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会議

 静かに口火を切ったのは、白銀の髪を持つリュシオーネだった。

 彼は一礼ののち、楽しそうに語り始める。

 

「えっとね、僕の国――ルミナスグロウは、今も相変わらず森の奥にひっそり暮らしてるよ」


 リュシオーネは、ふわりと笑みを浮かべながら言葉を紡いでいく。


「引きこもりって言われることもあるけど、最近はね、森の外の村とも少しずつ仲良くなってきてるんだ。交易もちょこちょこ始まってるし、森の細工物とか、けっこう評判いいんだよ」

 リュシオーネは得意げに胸を張った。


「それに、森の中には強いモンスターも多くてね。狩人たちががんばって修練してくれてるから、みんな前より強くなってきてる。だから今は、前よりずっと安全なんだ。頼もしいよね」


 そこでふと、彼は少し目を細めて、声のトーンを落とした。


「……そうそう。世界樹がね、最近すごく成長してて。長老たちはいよいよ成長限界が近いって言ってるけど、みんなどうなるかは分からないみたい」


「成長限界って、どうなるんだろう?」


 そんな設計してなかったはず、気になってが尋ねると、リュシオーネはいたずらっぽく目を輝かせた。


「んー……わかんない。でもね、精霊たちが、最近すごくざわざわしてるんだ。そろそろ王が生まれるとか、世界樹が祝福を降らせるとか、そんなことをヒソヒソ囁いてて――なんだか、お祭りみたいな雰囲気になってるの」


 少年王は、肩をすくめて微笑む。


「だからボクも、ちょっと楽しみにしてるんだ。もしかしたら、精霊王が現れる……なんて、そんなことが起きるのかも、って。ボク、けっこう精霊たちに好かれてるからさ。きっと仲良くなれると思うんだ!」


「なるほどね、それは楽しみだ。精霊王が生まれたら友達になれるといいね」

 

 もしほんとうに実現する事があれば、これはゲーム内で独自に誕生したと言ってもいいのかもしれないな。今から楽しみだ。

 


 場が和んできた所で重厚な声が話を進める。


「頼もしいことだ。精霊王が現れたら、お前さんが最初に言葉を交わせるやもしれん」

 そう言って、壮年の男――バラグレムは、怜汰に向き直る。


「さて、俺からの報告をさせてもらおう。オルドラクの山では、新たに発見された鉱脈のおかげで、これまでより質のいいアダマンタイトとミスリルの精錬が安定してきた」


「最近は若い鍛冶職人たちの腕も上がってきてな。技術の伝承も順調だ。中には、王都に出向いて商談を持ちかけてる奴もいる。ずいぶんと意欲的だよ」

 その瞳は、怜汰にまっすぐ向けられていた。


「試作段階ではあるが――魔剣が一振り、完成した。精霊からの祝福を蓄えた精霊鉱と、雷の残滓を宿した黒鋼を合わせて鍛え上げたものだ」

 ごつい拳をゆっくりと握る。


「まだまだ素材の力を引き出し切れてはいねぇが……魔力を通すことで切れ味が鋭くなり、攻撃のたびに――ほんの少しだが、持ち主の命を支えるよう力が戻る仕組みにしてある。

 ただ、精錬はできねぇ。この材質は、どうにも後から手を加えられること自体を拒んでるみてぇだ。だから代わりに、持ち主の力を剣にも返すようにしてみた。使い続けていれば、剣自身が……独自に進化していくかもしれねぇな」

 わずかに笑みを浮かべる。


「是非、持っていってくれ」

 バラグレムの言葉に、力強く頷きながら応じた。


「ありがとう、大切に使わせてもらうね」

 

 受け取った魔剣は今持っているショートソードよりも重いけど、持てなくは無さそうでよかった。それに、切れ味アップとHP吸収のオプション付きかな?

 序盤じゃ持て余しちゃいそうなぐらい高性能だからひとまず大切にしまっておこうと思う。

 魔剣をアイテムボックスに入れ、視線をレオニスへ送る。


「レオニス、君のところはどう?」

 呼びかけに応じて、レオニスは静かに頷く。


「はい。王都は、現在も順調に発展を続けております」

 軍服の胸に手を添え、礼儀正しく報告を続ける。


「基本的な政務運営は王や宰相たちの好きなようにさせ、私は必要に応じて助言を与える程度にとどめております。王都の都市設計は初期に構想された案をもとに築かれており、景観・機能ともに優れた都市として、多くの旅人の注目を集めております」

 ここで少し言葉を区切り、表情を引き締める。


「……とはいえ、王族内での権力争いの兆しが見え始めております。まだ派閥間の軋み程度にとどまっておりますが、このまま静かに見守るつもりです。人工的に抑え込むより、自然な動きの中で均衡が保たれるかを観察したく――その方が、世界そのものの深みを育てると信じております」


「うん、そのままの方針でいこう。仮に王国が滅んだとしても、それも歴史の一つとして受け入れよう」


 俺は椅子から軽く身を乗り出し、円卓の三人にゆっくりと目を向ける。


「さて――ここからは、俺からの相談なんだけど」

 言葉に反応して、三人の視線が一斉に俺に注がれる。


「新しい仲間を一人、迎えようと思ってる。フェリナ」

 俺が合図すると、フェリナが軽く頷き、円卓に座る俺のすぐ隣、光の転移エフェクトが走る。


 眩い粒子の中から現れたのは、一人の少女だった。

 紫がかった長髪に、夜のような瞳。小柄な体格に相応の幼さを感じさせる――ただ、その少女の頭には確かに魔を宿す特徴、大きな角が2本あった。


「彼女は、新たなAIユニットだ。魔族に分類される存在で、名前は――《ライラ=ノクターン》」


 俺の言葉を受け、フェリナが補足するように口を開いた。


「現在、魔大陸には複数の魔族勢力が存在しています。

 しかし、いずれも魔王の空位を巡って牽制し合っている状態で、明確な統治機構は確立されていません」


「そこで――」

 場の視線が集まるのを感じながら、俺は続ける。


「ライラに、新たな魔王として、あの地に住む者たちをまとめてもらいたい」


 室内が、わずかにざわついた。


「もちろん、無理に戦争をさせたいわけじゃない」


 そう前置きしてから、言葉を選ぶ。


「ただ、ライラには――他の種族と対等に語れるだけの、実績と立場が必要だと思ってる」


 少し間を置いて、核心を告げた。


「そのために必要なのが、魔大陸に現存する最古のダンジョンの踏破だ。成功すれば、踏破者にはダンジョンマスターの権限が与えられる。それは、ライラにとって大きな力になる」


 そして、もう一つ付け加える。


「なにより――あのダンジョンは、放っておけば近いうちに溢れる。周囲に被害が出るのは、時間の問題だ。遅かれ早かれ、誰かが向き合わなきゃいけない場所でもある」


 俺は、視線を巡らせて続ける。


「一人で背負わせる気はない。補佐役として、四天王に相当する魔族をこちらから用意するつもり」


 言葉を一拍置き、三人を見渡した。


「無理のない範囲でいい。君たちの国からも、フォローをお願いできるかな?」


 俺の問いかけに、三人はそれぞれ静かに頷いた。


 レオニスからは、ダンジョン攻略のバックアップと、攻略後、魔族の統治を補佐するため、外交に長けた役人を十名ほど派遣してもらえることになった。

 王都での政治経験を活かし、魔族との公式な交流の礎とする狙いだという。


 リュシオーネは、エルフとダークエルフの部隊を送ると笑顔で申し出る。少し気の強い者も多いが、魔族とは相性が良いと判断したようだった。


 そしてバラグレムは、短く力強く――

「武具は任せとけ。一級品を揃えてやるよ」

 援助の言葉が出揃うと、フェリナが小さく微笑んでライラの方を向いた。


「……み、皆さん……その……本当に、ありがとうございます……」


ライラは小さく頭を下げ、視線を床に落としたまま、震える声でぽつりぽつりと続けた。


「わたし……ちゃんと務まるか、自信がなくて……。

 でも、皆さんが……こんなふうに温かく迎えてくださって……すごく、嬉しいです……」


 一度、言葉が途切れる。小さな指先が、ぎゅっと握りしめられているのが見えた。


「たしかに……魔族の中には、見た目がちょっと怖い子も多くて……。わたし、つい……びっくりしちゃうことも、あるんですけど……」


 そこまで言って、ライラは小さく息を吸った。


「……でも……優しい子も……たくさん、いるんです」


 ゆっくりと、ライラは顔を上げた。

 その瞳は俺を見つめ、逸らす事なく――


「だから、わたし……少しでも……みんなが、安心して暮らせるように……」

 

 言葉を選ぶように、一拍置いてから、続ける。


「がんばります!」

 その声は、先ほどよりも、確かに力強かった。



 


 ライラ・ノクターンという存在を構想したのは、ただ強いだけの魔王では描けない、強さと優しさを兼ね備えた形にしたいと思ったからだ。


 魔族は、多くの物語で「敵」として描かれてきた。

 暴力や混沌と結びつけられ、理解される前に否定される存在として。


 しかし怜汰は、ふと考えた。

 もしその中に、本当に平和を求めている子がいたら?

それも、誰よりも怯えやすくて、自分に自信がなくて――それでも、優しくあろうと必死に頑張っているような子がいたとしたら、と。


 ライラは、そんな思考の果てに生まれた。


 魔族でありながら、人族以上に平和を求める少女。けれど彼女の価値観や倫理観は、まるで現代の少女のように繊細で、控えめ。争いは嫌い。でも、意見を通すほどの強さもまだない。

 仲間想いではあるけれど、異形の姿をした魔族たちに怯えてしまい、そのたびに不甲斐無い自分を責めて、涙を堪えている。


 そんな彼女を「不完全だからこそ魅力的」だと感じた。


 与えられた力で支配するのではなく、不器用でも、人の気持ちを感じ取ろうとして、自分の弱さを受け入れながら一歩ずつ進んでいく。


 そんなライラが、もし魔族をまとめ上げられたとしたら。そのとき、この世界には、きっと面白い未来が訪れる。


 だからこそ、彼女が紡ぐ物語を――この世界で見てみたいと思う。

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