第13話 英雄の憂鬱と、指名依頼
王都を救ってから一週間。
私の生活は激変していた。
「アリス様! こちらを向いてください!」
「アリス様が歩いたあとの土を売ってください!」
アカデミーへの登校中、沿道には私のファンクラブ(いつの間にか結成されていた)が詰めかけ、まるでパレード状態だ。
私は愛想笑いを浮かべながら、心の中で毒づく。
(なんでこうなった……!)
あの戦いの後、国王陛下から『救国の聖女』の称号を授与され、勲章やら報奨金やらを山ほど貰った。
それはいい。お金は好きだ。
問題なのは、有名になりすぎて「普通の生活」ができなくなったことだ。
「はぁ……」
私はため息をつきながら、教室に入った。
すると、私の席にカイルが座って待ち構えていた。
「やあ、英雄サマ。ご機嫌いかが?」
「最悪よ。……そこ、どいて」
「冷たいなぁ。……ところで、君に手紙が来ているよ」
カイルが差し出したのは、黒い封蝋がされた禍々しい封筒だった。
差出人の名前を見て、私はギョッとした。
『魔王ヴェルドラゴ』
「……は?」
魔王? なんで魔王から私に手紙が?
恐る恐る封を開けると、中には達筆な文字でこう書かれていた。
『拝啓、アリス・サトウ殿。
貴殿が元部下を赤ん坊に戻した手腕、実に見事であった。
つきましては、我が軍のシステム管理をお願いしたい。
年俸は金貨10万枚。福利厚生完備。週休3日。
断る場合は、王都にメテオを落とします。
敬具』
「……ヘッドハンティングじゃん!!」
私は手紙を床に叩きつけた。
しかも脅迫付きだ。週休3日は魅力的だけど、魔王軍なんてブラック企業に再就職する気はない。
「どうする? アリス」
「どうするもこうするも、無視よ無視! スパムメールみたいなもんでしょ」
私は手紙をシステム権限で『焼却』した。
しかし、トラブルはこれだけで終わらなかった。
ガラッ! と教室のドアが開き、血相を変えた学長が飛び込んできた。
「アリス君! 大変だ!」
「今度は何!? また銅像建てるとか言わないでよ!」
「違う! 北の国境砦が、魔王軍四天王の一人『氷結の魔女』に占拠された! 国王陛下からの勅命だ……『アリスよ、ただちに四天王を討伐せよ』と!」
「えええええええ!?」
教室中に私の叫び声が響いた。
王命(勅命)は絶対だ。断れば反逆罪で国外追放……いや、今の私なら国ごと乗っ取れるけど、そんな面倒なことはしたくない。
「……分かったわよ。行けばいいんでしょ、行けば」
私はガックリと肩を落とした。
どうやら私の『目立たないスローライフ』は、ハードモードの『魔王討伐クエスト』にジョブチェンジしてしまったらしい。
「カイル、あんたも来るわよね?」
「え? 僕は留守番で……」
「道連れよ。あんたの『鑑定』スキル、便利だし」
私はカイルの首根っこを掴んだ。
こうして、私とカイル(強制連行)による、迷惑極まりない魔王討伐の旅が幕を開けたのだった。
(第14話へ続く)




