第25話 家電の反乱と、呉越同舟
翌朝。
私が目を覚ますと、部屋の様子がおかしかった。
「……なにこれ」
愛用の目覚まし時計が、けたたましい音ではなく、「おはようございます、お姫様♪」という甘ったるいボイス(エレオノーラの声)を発していた。
しかも、時計の針がピンク色のハート型に変わっている。
「うざっ! 叩き壊すわよ!」
止めようとしてもボタンが反応しない。「起きるまで止まりませんわ~♪」と煽ってくる。
私は窓から時計を投げ捨てた。
リビングに行くと、さらに事態は深刻だった。
「アリス様、大変です! トースターが言うことを聞きません!」
「パンを入れろって言ってるのに、『今日のラッキーカラーは青ですわ!』とか言って青い焦げ目をつけてくるんです!」
フリージアが涙目で訴えてくる。食卓には、不気味な青色のトーストが並んでいた。
さらに、掃除用ゴーレムが「優雅さが足りませんわ!」と叫びながら、床に薔薇の花びらを撒き散らしている。
「あいつ……! 私の家電を乗っ取ったわね!?」
昨日の接触で、屋敷内のシステムにバックドア(裏口)を仕掛けられたらしい。
命に関わる攻撃ではないが、精神的に削ってくる地味な嫌がらせだ。
「許せない。私の快適な朝を台無しにするなんて……!」
私は怒りに震えながらタブレットを開いた。
しかし、駆除しようにも、プログラムが複雑に絡み合っていて、無理に消すと家電ごと爆発しそうだ。
「どうするの、アリス? このままだとトイレまで『ごきげんよう』とか喋り出すよ?」
「……毒を以て毒を制すしかないわね」
私は決断した。
一人では手が足りない。ならば、使える手駒を増やすしかない。
「フリージア、今すぐ『あいつ』を呼んで」
「あいつ、ですか?」
「そう。王都のサイバー犯罪対策室で暇してる、元魔王よ」
◇
一時間後。
屋敷の応接間に、ジャージ姿の青年――ヴェル(元魔王)が呼び出されていた。
彼は目の下の隈を擦りながら、気だるげにコーヒーを啜っている。
「……で? 私にこのふざけたウイルスの解析を手伝えと?」
「あんた、ハッキング得意でしょ。報酬は弾むわよ。エナジードリンク1年分でどう?」
ヴェルの目がギラリと光った。
「……悪くない。それに、この『エンパイアOS』とやら、構造が少し私の魔王軍システムに似ている。興味深いな」
「似てる?」
「ああ。無駄に派手で、ユーザーの利便性を無視した設計思想がな。……製作者の性格の悪さが透けて見える」
お前が言うな、と言いかけたが飲み込んだ。
「分かった。協力しよう。ただし条件がある」
「なによ」
「私のPCスペックを上げてくれ。今の官給品のPCでは、ラグくて仕事にならん」
交渉成立だ。
私はシステム権限で、彼のノートPCを『ゲーミングPC(最高スペック)』に書き換えた。
「フハハ! 軽い! 爆速だ! これなら神(運営)をも殺せる!」
ヴェルは狂喜乱舞しながらキーボードを叩き始めた。
その速度は人間離れしている。さすが元ラスボスだ。
「解析完了。……このウイルス、中枢サーバーは隣国の『聖女宮』にある。そこを叩かない限り、イタチごっこだ」
「やっぱり、本丸に乗り込むしかないのね」
私は立ち上がった。
今回のパーティメンバーは、私(管理者)、カイル(解析班)、フリージア(秘書)、そしてヴェル(ハッカー)。
元勇者パーティの荷物持ちと、元魔王と、元四天王。
世界一ちぐはぐな、最強の『対・聖女攻略チーム』が結成された。
「待ってなさい、縦ロール。……あんたの城、今度は私が『ダサい』システムに書き換えてやるから!」
私たちは隣国ガレリア帝国へ向かう準備を始めた。
その旅路が、またしてもトラブルまみれになることを、私はまだ知らなかった。




