第17話 温泉街の攻防と、爆弾おにぎり
魔王城へと続く旅路。
私たちは、大陸中央部に位置する有名な温泉街『ユノハナ』に立ち寄っていた。
目的は補給と、ショートしたタブレットの修理パーツ集め。そして何より――。
「温泉だぁー!!」
私は宿の露天風呂にザブンと飛び込んだ。
湯気が立ち上る檜風呂。見上げれば満天の星空。
魔王との電脳戦で疲弊した神経に、源泉かけ流しのお湯が染み渡る。
「あぁ……極楽……」
「アリス様、背中流しましょうか?」
秘書兼メイド(自称)となったフリージアが、タオルを持って近づいてくる。
彼女は氷属性なので、お湯に入ると溶けてしまうため、足湯だけ浸かっている。
「ありがとう。……ねえ、魔王城まであとどれくらい?」
「このペースなら、あと三日ほどで『死の荒野』に入ります。そこを抜ければ魔王領です」
「三日かぁ。早いとこ終わらせて、家に帰ってトマトの収穫したいな」
そんなのんきな会話をしていた時だった。
脱衣所の方から、カイルの悲鳴が聞こえた。
「うわぁっ!? な、何だこれ!?」
私はタオルを巻いて飛び出した。
男湯の入り口で、カイルが腰を抜かしている。
その視線の先には――真っ赤に茹で上がった巨大なカニ……のような怪人が仁王立ちしていた。
「グフォフォ! 見つけたぞ、管理者アリス!」
怪人はハサミをカチカチと鳴らした。
全身から湯気を出し、茹でダコのように赤い。
「誰?」
「我は魔王軍四天王『灼熱の甲殻』クラブロス! 貴様を始末しに来た!」
「え、お風呂場に? 覗き?」
「違うわ! 油断しているところを襲撃しようとしたのだ!」
クラブロスはハサミを振り上げた。
そのハサミからは、高熱の蒸気が噴き出している。
「食らえ! 必殺・スチーム・シザース!」
「あー、はいはい。ちょっと待って」
私はシステムウィンドウを開いた。
ここはお風呂場だ。暴れられたら施設が壊れるし、何よりお湯が汚れる。
「『Target: Clubros / Action: Temperature_Control (温度管理)』」
「ぬ? 何をする気だ!」
「あなた、カニでしょ? カニならもっと美味しく茹で上がらなきゃ」
私はニヤリと笑い、数値をいじった。
『Set: Boil_Mode (茹でモード) / Time: 3min』
――ボコボコボコッ!!
突然、クラブロスの周囲のお湯が沸騰し始めた。
というより、彼自身の体内の水分が沸騰したのだ。
「ア、アツゥッ!? な、なんだこれは! 身体が勝手に……!」
「いい出汁が出そうね」
「馬鹿な! 我は灼熱の……あつあつあつ! 目が回るぅうう!」
わずか3分後。
そこには、綺麗に茹で上がって動かなくなった(気絶した)巨大なカニが転がっていた。
「……これ、食べられるかな?」
「アリス、流石にそれは……」
カイルが引いている。
でも、ちょうどお腹も空いていたし。
◇
一時間後。
私たちは宿の夕食会場で、特大のカニ鍋を囲んでいた。
もちろん、食材はクラブロス(の一部)だ。再生能力が高いから、ハサミ一本くらいなら問題ないだろう。
「うまっ! これ最高じゃん!」
「悔しいけど美味しいですわ……四天王の味がします……」
カイルとフリージアが夢中でカニをほじくっている。
私はカニ味噌のリゾットを食べながら、満足げに頷いた。
「ごちそうさま。……さて、これで四天王はあと二人?」
「はい。残るは『疾風の暗殺者』と『幻影の魔術師』です」
フリージアがカニの殻を割りながら答える。
「まあ、向こうから来てくれるなら手間が省けるけどね」
私はおにぎり(カニ入り)を握りながら、窓の外を見た。
夜の闇の向こうで、何やら怪しい気配が二つ、こちらを伺っているのがシステムマップに映っていた。
(……バレてないと思ってるのかな?)
私はおにぎりの中に、こっそりと『爆裂魔法』の術式を練り込んだ。
デザートの準備は万端だ。
「さあ、次はどっちが来るの?」
私のスローライフを取り戻す旅は、今のところ順調(?)に進んでいた。




