C級ダンジョン産のホットケーキミックスは大先輩にとっておふくろの味
「── へえ〜。コレが昔、高級品だったんですか」
「んだ。とはゆぅても、うーんと昔の……お貴族様がいた時代の話じゃ」
異世界の勇者が「ホットケーキミックス」と名づけた、小麦粉などがブレンドされた粉。
C級ダンジョンとはいっても、浅い層からドロップするので、ここら辺ではポピュラーな品だった。
水と混ぜて火を通すだけでも、ふわふわに膨らむ生地がほのかに甘く、昔は王侯貴族の甘味として楽しまれていたんだとか。
時が進み、魔道具産業革命がおき。人類が使う道具の強さに比例して、ダンジョンの攻略も進む。
「儂のかあちゃんも冒険者でな。串に刺したウィンナーにつけて、油で揚げた側から兄弟達と争って食っとったわ」
「ほへぇ〜」
このダンジョンを最初に攻略したのは大先輩のお母様がいたパーティーだったらしい。
魔法の研究も進み。それに合わせ、地上で育てる動植物の品種改良も比例して進んだ。
安定して食料が賄えるようになると、人は「味」を求めるようになった。
私が作った携帯食のシリアルバーを、大先輩が、話の合間にボリボリと食べる。
ホットケーキミックスと地上産のナッツやドライフルーツなどを混ぜ込んで焼き固めた自慢の逸品。
安全地帯でくつろぐ私達の間に、ズイッと影が差し込んだ。
「うっわ。最近の新人ってそんな小洒落たもん食ってんの?」
「なんだお前さんこの街に帰っとったんか」
自分が新人の頃は、装備代に有り金を費やし、ホットケーキばかり食べていたというS級冒険者の方。たまに無性に食べたくなるので、その時は街に帰って来るらしい。
有名人にジーッと見つめられ、思わず腰が引ける。
「お、おひとついかがですか」
「ん。サンキュ」
大先輩とS級冒険者が情報交換に入る。
難関ダンジョンを攻略して来ただとか、ボスからドロップした「カレールー」が美味しいだとか。聞くだけのつもりが話を振られ、いつの間にか会話に参加していた。
「── へえ〜。そんなに美味しいんですか」
「興味あるなら今度食わせてやろうか?」
「そのカレールーもホットケーキミックスのよぉに、当たり前に食卓へ上がる日が来るかも知れんの〜。ガハハハッ!」
大先輩はこの先の壮大な人類の進化の話をしているのかと、その時は思った。
数年後。
具沢山のカレーと共に、分厚く焼いたホットケーキの組み合わせが、我が家での定番となっていた。
あの日の言葉をハッ! と思い出した私の脳内で、大先輩がいい笑顔でサムズアップをしていた。




