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「フェリナ! HP確認! 攻撃パターンが変わった!」


『解析中……』


 守護獣の動きが、明らかに変わった。

 攻撃間隔が短い。衝撃の範囲が広がっている。新しいモーションが何個か増えてる。


『……まずいです』

「どした?」


『HPが1割を切った時点で、再生反応を確認。

 コア周辺から魔力の再循環が始まります。

 現在、再生速度の方が上回っています。』


「えっ、マジで?」


 舌打ちしそうになるのを堪える。


「今の火力じゃ、押し切れないか……!」


 視線を守護獣の胸部、不自然に魔力が収束している一点へと定める。


「フェリナ、コアに集中する!

 火力が再生速度を下回ったらすぐ教えて!

 クリティカル重視で行く!」


『了解しました。現在の火力を測定します』


 次の瞬間、守護獣の咆哮。

 空間が軋み、輪郭が一瞬、ずれる。


「こっの……!

 そろそろ、やられろって!」


 踏み込み。

 剣を何度も振る。

 魔力が弾け、ダメージ表示が遅れて浮かぶ。


 削れてる。

 だけど、再生もしている為、中々減らない。


『怜汰くん!』

 フェリナの声が、鋭く跳ねた。


『緊急回避を!』

「っ――!」


 反射的に跳んだ、その瞬間。

 守護獣を中心に、光が爆ぜた。


 轟音。

 視界が白く染まり、衝撃が全身を叩く。


「ぐっ……!」


 身体が宙を舞い、制御を失ったまま、

 地面を転がり、弾かれる。


 何度も。

 何度も。


 ようやく止まった先で、荒い息を吐いた。


「……マジかよ」


 視界が揺れる。

 だが、俺のHPはまだ残っている。良かった。


『守護獣の生存確認。再生の為か動きが止まっています』


「……今の、危なかったな」


 顔を上げた、その時だった。


「……あれ?」


 崩れた岩場の向こう。

 こちらを見る武装した一団がいる?

 

「あれは、調査団?」

 戦闘に夢中で気づかなかったが、かなり近い。この距離で守護獣が暴れたら、確実に巻き込まれる。

 まずいな。守護獣との戦闘に巻き込まれれば、一般の調査部隊が耐えられる相手じゃない。


 ――リーダーは確か。


『リュシオーネ率いる調査団で間違いありません。

 安全距離を確保するよう、避難勧告を推奨します』


「だよな……」


 俺は、体勢を立て直しながら、岩場の方へ声を張った。


「そこ! このままだと戦闘に巻き込まれます!」


 言葉と同時に、背後で空気が軋む。守護獣の動きが、再び兆しを見せていた。


「ここはすぐに安全じゃなくなります! すぐ距離を取ってください!」

 


 一瞬の沈黙。

 岩場の向こうで、ひとりの人物が一歩前に出た。


 白い外套に、やや無造作な髪。

 年を重ねているはずなのに、まだまだ少年の面影が残る佇まい。


「……あれ?」

 少しだけ首を傾げる仕草。

 そして、じっとこちらを見つめてから、確信めいた声で言った。


「もしかして……怜汰くん?」

 思わず、苦笑が漏れる。

「正解。こんな格好だから分かりにくいよな」

 

 GMアバターの見た目は同じものの装備一式変わっているからぱっと見分かりにくくなっていると思う。厨二満載の見た目だし……。


「やっぱり」

 彼は、ほっとしたように息を吐いた。

「いやぁ……霊峰の調査にきてたんだけど、いきなり戦闘が始まったからさ。あれに太刀打ち出来るとしたら、もう君かフェリナしか思い浮かばなくてさ」


 背後で、空気が軋む。守護獣の魔力が、再び膨張し始めているのが分かる。


「悪い、今ちょっと手が離せない」


「うん、見れば分かるよ」

 リュシオーネは軽く肩をすくめた。

「正直、あれに調査団が巻き込まれたら、洒落にならない」


 彼は振り返り、背後の隊員たちに声をかける。


「みんな、すぐに撤退しましょうか。ここはもう一秒先ですら生きていられる保証がないようだからね」


 軽いようでいて一刻も争う状況に、調査団が素早く動き出す。


「助かる」

「気にしないで。僕らの仕事は調べるところまでだからね」


 再びこちらを向き、少しだけ表情を和らげる。


「……それにしても」

 いまだ動き出さない守護獣を見て、苦笑した。

「君が本気出すと、世界が派手に揺れるね」


「今回は検証込みだからな」

「だろうね。この件、片付いたら連絡してね」

「分かった。必ず」

「約束だよ」


 軽く手を振り、彼は仲間たちの方へ戻っていく。


「死なないでよ、怜汰くん」

「そっちこそ、無理しないでね」


 そう言い合った直後。


 守護獣の咆哮が、霊峰全体を震わせた。


「……さて」


 俺は、ゆっくりと前を向く。


「フェリナ、続行だ」


『はい。戦闘を再開します』


 調査団の気配が遠ざかる。

 霊峰の頂に残ったのは、俺と守護獣だけ。


 空間の歪み。ラグ。不可視の判定。どれも厄介だけど、もうパターンは覚えた。


「……いくぞ」


 守護獣が動く。

 腕が上がる、その僅かな角度。体重のかかり方。

 攻撃判定は実体よりも1秒早い。


 相手より先に、俺は踏み込んでいた。

 一秒後に来るはずの場所へ、剣を振る。


「っ……!」


 手応え。

 遅れて、ダメージ表示。


「よし……!」


 

 間髪入れず、間合いを詰める。

 守護獣の腕が戻り切る前に、もう一撃。さらにもう一撃。

 歪んだ空間を裂くように、常に一秒後の未来を想像しながら何度も斬撃を重ねる。


『命中精度安定。再生速度を上回っています』

「……っよし、このまま削る」


 守護獣が後退する。

 さっきまで感じていた圧が、徐々に薄れていく。


 咆哮。

 だが、それは威嚇というより、焦燥に近い気がした。


『守護獣のHP低下。現在……残り』


 一拍。


『3%です』


 思わず、口角が上がった。


「ラストスパートだ。きっちり詰めるぞ」


 不慣れなスキルは使えないから、ひたすらクリティカルを狙い攻め続ける。感覚を研ぎ澄まし、回避からの攻撃回数を限界まで引き上げると、わずかに視界が歪む。


「消し飛べ――!」


 放った斬撃が、一直線に守護獣の胸部へと叩き込まれる。

 中心――コア。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、ひび割れた光が、守護獣の全身を駆け巡った。

 砕け散るように、守護獣の輪郭が崩れていく。

 黒い魔力が霧散し、やがて――何も残らなかった。


『――コア破壊、確認』

 直後、視界に文字が踊る。


《ワールドボス討伐成功》

《経験値を獲得しました》

《レアドロップを獲得しました》


「……よし!」


 思わず、息を吐いた。

 楽しかった。

 これなら何度か挑戦してタイムアタックするのもいいな。


 ――いきなり、足元が揺れた。


「……地震?」


 小さな揺れ。

 だが、すぐにそれが前触れだと分かる。


 霊峰全体が、唸りを上げ始めた。


『警告。周辺魔力濃度、急激に上昇』

「……え?」


 山頂の中心。

 守護獣がいた場所から、眩い光が噴き上がる。


 魔力が奔流となって噴き上げる。

 すぐに柱となり、空へと伸び――


「……っ!」


 轟音と共に、地面が割れた。

 衝撃波が、身体を叩く。


 魔力はやがて壁のように広がり、

 山頂を中心に、円を描くように、急速に膨張していく。


『怜汰くん、これは――』


 フェリナの声が、途中で途切れた。


 光が、視界を塗り潰す。

 身体の感覚が、急速に遠のいていく。


「……ま、じか……」


 逃げようとする思考すら、掻き消される。

 世界が、白く染まり――ぷつり、と途絶えた。

 

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