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冒険者ギルド

 重厚な扉を押し開けて、ギルドの中に足を踏み入れる。


 なんだか……思っていたよりも、静かだな。

 ギルドの中は天井が高く、奥にはクエストボードらしき掲示板があるものの、空気に張り詰めた熱気のようなものもなければ、喧騒もない。期待は裏切られて閑散としていた。


「……誰もいないね」

「そうですね。少ない冒険者の大半がクエストで出掛けているようですね。時間帯の影響もあると思います」


「なるほど……にしても、ちょっと静かすぎてびっくりした」

 すぐ近くの受付カウンターには、ぽつんと一人の女性が立っていた。飾り気のない制服に、落ち着いた茶色の髪。だがその姿勢は凛としており、目が合うと微笑みを浮かべて軽く頭を下げた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。えーっと……新規登録をご希望ですか?」

「うん。冒険者登録をお願いしたいんだけど……」

「承知しました。それでは、こちらでご案内いたしますね」

 カウンターへ歩み寄ると、受付嬢型NPCリーネは説明を始める。フェリナも俺の隣に立って聞いている。


「ご登録はお二人でよろしいでしょうか?」

「はい。お願いします」

 ハキハキとした口調ながら、どこか温もりを感じさせる声で説明を続ける。


「では、登録するにあたり、簡単な説明しますね。当ギルドのクエスト発行基準として設けているのは、ただ一つ、推奨レベルのみです」

 彼女は手元の端末をこちらに向けながら話す。


「各クエストには推奨レベルが設定されています。それを満たしていれば受注可能。条件に満たない場合でも、他のプレイヤーとパーティを組み、平均レベルが条件を満たしていれば受注できます」


「なるほど……レベルが低いうちはパーティ推奨、って感じか」


「仰る通りです。特に討伐系などの危険な任務は、推奨レベルに対して余裕を持って挑むことをおすすめします。無茶はしないでくださいね?」


 怜汰をちらりと見て、フェリナにも目を向ける。


「また、討伐対象については、クエストを事前に受けていなくても、該当モンスターを討伐した場合、後から報酬申請が可能です。不意の遭遇でも報酬が無駄になることはありません」


「それはありがたい……。無駄な戦闘にならないのは助かるね」


「それでは、登録を進めさせていただきます。お二人とも、プレイヤーネームの入力をお願いします」


 目の前にふわりと半透明の入力パネルが現れる。


 迷わずキーボードに手を伸ばし、名前を入力した。

 その隣で、フェリナも小さく頷くと、自身の名を画面に打ち込んだ。


「本日の登録はこれにて完了です。……クエストの発行も承れますが、いかがなさいますか?」


「今日はこのあと予定があるから、また今度にします」

「承知致しました。では、またのお越しを心よりお待ちしておりますね」


俺は軽く会釈しながらギルドを後にした。


 ギルドを出ると、少し目を細めて眩しく光る太陽を見上げる。

「さて……じゃあ、レオニスがしっかり領主しているか見に行こうか」


「了解しました。……いま連絡を取ったところ、迎えを寄越すとのことでしたが――」


「いや、断って。せっかくだし、街を見ながら行こうよ」


「かしこまりました。徒歩で向かうとだけ、お伝えしておきますね」


 人々のざわめき、焼きたてのパンの香り、石畳を鳴らす馬車の車輪―― そんな雑多で心地よい都市の空気に包まれながら、俺とフェリナはゆっくりと領主館へ向けて歩みを進めていた。


 この街を治めているのは、領主であるレオニス・カロディール。

 俺とフェリナで設計した三人の指導者AIのうちのひとりで、人族を導く存在だ。


 ゲーム世界内のAIたちは基本的に、ファンタジー世界での知識や価値観しか持たないように制限してある。

 だけど、そのままでは文明がゆがんだ形で発展し、時に滅びに向かうことすらあった。 実験で数度、世界の時間を三百年ほど加速して観察したことがあるが、発展の果てに待っていたのは、衰退、崩壊、あるいは停滞だった。


 そこで俺とフェリナは、三つの文明に介入すべく三体の指導者型AIを設計した。


 山岳地帯の工業を担うドワーフ王、バラグレム・アイアンフォージ。

 精霊と共に森を治めるハイエルフ王、リュシオーネ・ルミナスグロウ。

 そして、人が住まう領地を守る辺境伯レオニス・カロディール。

 人族に関しては、あえて他とは違った介入方法を選んでみた。

 レオニスは王ではなく、王族に仕える貴族という立場に留めている。 世代交代の早い人族社会だからこそ、王族には最大限の自由を与えている。


 野心も、対立も、欺瞞も――育てる。

 排除はしない。

 レオニスには、それを遠巻きに観察し、必要最低限の調整だけを行う役割を与えている。


 善意だけで成り立つ都市は、そう長くは続かない。

 欲望と悪意が絡み合い、魑魅魍魎が蠢く場所でこそ、人族は成長する。

 是非とも混沌を内包した王都へと発展してもらいたいと思っている。



 それと、彼らには文明を発展させるにあたり欲しい知識があればフェリナへ申請し、妥当と判断された分だけ、現代の情報を受け取ることができる。

 世界のルールを壊さずに導くフィルター役としてフェリナには頑張ってもらっている。

 今のところ、思惑はすべては順調に動いている……はず。


「せっかくだから挨拶しに行こう。他の二人も、領主館に集合と伝えて」


「すぐに呼ばれてもいいよう領主館で待機来ております」

「あ、そうなの!? 待たせるのも悪い、急ごう!」

 

 そう言って、足元の石畳を蹴るように、一歩前へと踏み出した。

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