7話. メガネ曇りからの覚醒フラグ
体育祭、ついに本番!でも、あたしたちは相変わらず運動オンチ。魔法も開花せず、絶望感しかない……!しかも、相手チームには超目立つお嬢様たちがズラリ。もうこれ、参加すること自体が罰ゲームでは!?そんな不安たっぷりの中、二人三脚リレーが始まる──!
「魔法学園恒例のスポーツイベント、春の体育祭を開催します!」
あれから毎日必死で練習してきたけど、気持ちの問題なのか、あてにしてた金髪のあたしは全く反応ナシ。結局、魔法も開花しないまま、とうとう当日を迎えてしまった。
もうどうにでもなれ!……いや待って、どう考えても盛大にコケる未来しか見えないんですけど!?
そして迎えた競技──。
徒競走で派手に転倒し、続く大玉転がしでは、まさかの『玉』行方不明事件発生。結果、ビリ確定。
もうこれ……逆に笑われる才能あるんじゃないってくらい散々な結果だよ。
「いよいよやな~。また派手にコケまくったら、学園の話題やでぇ~」
「ガレスぅぅぅ!!!」
とにかく最悪の流れで迎えた二人三脚。
入場門では銀髪の騎士隊長がニコニコしながら言う。
「お、君たち。練習に付き合えなくて悪かったね。まあ、魔法は使い放題だからさ、楽勝だろ?」
「…………。」
隊長のご期待、プレッシャーしかない。
「先発はリンダにする。相手はエリザベスだ。いいね?」
「はい!がんばります!」
正直、ホッとした。
ごめんリンダ。でもここで様子見できるのマジ助かる。がんばれリンダ、あたしの代わりに活躍してくれ!
そして──ついに入場門から、ジョン様率いる相手チームが登場。
「きゃああああああっ!!」
観客席から、ひときわ大きな黄色い歓声が湧き上がる。先頭を歩くのはクールな表情を崩さない貴公子。その隣で優雅に微笑むのは、麗しきご令嬢エリザベス。
そして──その後ろにいた彼女に、あたしは思わず目を奪われた。
……え、誰、この超目立つ人!?
ピンクのロング縦ロールヘア。鮮やかなグリーンの瞳。スタイル抜群で、まるで舞踏会の主役みたいな存在感。
うわぁ……すごい。明らかに只者じゃない。
「アリアナ、見て!あのお方がセシリア・ミラー様よ。……すんごいオーラ。何かありそうな方ね。気をつけて!」
「う、うん……」
セシリア・ミラー。
その名前を聞いた瞬間、胸がざわついた。
──あれ?この人……も……知ってる?
いや、そんなはずない。だってあたしはモブ乙女。彼女は上級貴族のご令嬢。接点なんてあるはずないのに。でも、なんだろう……すごく懐かしい感じがする。曖昧だけど、前世で一緒に過ごしたことがあるような……。しかも、どことなく「リンダと似た雰囲気」を感じるのは気のせいだろうか。優しいけど強い、そしてちょっとぶっ飛んでる……みたいな。
『悪役令嬢、現る』──本来なら警戒する展開だけど、なぜか彼女に悪い印象は受けなかった。
「それでは、体育祭の最後を締めくくる、上級クラスによる二人三脚リレーを行います!なお、今回は特別ルールとして、初級クラスの生徒であるアリアナ・リンダ両名が特別参加し、魔法の使用も許可されています!さあ、選手入場です!大きな拍手を──!」
ああ……ついに始まっちゃった。
やだ、視線が痛い……!羞恥心で爆死しそう……!今すぐ地面に埋まりたいぃ……!
俯き加減のまま、頭は猫被りのまま、リンダと並んでトボトボと行進する。でも隣のリンダは真っすぐ前を見据えていた。
メガネ、めっちゃ曇ってるけど?てか、顔の気合いヤバすぎない!?
しかも、スタートラインで赤い紐を結ぶ頃には……メガネ、真っ白。もはや霧。
「リ、リンダ……前見えてる?」
「大丈夫! 見えてる見えてる!」
「いや、どう見ても見えてないよ!」
リンダはやる気だ。もう明らかに顔がバチバチしてる。──いいや、ここまで来たらもう覚悟を決めるしかない。やるしかないぞ、あたしたち!
「よーい……バーン!」
スタートの合図が切られた瞬間、ジョン様率いるチームは勢いよく飛び出し、お嬢も笑顔で華麗に走っていく。対して、リンダと騎士隊長のレオンハルト様は……ほぼ早歩き。いや、むしろ散歩?
み、見てらんない~~!
「が、頑張れ~!リンダ~!」
あたしはとにかく声援を送るしかない。でも、それはあたしだけじゃなかった。敵であるセシリア嬢も、なぜかリンダをじっと見つめている。
「……はぁ。あんなトロくてどうするのよ。エリザベスが余裕ぶっこいてジョンとイチャつくじゃないの。ほら、リンダ!さっさと魔法使いなさいっ!」
びくっ!
鋭い声が響き渡り、思わずあたしは肩をすくめた。
と──次の瞬間、その鋭い眼光があたしにも突き刺さる。
「……あぁ、あんたは別にトロくてもいいわ。どうせ魔法も大したことないでしょ?期待してないし」
え、何これ!?
初めて話しかけられたのに……モブ扱い、モブ確定ッ!
「あ……あの、ご心配には及びませんので……っ」
「別に心配なんかしてないわよ、ふん。で、お前たちの目的は何?レオンから聞いてるんでしょ?」
「え、えっと……その……」
うわ、すごい圧……どうしよう、ドキドキする。
「……上級クラス同士の親睦を深めることです」
「はぁ?」
セシリアは思いっきり鼻で笑った。
「私と、エリザベスの?」
「は、はい。学園も二人が仲良くしてくれることを望んでいます……!」
「ふん。無理ね」
バッサリ。
秒で切り捨てられた!
「エリザベスのようなあざとい女と親睦を深めるくらいなら、あんたと二人でワニの池に飛び込む方がマシだわ」
「え、えぇぇ!なんであたしも巻き込まれてるの!?意味不明!」
「ジョンに色目を使う姿を見るだけで、吐き気がするのよ」
「あ、あの……」
どうしよう。仲良くするの無理ゲーすぎる……。
そうこうしている間に、ジョン様チームはすでに丘の中腹まで到達。
一方、リンダたちは……まだトラックをのんびりお散歩中。
……終わった……。
誰もがそう思った、その時。
「……ん?」
リンダのメガネが光った。いや、正確には──パリーンッ!!
──ここからだ。
リンダ、覚醒開始。
いやいや、リンダ!?何その謎の覚醒フラグ!?ここまで散々だったのに、まさかの展開……!てか、もしかして本当に何かやらかすつもり!?え、やばい、あたし巻き込まれる!?もはやどうなるか分からないけど……とにかく、こうなったら最後までやるしかない!