第19話 魔王城突入と、四天王(下僕)たち
魔王城の正門前。
赤黒い空の下、禍々しい城壁がそびえ立っている。
ここが世界の敵、魔王ヴェルドラゴの本拠地だ。
私たちはその前に立っていた。……奇妙な一行として。
「重い……カバンが重い……」
「足が痛い……」
私の後ろには、完全に生気を失った四人の男女(と一匹)が従っていた。
秘書のフリージア。
荷物持ちのミラージュとハヤテ。
そして――。
「カニカニ……我、ハサミがまだ小さい……」
私の足元をチョロチョロと歩いているのは、手のひらサイズになった赤いカニ、クラブロスだ。
鍋にして美味しく食べた後、主要パーツを失いすぎて身体を維持できなくなり、魔力切れでミニサイズ化してしまったのだ。
今は私のペット(兼・非常食)枠として、肩の上に乗せている。
「さあ、行くわよ! 元四天王のみなさん、気合入れなさい!」
「「「は、はいっ……!」」」
かつて世界を恐怖させた幹部たちが、10歳の少女に怯えて返事をする。
カイルが呆れたように呟く。
「これ、どっちが魔王軍か分からないね」
◇
城門をシステム権限で『Open』し、中へ入る。
内部は意外にも静かだった。
モンスターの襲撃もない。罠もない。
ただ、長い廊下の先に、電子的な案内板が光っていた。
『Welcome to the Final Dungeon. (ラストダンジョンへようこそ)』
『← Reception (受付) / Throne Room (玉座の間) ↑』
「……完全に会社見学のノリじゃない」
案内通りに進むと、最上階の『玉座の間』へと続く巨大な扉が現れた。
私が手をかけると、扉は重々しい音を立てて開いた。
そこは、広い空間だった。
しかし、想像していたような玉座やレッドカーペットはない。
代わりに広がっていたのは――。
「……サーバー室?」
無数の黒い箱が整然と並び、青や緑のLEDが点滅している。
床には大量のケーブルが這い回り、空調のファンが低い唸りを上げていた。
そして、その中心にあるデスクに、あの男が座っていた。
ジャージ姿の魔王、ヴェルドラゴ。
彼はエナジードリンクを片手に、トリプルディスプレイに向かってキーボードを叩いていた。
「ようこそ、管理者アリス。……待っていたぞ」
魔王が椅子を回転させてこちらを向く。
その目は、何日も寝ていないエンジニア特有の、ギラギラとした隈に覆われていた。
「魔王様! 申し訳ありません、我らが不甲斐ないばかりに……!」
フリージアたちが土下座する。
しかし、魔王は彼らに目もくれなかった。
「四天王か。ご苦労だったな。……だが、もう用済みだ」
魔王が指を鳴らす。
瞬間、フリージアたちの足元に魔法陣が展開された。
「え?」
『Target: Four_Kings / Action: Delete_Account (アカウント削除)』
「きゃあああっ!?」
「身体が……消えるぅうう!?」
四天王たちの身体が、ノイズのように崩れ始めた。
彼らは悲鳴を上げながら、光の粒子となって消滅……する寸前で、私が割り込んだ。
「『Cancel! (キャンセル)』」
私が叫ぶと同時に、消滅プロセスが停止した。
四天王たちは半透明になった状態で、何とか存在を維持している。
「……ほう。私のコマンドに割り込むとは」
「自分の部下を使い捨てにするなんて、ブラック企業にも程があるわよ!」
「部下? 違うな。彼らはただの『NPC』だ。私のシナリオを盛り上げるための舞台装置に過ぎない」
魔王は冷たく言い放ち、立ち上がった。
その背後から、漆黒のオーラ……いや、膨大なデータストリームが噴き出す。
「アリス。君なら分かるはずだ。この世界はバグだらけのクソゲーだ。生まれによる理不尽な格差、救いのないシナリオ、機能していない神(運営)。……だから私が作り直す。『新世界』を!」
魔王の周囲の空間が歪み、サーバーラックが変形して巨大なロボットのような姿に組み上がっていく。
「さあ、始めようか。……最終デバッグ(ラストバトル)の時間だ」
巨大な機械仕掛けの魔王が、私たちを見下ろす。
私はカイルと顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「上等じゃない。……そのバグった思想ごと、修正してあげる!」




