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領主館

 ギルドを後にした俺たちは街の中心部へと向かって歩き出した。活気に満ちた大通りを進むと、視界が一気に開け、大きな広場へと出る。


「おお……」

 堂々とそびえる巨大な領主館。ぱっと見は貴族の大豪邸のような外観と、その背後には一際大きな時計塔が建っていた。

 

「実際に見てみると想像以上にでかいな。これ、どれだけ人入れるんだ?」

 

 俺が驚き混じりに呟くと、フェリナが少し誇らしげに応じた。


「レオニスが、怜汰くんの発案をもとに設計・拡張されました。日中は常時、二百〜三百人の役人が執務しており、パーティ会場も正常に機能しております。舞踏会や式典時には、合計六百名以上を収容可能です」


「なるほど……奥の建物、ちょっと雰囲気違うな。あれがパーティ用の別棟か」


「はい。そして隣に見える石造りの建物がカロディール騎士団の本部です。訓練施設も併設されており、常に警備部隊が待機しています」


「うん、配置場所のバランスも考えられてるし、見た目も立派。街の顔としてばっちりだね」


 一歩立ち止まり、広場から領主館へまっすぐに伸びる石畳を見渡す。この広場には演説や祭りにも使われる大規模なスペースが確保されており、周囲には商店も多く並び、賑わいが絶えることはない。

 正門の前までたどり着くと、二人を待っていたのは礼装を身にまとった門番だった。

 

「怜汰様とフェリナ様ですね。お待ちしておりました。ようこそ、領主館へ」

 その横には、柔らかな白銀の髪をきっちり後ろに撫でつけた、威厳と品格を纏う老紳士の姿。


「初めまして。筆頭執事を任されております、ディアスと申します。以後お見知りおきくださいませ」

「こちらこそよろしくお願いします。……それじゃ、案内をお願いします」

 軽く会釈する俺に、ディアスは恭しく一礼を返すと、先導するように静かに歩き出した。


 領主館の廊下には赤い絨毯が敷かれ、天井には小ぶりながらも輝きを放つシャンデリアが連なっている。壁には精緻な紋章と地図、さらには過去の式典の様子を描いた大きな絵画が飾られており、歴史の重みと威厳を演出している。


「ほんとに……どこまでも本格的だな」

「ここまで緻密に作られていると、実際に領主館として機能しているかのように思えますね」


「いや、思えるっていうか……実際に、ちゃんと回ってるんだよな。ほんと、俺たちの手を離れて動いてるって感じがする」

 そんな会話を交わしているうちに、一行は重厚な扉の前に辿り着いた。


 ――コンコン。

 

「怜汰様、フェリナ様がお越しになりました」

 扉の向こうから「お通しして」と静かな声が返ってきたのを確認すると、執事ディアスは恭しく一礼し、ゆっくりと扉を開ける。

 中から漏れ出したのは、やわらかな照明に照らされた、深い色調の空間だった。赤絨毯が静かに伸び、天井からは精巧なシャンデリアが淡い光を投げている。

 室内の壁には絵画や紋章が整然と飾られ、まさに迎賓のための間というべき落ち着きと気品に満ちていた。


 その中心、重厚な木製の円卓の前に、すでに三人の人物が立ち並んでいた。


 一人は、鋭い眼光と理知的な雰囲気を漂わせた偉丈夫。金の飾緒をあしらった軍服をまとい、まっすぐに俺を見据えている。

 一人は、深い皺の刻まれた顔と逞しい体格の壮年の男。濃い赤茶色の髭を蓄え、堂々たる立ち姿でその場に立っていた。

そして最後の一人は、月光のように白銀に輝く長髪を持つ少年。繊細な衣を纏い、静かな微笑みをたたえていた。

 三人は同時に俺たちに向かって一礼する。


「お初にございます、我が主。レオニス・カロディール、お待ち申し上げておりました」

「バラグレム・アイアンフォージ、ようやく顔を拝めたな」

「リュシオーネ・ルミナスグロウです。こうしてお会いできて、とても嬉しいです」

 

 その光景に、一瞬言葉を失う。

 かつて自身が設計に関わり、コードを書いたプログラムたちが、まるで貴族のように振る舞っている。ここまで細かく人格や癖は設定してない。多分、立場や役割から自発的に変わったのかな。


「こちらこそ。三人とも、立派になって……ちょっと感動してる」


 思わず苦笑しながら頭を掻く俺に、三人はわずかに表情を和らげた。


「皆さん、怜汰くんをお迎えするのを楽しみにしてました。つい先ほどまで、部屋の飾りつけを手直ししていたほどですよ」


 フェリナの言葉に、リュシオーネが目元に手を添えて、いたずらっぽく微笑む。


「少しでも美しく、君を迎えたくて――それが僕ら三人の、ささやかな競い合いにもなっていたぐらいにはね」


「勝ったのは儂じゃな」

 と、バラグレムが誇らしげに笑う。


 すかさず、レオニスが咳払いを一つ。


「……結果については、意見の分かれるところだ」


 リュシオーネがくすくすと笑いながら、手を軽く振る。


「ふふっ、決着はまた次の機会に――ですね」


 場の空気が和んだところで、リュシオーネが軽く手を胸に添えて一歩前に出る。


「さて。こうして全員が揃った今、我らは怜汰様に直接、ご報告とご相談を申し上げたく集まった次第です」


 それを聞いた俺は、ほんのわずかに目を見開いて首を傾げた。


「……ああ、なるほど。いや、今日は顔合わせができればそれで十分だと思ってたけど――」


 小さく笑い、円卓のほうへと視線を向ける。


「せっかくだし、ゆっくり話を聞かせてもらうよ」


 フェリナが一歩前に出て、円卓へと手を差し向けた。


「では、どうぞ皆さま、お席へ」


 三人の指導者たちは静かに頷き、互いに視線を交わしながら所定の位置へと腰を下ろす。俺とフェリナもその対面へと歩みを進め、やがて円卓を囲む全員が着席した。

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