これからの事
あのあと、みんなから連絡があった。
ライラは、とにかく心配してくれていたらしく、無事だと伝えた途端すごく喜んでくれた。ほんと良い子すぎる。
一方で、リュシオーネは相変わらずだった。時間感覚が少しズレているのか――「霊峰で会ってから連絡が取れなくなったと思ってたんだけど、無事で良かったよ。すぐ繋がってよかったね」なんて、あっさりした反応。
……すぐ?
いや、ハイエルフ基準だと一年は「すぐ」なのかもしれない。そう思うことにした。
バラグレムに至っては、心配はしたものの途中で考えるのをやめたらしく、新しく発見された鉱石や日本の金属や加工技術に夢中になっていたらしい。あの様子だと、しばらくは戻ってこなさそうだ。
うん……思っていた以上に、みんな自由だった。それが分かって、少し肩の力が抜けた。
とりあえず、無事は伝えた。これで一区切り、かな。
その後、レックスからも連絡があり、霊峰は現在安定しているため、急いで動く必要はないとのことだった。
となると、当面は、普通に高校生活を送りつつ、アバターでレベルを上げる、という形になる。
現実の体でどこまで動けるのか。経験値やステータスの扱いはどうなっているのか。気になることは山ほどあるけど、まずは安全な方法で試すのが先だ。
そう考えると、今はアバターで動くのが一番現実的だ。少なくとも、いきなり現実で無茶をする理由はない。
調べてみて、改めて実感した。
世界は、いや、日本は完全に融合している。
まず――エルフたちの領域。
彼らは国ごと転移し、その先で世界樹へと変質した屋久島の縄文杉を中心に集落を築いていた。
屋久島全体は魔力に満ち、各地でモンスターが発生している。その影響で、島の住民の多くは本土へ避難した。
だが一方で、レベルやスキルの存在が知られるようになった今、屋久島は「冒険者」を名乗る人たちが集う一大拠点へと変わりつつある。
世界樹を守るエルフたちに会える、という点も理由の一つかもしれない。
次にドワーフ王国。
すでに廃坑となっていた群馬鉄山を飲み込むように転移し、山全体がダンジョン化している。坑道の奥では強力なモンスターが確認されており、立ち入り禁止の警告も出ているようだ。
だが、問題はそれだけじゃない。炭鉱内から、これまで存在しなかった未知の鉱石が産出され始めた。バラグレムの見立てでは、従来の鉱石を遥かに凌ぐ上質な素材らしい。
日本政府もこれに注目し、金を大きく上回る買取価格を提示している。危険と引き換えに、一攫千金を狙える場所になったと、当然のようにネットで拡散され、人は集まり始めていた。
ライラが治める魔国は、北海道・日高山脈に居城を構えている。
山域一帯では例外なくモンスターが発生しているが、点在する部族はライラの統率のもと、秩序を保っている。
日常的にモンスター狩りを行い、時には無謀な冒険者を救助することもあるという。
比較的、危険な土地の一つでありながら、同時に最も安定している地域。
ただ――他と比べると、あまり人気はないようだった。
そして最後に――カロディール領と王都。
王都からカロディール領にかけてのフィールドは、青木ヶ原樹海を削り取るように転移してきた。
かつて樹海だった場所の多くは草原へと変わり、低レベルのモンスターが定期的に出現している。
敵の数は多いが、強さは控えめ。今では初心者向けのレベル上げエリアとして機能していた。
だが、霊峰に近づくにつれ状況は一変する。
モンスターのレベルは急激に跳ね上がり、現在、山頂付近へ到達できた者は誰一人いない。
霊峰は今もなお、世界最大の未攻略領域として、静かに、だが確実に人を拒んでいた。
いまでこそ落ち着いてはいるものの、一年前は正体も分からない国や種族が突然現れ、日本は大混乱に陥っていた。
最初は徹底した情報統制が敷かれ、危険エリアへの立ち入りも厳しく制限されていた。だが今では、協力関係が築かれている。
条件付きではあるものの、危険区域への立ち入りも認められるようになった。
もっとも、ネット上では写真や動画付きの投稿が溢れ返り、正直、隠しきれていなかった気もする。政府が慎重になればなるほど、日本人はどこか「お祭り騒ぎ」になる。その温度差が、今のこの世界を象徴しているように思えた。
そうした混乱の裏で、王都でも問題は起きていた。
レックスは少し口を濁しながら、日本との外交について教えてくれた。
霊峰の異変後、日本との正式な外交の場として王城へと招いた。だが、その席で国王と宰相が、日本の外務大臣に対し、現状を無視した要求を繰り返したという。
安全保障。資源。領土。
どれも、この状況を理解しているとは思えない内容だった。
その場に居合わせていたセラフィナは、目に余る自国の醜態に激怒し、その場で二人を拘束し排除してしまった。混乱しかけた場を収め、日本側との対話を成立させたのも、彼女だったそうだ。結果、交渉の主導権はカロディールへと移る事になった。
結果として、国王と宰相は表舞台から退き、隠居という形で決着がついた。王国としての体裁を保ちつつ、最悪の事態を避けた――そういう落としどころだったらしい。
その一件以降、セラフィナは外交大使として前に立ち続けている。
そこまで話してから、レックスは少しだけ肩の力を抜いた。
「全く、あれほど頼もしい女傑はそうはいない」
……なるほど。最後の一言で察した。惚気だ。
セラフィナは、今日も外交前線に立っているらしい。




