魔法を使ったら厨二病が……
「次は魔法も試そう」
メニュー画面を開き、管理者用パネルを呼び出そうとすると、隣に立っていたフェリナが、淡いシルバーグレーの髪を揺らしながら首をかしげた。
「怜汰くん、私にも管理者権限がありますので、直接操作できますよ。一次職は飛ばして二次職の《魔術師》へ転職させますね」
「ありがとう。それじゃ、管理者権限の操作はフェリナに任せるね」
「了解しました。――職業設定、二次職《魔術師》へ強制適用。……完了しました。一次職魔法《ファイア》と、二次職専用魔法《ヴォルカニックレイ》を習得しました」
スキルリストを開くと、確かに二つの魔法が追加されている。
「じゃあ……まずは《ファイア》からだな」
リストに追加された二つの魔法スキルをショートカットに割り当て、視線操作でファイアを選択。そのまま敵をターゲット指定すると、すぐさま前方に淡い光が走り、魔法陣が展開された。
「スキル発動を確認。ターゲッティングサークルが展開されます」
視界に淡く青白い魔法陣が重なるように浮かび上がる。照準を示すサークルと、外周を時計回りに走る詠唱ゲージ。魔法陣は俺の心拍や呼吸に反応して微妙に揺らぎ、呼吸が整っているときはサークルが小さく収束する。
しかし、鼓動が速まるとサークルはじわじわ広がり、命中精度が低下する仕組みだ。
「上手く連動してるね……狙いを定めるには冷静になることが重要だね」
「はい。精神状態と魔力制御は密接に関係しています。また、サークルの外周にある詠唱ゲージが一周する事で発動可能になります。発動するタイミングは任意です」
一次スキルだからかゲージはすぐに一周する。一度息を整え、小さく吐き出すと、声に出して唱えた。
「――《ファイア》!」
発動と同時に外周の紋様が複雑に変化し、直径二十センチほどの火球が魔法陣に形成され、一筋の閃光となって一直線に飛翔。狙い通りスライムの中心を直撃、火花を散らしながら小さな爆発音が草原に響き渡った。
「おおっ……これは気持ちいい」
余韻も楽しみつつ次のスキルに移る。
「よしよし、次は二次職スキル……《ヴォルカニックレイ》を試そう」
視線操作を使いスキルを選択。すぐさま赤い光が走り、さっきよりも一回り大きな魔法陣が展開された。
「高出力魔法スキルの選択を確認。ターゲッティングサークルが展開します」
《ファイア》よりも一回り小さく、より精密な照準サークル。
外周を囲む詠唱ゲージは三小節に分割され、それぞれの進行に応じて魔法陣の紋様が変化していく。
「この魔法は高威力ですので、心拍と魔力同期率も一次職よりシビアな判定になっています」
「了解。こっちはかなりじゃじゃ馬だな……」
一つ目のゲージが進行を始めると魔法陣の外周に刻まれたルーンが深紅に脈動する。大地の奥底から響くような低音の唸りが足元を震わせ、微かな砂粒が浮き上がるエフェクトが発生した。
二つ目のゲージに切り替わった瞬間、魔法陣全体が回転を始め、中心から立ち上る熱気で空気が揺らぎ出す。髪が熱風に煽られ、視界が陽炎のように歪む。
三つ目のゲージでは力を収束させてるかの如く、鼓膜を打つ微かな耳鳴りが次第に大きくなっていき、魔力の奔流が臨界点へ近づいていることを告げていた。
――詠唱ゲージMAX
「《ヴォルカニックレイ》!!」
最後の言葉と同時に、魔法陣が爆ぜるように閃光を放つ。赤熱光が迸り、光束は轟音を伴って一直線に放たれた。空気が焼け裂けるような熱波が押し寄せ、視界の先でスライムが一瞬で蒸発する。草原を揺らす小さな爆風。熱風が頬を撫で、俺の瞳に映る光景は、シミュレーションよりも遥かに生々しかった。
「おおっ……すご……想像以上だ……」
「同期誤差は基準値内、詠唱速度及び照準ともに正常です。この精度なら、高位魔法でも安定した制御が可能です」
フェリナの報告を受けながら、口元を緩めずにはいられなかった。自ら設計したはずのシステムなのに、こうして体感すると、想定していた精度をさらに超えてくる。
「怜汰くん、補足ですが、一部の魔法には短縮詠唱というスキルを覚える事で、詠唱を短くする事が出来るようになります。この《ヴォルカニックレイ》もその一つです」
「短縮詠唱か……仕様だけは決めてたけど、設定はフェリナに任せっきりだったやつだね。実装した仕様、教えてくれる?」
「はい。通常の詠唱では、詠唱ゲージが三分割されており、順番にゲージがチャージされ、詠唱ボーナスが付与される仕組みです。短縮詠唱を習得すると、詠唱ゲージ三本を同時にチャージできます」
「一気に、か……」
「はい。ただし、命中精度が落ちる上に、詠唱ボーナスは一段階分のみ。威力は低下しますが、詠唱時間は大幅に短縮されます」
「なるほど……速度重視ってわけか、ソロプレイには必要だね」
「ええ。それと、短縮詠唱は魔力制御がシビアなので、発動時の同期精度が下がる傾向にあります。三小節のゲージが同時に圧縮されるため、精神状態の影響もより大きくなりますね」
「……それ、ますます試したくなるな……やってみるか」
視線操作で短縮詠唱をセットしスキルを発動、ターゲットを指定すると、魔法陣が展開されUIの詠唱ゲージが三分割並列モードに切り替わり、外周には赤黒い稲光が走った。あっという間に詠唱ゲージは3本ともチャージされ、完了したその瞬間、空気が低く唸り、草原の地面まで微かに震える。
同時に、耳鳴りのような高周波の残響音が頭の奥を震わせ、俺の発動を急かすように響く。
深く息を吸い込み魔法名を唱える。
「《ヴォルカニックレイ》!!」
――次の瞬間、魔法陣の三層構造が同時に超高速回転し、燃え盛る炎の渦が一点へと吸い込まれるように、三つの紋様が重なり合って一つの光核へと収束する。
わずか一瞬、世界がスローモーションになったかのような錯覚。
そして、光核が閃光を放った瞬間、爆音と共に圧縮された熱量が一気に解放された。
赤熱の奔流が一直線に駆け抜け、スライムの群れをまとめて灼き尽くす。
「っ……!? おおおおおっ……!」
皮膚を突き刺す熱波、焦げた草の匂い、耳奥を揺らす残響――
通常詠唱の段階的な溜め撃ちでは決して味わえない、圧倒的な一撃感が全身を駆け抜けた。
「短縮詠唱による発動を確認。威力減少確認、消費MPは通常詠唱と同等です。
ただし、魔力同期率の揺らぎが増加しており、慣れるまで練習が必要ですね」
「……やばいな、これ。敵にターゲットサークルを合わせてるのに、ちょっと気を抜くとすぐ照準が逸れて外れる……!」
俺の震える手を見つめ、残響する熱の余韻に胸を高鳴らせていた。
通常とはまるで別物――
短縮詠唱は、一瞬で爆発的なエネルギーを解き放つ、まさに上位の魔法だった。
「……右手が疼く……! ――って、違う! 楽しかった! ひとまずスキル関連はここまでにしようか、あとひと通りのUIの反応だけ確認しておわりにしよう」




