第20話 システム・ウォー(最終デバッグ)
魔王ヴェルドラゴが操る巨大サーバーロボ(通称:デウス・マキナ)が、その巨腕を振り上げた。
『Execute: Force_Quit (強制終了)』
放たれたのは物理的な拳ではなく、黒い圧縮データの塊。
触れたものを「無」に帰す即死攻撃だ。
「カイル、解析よろしく!」
「了解! 敵の攻撃パターン、ランダムシード値を特定!」
私はカイルのナビゲートを受け、紙一重で攻撃を回避する。
黒い塊が床に着弾し、そこにあったタイルがデータごと消滅して虚無の穴が空いた。
「危なっ! 当たったら存在ごと消えるわよ!」
『ハハハ! 逃げ回るだけか? 管理者権限も所詮はチートツール。私が構築したこの「絶対領域」では無力だ!』
この部屋全体が、魔王の有利なコードで書き換えられている。
私のコマンド入力は遅延し、逆に魔王の攻撃は必中化していく。
「くっ……フィールド効果が強すぎる!」
「アリス様! 私たちも戦います!」
半透明になったフリージアたちが叫んだ。
彼らは魔王に消されかけた影響で、今は『幽霊ユニット』のような状態だ。
「無理よ! あんたたちじゃ攻撃が当たらない!」
「いいえ! 私たちNPCにも意地があります!」
フリージアが、ミラージュが、ハヤテが、そしてミニサイズのクラブロスが、一斉に魔王へ特攻した。
『無駄だ。ゴミデータが!』
魔王が迎撃システムを起動する。
しかし――。
「え?」
四天王たちの攻撃が、魔王のバリアをすり抜けた。
フリージアの氷魔法が、ロボットの関節部を凍らせる。
クラブロスの小さなハサミが、重要な配線をパチンと切断した。
『な、なにっ!? バリアが反応しないだと!?』
「そうか! あいつら、今は『半透明(データ破損)』状態だから、システムの当たり判定から外れてるんだ!」
カイルが叫ぶ。
魔王に消されかけたバグ状態が、逆に最強のステルス迷彩になっていたのだ。
「よくやった、ポンコツ四天王!」
私はこの隙を見逃さなかった。
魔王の動きが止まった一瞬。
私はシステム権限をフルスロットルで解放する。
「『System Command: Override (権限上書き)』!」
『させるかぁあ!!』
魔王が全砲門を開き、迎撃ビームを乱射する。
しかし、私はもう避けない。
「カイル、全魔力を私に回して!」
「OK! 僕のMP全部持ってけ!」
カイルからの魔力供給を受け、私は光の翼を展開して突っ込んだ。
ビームの直撃を受けるが、私は歯を食いしばって耐える。
「私は……この世界の平和な日常が好きなのよ! 美味しいご飯と、ふかふかのベッドと、バカな勇者や魔族たちが騒いでるこの世界が!」
『ふざけるな! そんな非効率な世界、私が最適化してやる!』
「余計なお世話よ! 世界は効率だけで回ってるんじゃない……バグもエラーも含めて『人生』なのよ!」
私は魔王の目前に迫り、彼が守っていたメインコンソール(キーボード)に手を伸ばした。
魔王の手と、私の手が重なる。
『ぐああああっ! 私の管理者権限が……吸われる!?』
私の転生特典『管理者権限』は、元々この世界のものじゃない。
外から来た異物だからこそ、この世界の創造主(気取り)である彼をも上書きできる。
「チェックメイトよ、魔王!」
私は叫び、最後のコマンドをエンターキーごと叩き込んだ。
『System Command: Rollback (ロールバック)』
『Target: Verdrago → Human_Mode (人間設定に戻す)』
『Option: Deprive_All_Skills (全スキル剥奪)』
――カッ!!
まばゆい光が玉座の間を包み込む。
巨大ロボットが分解され、黒いデータが浄化されていく。
『馬鹿な……私の新世界が……理想郷がぁああああ!!』
魔王の絶叫が消え、光が収まった時。
そこには、ただのジャージ姿の青年が、床にへたり込んでいた。
彼の目の前にあったモニターもキーボードも、すべて消滅している。
「あ……あぁ……」
青年――元魔王ヴェルドラゴは、震える手で何もない空間を叩いていた。
しかし、もう何も起こらない。
彼はただの、無力な人間に戻ったのだ。
「終わりね」
私は荒い息を吐きながら、彼を見下ろした。
勝った。
完全に。
「アリス様!」
「アリス!」
半透明のままのフリージアたちが駆け寄ってくる。
私は倒れ込みそうになるのを堪え、最後の力を振り絞ってタブレットを操作した。
「……待って。あんたたち、そのままだと消えちゃうから」
私は『修復コマンド』を打ち込んだ。
『System Command: Data_Restore (データ復元)』
『Target: Four_Kings (四天王) / Source: Backup_Log (戦闘前のバックアップログ)』
――キラキラ。
光の粒子が四天王たちの身体に集まっていく。
透けていた手足に色が戻り、実体としての質量が確定する。
「あ、あれ? 触れる……?」
フリージアが自分の頬をつねって、痛みに涙目になる。
「よかった……元に戻りましたわ!」
「危なかった。もう少しで幽霊部員になるところだったぞ」
ミラージュも安堵の息をつく。
「ふぅ……これで完璧」
私はニカっと笑い、そして今度こそ本当にMP切れで意識を手放した。




