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「役立たずの荷物持ち」と勇者パーティを追放された幼女(10歳)ですが、実は世界システムの「管理者(アドミニストレータ)」でした。  作者: NN


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第2話 あれ? 勇者様、スライムに苦戦してませんか?

「はぁ……極楽、極楽」


 王都の下町にある安宿の屋根裏部屋。

 狭くて薄暗いこの部屋が、今の私の城だ。

 私は木桶にお湯を張り、システム権限で『水温固定:42℃』『成分:硫黄泉(美肌効果特大)』を付与した即席露天風呂に浸かっていた。


「今まではお風呂に入る暇もなかったからなぁ……」


 勇者パーティでの生活は地獄だった。

 レオンが「俺は潔癖症だ」と言えば、野営地で魔法の水を出して身体を拭いてやり、マリアが「虫がいる!」と騒げば、周囲半径1キロの昆虫の座標をずらして結界を張った。

 それら全てを手作業(マニュアル操作)でやっていたのだ。


 私のシステム権限は万能に見えるけど、実は『MP』ではなく『精神力(SAN値)』をゴリゴリ削る。

 集中力が切れたらバグが起きるし、最悪の場合、世界の物理法則が乱れてブラックホールができたりする。

 だから私は、常に神経を尖らせて彼らの介護をしていたのだ。


「でも、もう関係ないもんね」


 私はお湯をパシャリと跳ね上げた。

 ウィンドウを開くと、ログが流れてくる。


『Warning: ユーザー[Leon]からのアクセスエラー。マップデータの読み込みに失敗しました』

『Error: ユーザー[Maria]のMP自動回復機能が見つかりません』


 ふふっ、順調に困ってるみたい。

 私は風呂から上がると、粗末な服を着替えた。

 追放されたとはいえ、手持ちのお金はほとんどない。レオンたちは報酬を「子供には管理できないから」と搾取していたし、最後の手切れ金も石ころだったし。


「ま、お金くらいならどうにでもなるか」


 私はリュックを背負い、部屋を出た。

 まずは冒険者ギルドに行って、身分証の更新だ。

 これからは勇者の腰巾着じゃなく、一人のソロ冒険者(Fランク)として生きていくのだから。


 ◇


 一方その頃、王都へ向かう街道にて。


「くそっ! なんだこの森は! いつまで経っても抜け出せねえぞ!」


 勇者レオンは、苛立ち紛れに道端の草を蹴り上げていた。

 ダンジョンから転移結晶で脱出したまではよかった。しかし、そこから最寄りの街までの道のりが、異常に遠く感じられたのだ。


「ねぇレオン様ぁ、まだ着かないんですかぁ? 足が痛いんですけどぉ」

「うるさい! 今、地図を……おい、なんだこれ!」


 レオンが懐から取り出したのは、最高級の魔道地図。

 ……のはずだったが、その表面には『No Signal』という謎の文字が点滅しているだけ。


「ちっ、故障か? 高い金出して買ったのに役立たずが!」

「きゃあっ! レオン様、魔物よ!」


 マリアの悲鳴と共に、草むらから飛び出してきたのは、青いプルプルした塊――スライムだった。

 街道沿いに出る最弱の魔物だ。冒険者になりたての子供でも倒せる相手。


「なんだ、雑魚か。俺の手を煩わせるな」


 レオンは鼻で笑い、腰の聖剣を無造作に振るった。

 彼の中では、スライムなど剣圧だけで消し飛ぶイメージだった。今まではそうだったから。


 ――ボヨヨンッ!


「は?」


 聖剣がスライムに当たった瞬間、ゴムまりのように弾かれた。

 剣先がヌルリと滑り、レオンは体勢を崩して無様に転倒する。


「ぐっ!? な、何が起きた!?」

「レ、レオン様!?」


 起き上がろうとしたレオンの顔面に、スライムが『体当たり』を食らわせる。

 本来ならダメージなど入らないはずの攻撃。

 しかし――


「ぶべらっ!?」


 レオンは鼻血を噴き出して吹っ飛んだ。

 顔面を強打する激痛。今までアリスが『被ダメージ99%カット』の常時バフをかけていたため、彼は痛みに極端に弱くなっていたのだ。


「い、痛ぇえええ! なんだこいつ、変異種か!? マリア、焼却しろ!」

「は、はい! 《ファイア・ボール》!」


 マリアが杖を振るう。

 しかし、放たれた火の玉は、ろうそくの火のように頼りなく揺らめき、スライムの手前でプスンと消えた。


「え? うそ……なんで?」

「何やってんだ! もっと魔力を込めろ!」

「やってますよぉ! でも、なんか身体が重くて……!」


 マリアもまた、アリスによる『消費MPゼロ』『威力補正+200%』の恩恵を失っていた。彼女の実力は、せいぜいDランク程度。連戦の疲れもあり、もう魔力が空っぽだったのだ。


 二人に迫る、プルプルと震えるスライムの群れ。

 その威圧感に、Sランク勇者と聖女は、初めて「死」の恐怖を感じていた。


「くそっ、撤退だ! この森はおかしい!」


 二人は泥だらけになりながら、ほうほうの体で街道を逃げ出した。

 その後ろ姿は、もはや英雄のそれではなかった。


 ◇


「へっくち!」


 ギルドのカウンター前で、私は小さくくしゃみをした。

 誰か噂してるのかな。


「はい、アリスちゃんね。更新手続き完了よ。……って、本当に一人になっちゃったの?」


 受付のお姉さんが、心配そうに眉を下げて聞いてくる。

 私はこのギルドでも「勇者パーティの可哀想な荷物持ち」として有名だったのだ。


「はい。クビになっちゃいました」

「なんてこと……! あの勇者、信じられない! まだ10歳の子を放り出すなんて!」


 お姉さんは激怒してくれたけど、私はニッコリ笑って首を振る。


「大丈夫です。私、こう見えて薬草を見つけるのだけは得意なので」

「そう……無理しないでね。困ったことがあったら相談するのよ?」

「はい、ありがとうございます!」


 私は新しいFランクの冒険者カードを受け取り、ギルドを出た。

 さて、まずは手っ取り早く資金稼ぎだ。


 私は路地裏に入り、再びシステムウィンドウを開く。

 検索するのは『レア薬草:月光草』の群生地。

 通常は幻の薬草と言われ、一本で金貨10枚は下らない代物だ。


『Search Result: 王都地下水道・第3エリアに群生反応あり』


「……え、地下水道?」


 げっ、汚そう。

 一瞬嫌な顔をしたけれど、私には権限がある。


「『Config(設定)』、私の周囲5メートルの『臭気』を遮断。『汚染』を無効化。ついでに『暗視モード』オン」


 準備完了。

 私は路地裏の隅にある、石畳に埋め込まれた重い鉄格子の蓋に手をかけた。

 本来なら大人の男でも持ち上げるのに苦労する重さだが、『筋力補正』を自分にかけた私にとっては発泡スチロールより軽い。


 ガコン、と蓋をずらすと、暗い闇への入り口が口を開けた。


 勇者たちがスライム一匹に死にそうな目に遭っているとは露知らず、私は鼻歌混じりに地下への石段を降りていった。初仕事で大金持ちになる予定だった。


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