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ログアウト

 空中に手をかざすようにして、視界内のユーザーインターフェースへと意識を向けた。即座に反応し、半透明のパネルがポップアップ表示される。


「操作方法は直感型ジェスチャーがベースです。

インベントリやマップ、ステータス画面も同様に視線か手の動きで展開できます」


「思ったより動作が軽いな。反応も早い。……あ、アイテム欄、ちゃんと装備品の詳細まで見れるんだな」


 画面を指でなぞると、装備中のショートソードや予備の回復ポーションが一覧で表示された。

パネル上でアイテムを回転させると、光源を受けて金属部分が細かく反射し、質感まで丁寧に再現されている。


「ホログラムで確認してたよりもうまく作れてる気がするね」


「ありがとうございます。現在はクローズドαですが、実装項目は全体の65%まで進んでいます。今後のスケジュールとしては、クラフトやスキル開発の導入に合わせて、UIも段階的に拡張ですね」

「65%か……数字にすると、思ったより来てる気がするな」

 

 もう一度周囲を見渡すと、草原の向こうには簡易的に配置しただけのはずの丘陵がなだらかに続き、その先には霧に溶けるような森の輪郭が見えていた。遠景はまだ仮実装のはずなのに、視線を向けるだけで距離感が自然に伝わってくる。


「遠くの地形の表示切り替え、違和感ないな。処理落ちも……今のところゼロか」


「視覚情報と身体感覚の同期率を優先しています。没入感を損なう要因は、極力排除しました」


「うん、良い調整だと思う。少なくともここにいるんだって感覚はちゃんとある」


 足元の草を蹴ると、踏みしめた部分だけがわずかに揺れ、数秒遅れて元に戻った。

 細かい演出だが、こういう積み重ねが世界をそれっぽくしてくれる。


「こうやって歩き回ってるとさ……ゲームなのに、普通に冒険してる気分になるな」


「想定どおりです。遊ぶ感覚そのものが、最も有効な検証になりますから」


 淡々とした声。その言葉の内容はいつも効率重視な気がする。

 確かに効率だけを考えれば、数値チェックやログの確認だけでもいい。それでも、実際にこの世界に立ってみないと分からない感覚がある。


「……やっぱ、ここまで来たらさ。ちゃんと楽しい世界にしたいよな」

「はい。そのための設計です」


 短い肯定。それだけでも、心強く思える。


 時計を確認しようとして、現実時間の感覚が一瞬遅れて追いついてくる。


「――って、やばい。ちょっと夢中になり過ぎた!」


「では、そろそろ明日に響きますので今日はここまでにしましょう。楽しみはとっておきましょうか」


「そうだな。とりあえず動作確認は問題なし。……フェリナ、ログアウトをお願い」


「了解です。それではログアウトプロセスに移行します」


 フェリナの指先がすっと空中をなぞる。次の瞬間、視界に【ログアウトしますか?】というシステムパネルが浮かび上がった。


「ログアウト」


 確認を終えると、視界にわずかな白い粒子が舞い始め、

フィールドの色が徐々にフェードアウトしていく。

同時に、頭の奥で優しく音が鳴り――


 


《ログアウト処理中……》

《神経同期解除》

《視覚・聴覚・触覚チャネル遮断》

《シェル安全確認済》

《Dive Unit遮断完了》


 


 すべてのプロセスが静かに終了し、俺の意識は徐々に現実の重みに引き戻されていった。

 ログアウト処理が完了すると同時に、意識はゆっくりと現実世界へと戻ってきた。頭に微かに残る浮遊感と、視界に広がる自室の天井。


「……ふぅ」


 ベッドに横たわったまま、ゆっくりと呼吸を整え異常が無いかを確認する。視界の隅には、まだぼんやりとUIの残像が残っている気がした。


 頭部に装着していたDiveユニットを外し、そっとベッドサイドに置く。装着時には気にならなかった重量が、解除されたことでじんわりと首や肩に戻ってくる感覚があった。


「ほんとに……VR技術はすごいな……」


 その呟きに反応するように、部屋の片隅、机に設置されたホログラム投影機が静かに起動し、青白い光がふわりと立ち上がった。

 浮かび上がったのは、先ほどまで仮想世界で共に歩いていたフェリナの人型ではなく、いつもの猫のホログラム表示で、輪郭線も淡い。

それでも、その柔らかい声色と雰囲気は、先ほどまでと変わらない。


『おかえりなさい、怜汰くん。ログアウト処理、すべて正常に完了しました。Dive中のバイタルや神経データにも異常はありません』


「ありがとうフェリナ。いやー、あれはマジでやばいな。リアル過ぎる」


『喜んでいただけてよかったです。ログも正常に記録されています。初回同期テストとしては非常に良好でした』


 ゆっくりと起き上がり、軽く首と肩を回しながら小さく笑った。


「しかし……あのフェリナのアバター、完成度高すぎるだろ」


『私も気に入ってます。怜汰くんがフェリナが人間だったらたぶんこうだよなって、楽しそうに話してくれたのを記録していたので反映しました』


「ちょっと恥ずかしいや……」


 照明を少しだけ落とし、部屋の空気が落ち着いた頃――

フェリナが、ふわりと声をやわらげて囁くように言った。


『……今日はここまでにしましょう。明日の学校が辛くなりますよ』


「ああ、そうするか。明日の夜も……テストを兼ねて潜ってみるかな」


『おやすみなさいませ、怜汰くん』


「おやすみ、フェリナ」


 ベッドに再び身を沈めると、仄暗い室内に浮かぶホログラムの光がゆっくりとフェードアウトしていった。

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