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「役立たずの荷物持ち」と勇者パーティを追放された幼女(10歳)ですが、実は世界システムの「管理者(アドミニストレータ)」でした。  作者: NN


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第3話 Sランクパーティ(笑)と、地下迷宮の支配者

第3話:Sランクパーティ(笑)と、地下迷宮の支配者


 王都の地下に広がる広大な旧下水道。

 かつての古代遺跡を利用して作られたこの場所は、今では悪臭と汚水、そして病原菌を撒き散らすネズミや蟲たちの巣窟だ。普通の冒険者なら、いくら金を積まれても長居したくない場所。


 けれど、今の私にとってはただの散歩コースだった。


「ふふーん、ふふふーん♪」


 私は鼻歌交じりに、湿った石造りの通路を歩いていた。

 私の周囲には、淡い光のドーム(システム結界)が展開されている。天井から汚水が滴ってもドームが弾くし、空気は高原のように清浄だ。


『Enemy Detection: ジャイアント・ラット Lv.15(敵対的)』


 前方から、猫ほどもある巨大ネズミが牙を剥いて飛びかかってきた。

 Fランクの私なら、噛まれれば感染症で死にかねない相手だ。


「はいはい、お静かに。『Command: Sleep(睡眠)』」


 私が指をパチンと鳴らすと、空中でネズミの動きがピタリと止まり、ドサリと石畳に落ちてイビキをかき始めた。

 攻撃魔法を使うとMPを使うし、死体を片付けるのも面倒だ。状態異常デバフを付与して無力化するのが一番効率がいい。


「お、あったあった」


 ネズミをまたいで奥へ進むと、古びた貯水槽の隅に、青白く発光する花畑があった。

 『月光草』だ。

 通常は清らかな水辺にしか咲かないはずだが、どうやらここだけ魔力溜まりが発生していて、突然変異で群生したらしい。これがシステムログの『マップ生成バグ報告』にあった場所か。


「これ全部摘んだら相場崩れちゃうかな? ま、とりあえず10本くらいにしておこう」


 私はリュックから園芸用のハサミを取り出し、丁寧に採取していく。

 一本につき金貨10枚。10本で金貨100枚。

 勇者パーティ時代の私のお小遣いが月銀貨5枚だったことを考えると、たった10分で年収の数百分の一を稼いでしまったことになる。


「……馬鹿みたい」


 手の中の美しい花を見つめながら、私はふと呟いた。

 こんなに簡単に生きられるのに、なんで私は今まで、あんな奴らのご機嫌取りをしていたんだろう。

 『転生者だから目立ってはいけない』という強迫観念?

 それとも、少しは仲間だという情があったから?


「ま、終わったことだもんね」


 私は花をアイテムボックス(容量無限・時間停止機能付き)に放り込み、立ち上がった。

 ついでに、システム権限でこのエリアの『害獣出現率』をゼロに設定し、『浄化魔法』を永続付与しておく。

 明日には、この淀んだ水路も清流のように綺麗になっているだろう。


 私は誰にも知られることなく、王都の衛生環境を劇的に改善しながら、地上への出口へ向かった。


 ◇


 一方その頃。

 王都の正門前は、異様な空気に包まれていた。


「どけ! 俺は勇者レオンだぞ!」


 ボロボロの鎧、泥だらけの顔、そして所々焦げたマント。

 まるで敗残兵のような姿の男女が、門番に怒鳴り散らしていた。


「い、いや、そうおっしゃいましても……身分証の提示をお願いします」

「だから! さっき森で落としたって言ってるだろ! 顔を見れば分かるだろ!」

「顔パスは認められておりません。再発行手続きには銀貨2枚が必要ですが……」

「金なんかない! 財布も落としたんだ!」


 門番は困り果てていた。

 自称・Sランク勇者と言うにはあまりに惨めな姿。しかも、後ろにいる聖女らしき女性は、髪が爆発したような状態でブツブツと何かを呟いている。


「ありえない……私の魔法が効かないなんて……あの森はおかしい……呪われてる……」


 なんとか門番の上司が通りかかり、彼らが本物の勇者一行だと確認されるまで、さらに一時間を要した。


 ようやく街に入った二人は、足を引きずりながらギルドへ向かう。

 道行く人々が「あれ、勇者様じゃない?」「どうしたんだあの格好」と囁くが、レオンは殺気立った目で周囲を睨みつけ、黙らせた。


「クソッ、今日は厄日だ。何もかも上手くいかねぇ」

「レオン様ぁ……お腹空きましたぁ……」

「うるさい、俺だって空いてる! ……そうだ、ギルドに行けば報酬が振り込まれてるはずだ」


 二人はギルドの扉を蹴破るようにして入った。

 騒然とするギルド内で、レオンはカウンターをバン! と叩く。


「おい! 俺たちの口座から金を出せ! 全額だ!」

「ひっ……レ、レオン様? か、かしこまりました。少々お待ちを……」


 怯える受付嬢が魔道端末を操作する。

 しかし、数秒後、彼女は青ざめた顔で顔を上げた。


「あ、あの……レオン様?」

「なんだ、早くしろ」

「その……口座の残高が『マイナス』になっておりまして……」

「は?」


 レオンとマリアの声が重なった。


「ふざけるな! 俺たちはSランクだぞ!? 先週のドラゴン討伐の報酬だって、金貨500枚はあったはずだ!」

「それが……ええと、こちらに記録が。『街の被害賠償』『依頼不履行による違約金』『武具のローン未払い分』などが自動引き落としされておりまして……」


 今まで、アリスが裏でこっそりと『魔物の素材売却益』を上乗せしたり、『損害賠償請求』の書類をシステムエラーで処理待ちにしたりして、収支をプラスに保っていたのだ。

 それが無くなった今、彼らのルーズな金銭管理と、破壊活動に近い戦闘スタイルのツケが、一気に回ってきただけだった。


「嘘だ……ありえねぇ……」

「マイナスってことは……私たち、借金まみれってことぉ?」


 呆然とする二人の背後に、忍び寄る影があった。

 ギルドの借金取り立て部門のコワモテたちだ。


「おや、レオンさん。口座が凍結されたようですね。……ちょっと裏でお話ししましょうか?」


 ガシリ、と肩を掴まれる。


「触るな! 俺は勇者だぞ! 離せ!」

「ええ、元勇者にならないよう、しっかり返済計画を立てましょうねぇ」


 ズルズルと奥へ引きずられていく二人。

 その光景を、月光草の換金に来ていた私は、柱の陰から冷ややかに見つめていた。


「……へぇ。思ったより早かったな」


 手の中には、さっき換金したばかりの金貨の入った重たい袋。

 あちらは借金地獄。こちらは大金持ち。


 私は口元を緩ませ、チャリ、と袋を鳴らした。


「今日は高級ステーキでも食べに行こうっと」


 私は彼らに一瞥もくれることなく、軽やかな足取りでギルドを後にした。

 彼らの地獄は、まだ始まったばかりだ。


(第4話へ続く)

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