師。
――そして。
「……迷彩服?」
街路の端を歩く数人の軍人。自衛隊だろうか。
肩には銃。だが警戒というより、巡回に近い雰囲気だった。
パン屋の前では、写真を撮ってる人や、店員のリアル猫耳を凝視している買い物客がいた。
他にも観光客らしい一団が、世界の違いを楽しむかのように歩いている。
異世界。軍。観光。
混ざり合っているのに、街は妙に落ち着いていた。
「想像してたより……ハロウィンの時の日本みたいだね」
「治安も良さそうですね、みなさん適応が早いです」
フェリナの声が、少しだけ柔らかい。
そして、目的の建物が見えてきた。
「クローズドβの頃よりもだいぶ雰囲気が変わっていますね」
中に入った瞬間、フェリナのその言葉の意味が分かった。そこら中に人。とにかく人が多い。
受付前には何人もの列ができ、掲示板の前では人集りが出来ている。
「……人が居るっていいね」
「あの時は誰も居ませんでしたからね」
クローズドαだった頃とは違い、今はもう世界そのものが開放されている。ゲームだったら決して実現しない数の冒険者たちがいると思うと……正直嬉しい。下手したらゲームとして誰の目にも止まらずに消えていく事だって十分あり得た。それに、ここで見かけた人たちは誰しもが楽しそうだった。まぁ、こんな状況だし俺が作ったゲーム世界だなんて誰にも言えない。何かしらでバレるまでは黙っておこうと思う。
受付の順番になり、二人して窓口に立ち、まずは以前の登録が残っているかを確認したかった。
「すみません。結構前なんですけど、ここで登録したっきりでどうなっているか確認したいんです……」
「かしこまりました! 冒険者カードはお持ちですか?」
「カード……貰ってないです」
「貰ってないはずは……? こちらにお名前をお願いします」
目の前に表示された半透明の入力パネル。
指で名前を入力する。
《Reita》
受付嬢が確認し、少し首を傾げた。
「活動履歴がかなり前ですね。最後の記録は……五十年ほど前、ですか?」
「多分それぐらいだと思います」
多分、時間を加速する前だったからそれぐらいのはず。もう一回登録し直しかな?
受付嬢は画面を見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「……同行者、初代領主レニオス様、ドワーフ王バラグレム様、ハイエルフ王……リュシオーネ様……魔王ライラ様?」
その独り言をつぶやきを聞いた瞬間、隣のカウンターにいた受付嬢が、勢いよく顔を上げた。慌てた様子でこちらに来て――
「ちょっと、私が代わります!」
こちらをまじまじと見つめ、確かめるような質問を受けた。
「失礼ですが……ご本人、ですよね?」
「一応、間違いないはず」
「ギルドマスターにお繋ぎします。こちらへ」
有無を言わさず、奥へ案内された。
フェリナが、小さく囁く。
「過去の活動実績が、現在の記録体系と紐づいているようですね。リュシオーネが霊峰へ向かわれた際、冒険者ギルド経由で情報更新が行われたようです」
「……なるほど」
観光ついでに倒したネームドボス。
動作確認の延長で受けた数々の依頼。
全部、きっちり残っていたらしい。
部屋に通されるなり、ソファを勧められて座ると、先ほどの受付嬢がギルドマスターが来るまで、冒険者登録の更新をしてくれるようだった。
「現在は、全員こちらのカードを使っていただいています」
差し出されたのは、ICチップ入りのカードとスマホ用アプリの案内チラシ。
「もし、スマホという異世界デバイスをお持ちでしたら、登録すれば、冒険者証として機能します。またステータスや履歴も閲覧可能です」
「……アプリまで出てるのか」
フェリナが、少しだけ楽しそうに言った。
「合理的ですね」
確かに。多分、普通の人はUIは見えていないはず。それならステータスを見る為にカードを持ち歩き、アプリを使って確認出来るのは大きなメリットだと思う。
そして、すぐにギルドマスターが走ってやってきた。




