第27話 黒歴史ダンジョンと、中二病の遺産
地下通路は、カビと錆びた鉄の匂いが充満していた。
ここはかつて、魔王軍が隣国へスパイを送り込むために掘った秘密のトンネルだ。
「暗いし、狭いし……最悪」
フリージアがドレスの裾を気にしながら文句を言う。
「我慢しろ。ここを通れば、聖女宮の地下貯水槽まで直通だ」
先頭を歩くヴェルが、懐中電灯(魔導ライト)で道を照らす。
しばらく進むと、行く手を阻む重厚な扉が現れた。
扉には、髑髏と蛇が絡み合う禍々しいレリーフが彫られ、中央に真紅の文字が浮かび上がっている。
『汝、深淵を覗く覚悟はあるか? ならばその名を刻め』
「……なにこれ」
カイルが引いている。
「あー……これは『音声認証ロック』だな」
ヴェルが気まずそうに視線を逸らした。
「開けてよ、管理者さん」
「……少し離れていろ」
ヴェルは扉の前に立ち、咳払いをした。そして、小声で囁くように言った。
「……開け」
シーン。扉は反応しない。
「あれ? ヴェルさん、聞こえてないみたいですよ?」
「う、うるさい!」
ヴェルは顔を赤くして、もう一度扉に向き直った。
そして、意を決したように、ポーズを決めて叫んだ。
「我が名は『漆黒の堕天使』ヴェルドラゴ! 混沌の宴を始めようぞ!!」
ガコンッ、プシューッ!
扉が重々しい音を立てて開いた。
「…………」
「…………」
「…………プッ」
私とカイルとフリージアは、必死に笑いを堪えた。
肩が震えている。
「わ、笑うな! 若気の至りだ! 設定当時はカッコイイと思ってたんだ!」
「いやー、いいパスワードだね。『漆黒の堕天使』だって」
「やめて! もうその名前で呼ばないで!」
ヴェルは耳まで真っ赤にして走り出した。
その後も、罠や仕掛けのたびに、彼の黒歴史が炸裂した。
『問おう。貴様が愛する最強の武器は?』
「……『魔剣・ラグナロク・ブレイカー』……」
『問おう。貴様が目指す理想郷の名は?』
「……『エターナル・ダークネス・キングダム』……」
通路を抜ける頃には、ヴェルは魂が抜けたように憔悴していた。
私たちは笑い疲れて腹筋が痛い。
「もう帰りたい……」
「元気出しなさいよ、堕天使さん。おかげで聖女宮の下に着いたわよ」
目の前には、上へと続く螺旋階段があった。
ここを登れば、敵の本拠地だ。
「さあ、気を取り直して行くわよ! ……笑いを堪えるのが一番の試練だったけど」
私たちは階段を登り始めた。
しかし、地下から上がった先――聖女宮の厨房で待ち受けていたのは、予想外の敵だった。
「侵入者発見! 直ちに排除します!」
「レシピ通りに切り刻みますわ!」
包丁を持った『自動調理ゴーレム』の大群が、私たちを取り囲んだのだ。
しかも、そのゴーレムたちは全員、フリフリのエプロンと猫耳をつけていた。
「……あいつの趣味も、大概ね」
「どっちもどっちだ」
私とヴェルは顔を見合わせ、ため息をついた。
中二病の次は、猫耳メイド軍団。
この戦い、精神的なダメージの方が大きそうだ。
(第28話へ続く)




