第26話 自動迎撃ゲートと、ハッカーの矜持
隣国ガレリア帝国への国境線。
そこには、巨大な凱旋門のようなゲートがそびえ立っていた。
しかし、人の姿はない。代わりに、門の上空には無数の「空飛ぶ監視カメラ(魔法の目)」が浮遊している。
「……入国審査官がいないね」
カイルが双眼鏡を覗きながら呟く。
「あいつ(エレオノーラ)のことだから、全部自動化してるんでしょ。『美しくない者は通さない』とかいう設定で」
私が近づこうとすると、ゲートから機械的な音声が響いた。
『ピッ。顔認証スキャン開始。……エラー。美意識スコアが基準値以下です。入国を拒否します』
「だぁれが基準値以下よ! 余計なお世話だ!」
私が叫ぶと同時に、監視カメラが一斉に赤く光り、レーザーのような魔弾を発射してきた。
「うわっ! いきなり攻撃!?」
「迎撃システムか! ……チッ、面倒な!」
ヴェルがノートPCを開き、走りながらキーを叩く。
「私がセキュリティを撹乱する! その隙に本体を叩け!」
「分かった! フリージア、氷の壁で射線を防いで!」
「はいっ! 《アイス・ウォール》!」
フリージアが作り出した氷壁が、魔弾の雨を受け止める。
その裏で、ヴェルが猛烈な勢いでタイピングをしていた。
「……この認証アルゴリズム、穴だらけだぞ。『キラキラしているもの』を無条件で通す設定になっている」
「はぁ? セキュリティガバガバじゃん」
「よし、ダミー信号を送る! ……今だ、アリス!」
ヴェルがエンターキーを叩く。
すると、監視カメラたちの動きがピタリと止まった。
彼が送ったのは『超絶美形アイドル(幻影データ)』の信号だ。カメラたちは「美しい……美しい……」と誤認し、攻撃を停止した。
「ナイス、元魔王!」
「フン、この程度、赤子の手をひねるようなものだ」
私はその隙に、システム権限でゲートの制御盤にアクセスする。
「『System Command Open_Gate (開門)』!」
しかし、ゲートは開かない。
代わりに、門の中央にある巨大な水晶が輝き出し、ホログラムが投影された。
『侵入者検知。……あら、あなたたちですの?』
映し出されたのは、優雅にお茶を飲んでいるエレオノーラの姿だった。
「げっ、リモート監視してたの?」
『当然ですわ。わたくしの庭に、薄汚いネズミが入ろうとしたら通知が来ますもの』
エレオノーラは冷ややかに微笑んだ。
『わざわざ来てくださるとは嬉しいですけれど、このゲートはただの門ではありませんの。わたくしのOSの「ファイアウォール」そのものを具現化した、絶対防御壁ですわ』
水晶から強烈な波動が放たれる。
それは物理的な壁ではなく、概念的な拒絶の壁。
私のコマンドも、ヴェルのハッキングも弾かれる。
「くっ……権限レベルが拮抗していて書き換えられない!」
『おーっほっほ! そこで野宿でもしていらっしゃい! 夜になると「自動スプリンクラー(美容液噴射)」が作動して、全身ベタベタになりますわよ!』
通信が切れる。
私たちは巨大な門の前で立ち尽くした。
「……どうする? 壊す?」
「いや、無理だ。この門自体が巨大な魔道具だ。力任せに壊そうとすれば、自爆シーケンスが作動してこの一帯が吹き飛ぶ」
ヴェルが渋い顔でモニターを見せる。
構造図には、大量の爆発魔法陣が組み込まれていた。
「性格悪いわね、あの女……」
「まあ、製作者の性格はシステムに出るからな」
「あんたが言うな」
私たちは顔を見合わせた。
正面突破は無理。ハッキングも時間稼ぎにしかならない。
となれば、手は一つだ。
「……ねえ、ヴェル。あんたの魔王軍時代の『裏ルート』って、まだ生きてる?」
「……地下密輸ルートのことか? ……ふむ、古い回線だが、あそこなら監視の目も届かないかもしれん」
私たちはニヤリと笑った。
キラキラした表口がダメなら、ドロドロした裏口から入るまで。
元魔王の「悪の知識」が、ここで役に立つ時が来た。
「よし、地下から侵入よ! ……ついでに、あのゲートの配線をいじって、美容液じゃなくて『泥水』が出るように設定変更してやる!」
私のささやかな復讐心を胸に、私たちは荒野のマンホール(今度こそ本物のマンホール的な入り口)へと向かった。




