5話. 「帰らせてください……」モブ乙女、体育祭フラグ建設中
まさかの上級クラス突撃!?関西弁が飛び交うドタバタ劇に、銀髪イケ騎士まで登場!けれど、それはまだ序章に過ぎなかった……。体育祭という最恐イベントが、モブ乙女に襲いかかる──!
ウキウキ最高潮のリンダに対し、あたしの足取りは泥のように重い。
ガレスに先導されながら、目指すは恐怖の上級クラス。魔界への片道切符だ。
「アリアナ、上級クラス突撃なんて、めっちゃドキドキやん!でも今日はジョン様もご令嬢ズもお休みなんやって~」
「えっ、ほんまかいな!?」
思わず関西ノリで返してしまうあたし。いやそれより──ホッとしたぁぁぁ!
ジョン様とご令嬢ズという、乙女ゲームのラスボス級トリオを回避できたのはマジで助かる。
上級生って今は4人しかいない。つまり、今日いるのは「騎士隊長」だけってこと。
ん?……隊長ってどんな人だっけ?
「よう知っとるなあ?風紀委員長は王室行事でおらんねん。それ聞いて、ご令嬢ズも一緒にお休みや。さすが貴族様やな~」
「いやガレスさんまで関西弁ノリノリかい!てか、上級生のスケジュール自由すぎん!?貴族ってフリーダムなん!?」
「まぁな。隊長も昨日まで遠征やったから、久々に登園したばっかやしな~」
何この関西弁ミュージカル。
でも、妙な団結感でちょっとだけ緊張がほぐれた。
──が、その和やかな空気は、教室の扉を開けた瞬間、木っ端みじんに砕け散るのであった。
「やあ、諸君。私がこの学園の守護神──雷鳴とともに現れ、悪を断つ究極の騎士!レオンハルト・ライデンシャフトだ!」
いや名乗りが重いわ!
教室に一歩足を踏み入れると、そこはもう別世界。初級クラスのショボい机とは大違い、まるで貴族サロン。しかも、虎の刺繍入りゴージャスソファーで足組み&剣構えの男がキメポーズ。
──銀髪っ!?銀髪のイケ騎士やん!?
銀髪スパイラルパーマに、琥珀色のイケ散らかした瞳──。このビジュ、絶対攻略対象枠やん!……って、あれ?この剣、どっかで──
あっ、あたし刺したやつ?
「おお、これが例の猫か。ジョン公認の問題児ってやつだな。ん~、ヨシヨシ」
レオンハルトがヌッと立ち上がり、アレクちゃんをナデナデ。
でかい。近い。怖い。
身長2メートルくらいあるのでは?巨神兵?しかもスパイラルパーマ近距離は威圧感エグい。
帰りたい。今すぐ退場したい。
「君がアリアナか。ふむふむ、面白い。実に個性的だ」
「こ、個性的……」
それ乙女ゲーム界隈で「ダサかわ」って言われるやつ!
モブ乙女にとって、個性的は爆弾ワードやねん!
そら頭に猫乗せてるけどさ!
って心の中で文句言ってると……。
「あのっ!レオンハルト様!わたくし、リンダ・ディビスと申します!憧れの騎士団隊長様にお会いできるなんて、もはや本日を命日と心得ております!」
リンダがメガネを曇らせながら、全力で自己紹介という名のラブコールを投げつける。
「知ってるよ、君。学科首席合格者だろ?魔力はまだこれからだけど、念力魔法のポテンシャルはピカイチ。期待してるよ」
「ええええっ!隊長がそんなことまで!?メガネ曇るぅぅ!」
もうメガネというよりスチームアイマスク状態だ。
「生徒は五十人、それぞれ何かしらの光るものがあるから入学してるんだよ」
「へぇ~。そうなんですね。じゃあ、アリアナの才能は何ですか?」
「それはおそらく……」
ぎくっ。
えっ、待って。
それ、何て答えるつもりですか隊長。いやその前に誤魔化さないと!
「えーっと、エヘへ……。実は補欠入学なんですよぉぉ。特に秀でた魔力も、秘められた能力も……ゼロですっ!」
「レオン様、おそらくの続きを?」
リンダァァァ!そこ掘り返さないでぇぇぇ!
「ふむ。理事長や上層部の強い推薦だろうね。何かとんでもない才能が隠れてるはずだよ。だってこの精霊猫、完全に支配してるじゃないか」
「やっぱり精霊猫なんですね。ジョン様も言ってました」
リンダは納得顔でうなずく。
「……精霊?えっ、アレクちゃんって普通の猫じゃないのですか!?」
驚くのは、あたし一人。
そういやジョン様が魔力がどうとか見当違いなこと言ってたけど、あれ本気だったの?
確かにモフ度は異次元。でもあたし、普通にキャットフードとナデナデで懐柔してたんですけど!?
「まさか……普通の猫だと思ってた?」
「は、はいぃぃ……」
「完全に魔力で従えてるよね。しかも上級レベルの存在を」
「……え、マジですか?」
そんなヤバいもん、市場で買ったキャットフードで手懐けてたあたし、逆にすごくない??
でも、ここで「違います」と言い張ると、何か面倒なことになりそうな気がする。
……うん、もうアレクちゃんは精霊ってことにしとこう。
それに目の前の銀髪スパイラルパーマの強面(CV:低音イケボ)、なんか妙に親しげだけど──
この人、どこかであたしを……刺して……いや、そんな記憶あったような?
なかったような?
もしかしてただの気のせい?
「で、本題ですけど」
ガレスが絶妙なタイミングで話題を変えてくれる。
「隊長、予定ギチギチですからね。用件お願いします」
「そうだった。実はお願いがあって」
「は、はい!何でもお申し付けください!」
「体育祭で、二人に協力してほしいんだ」
「体育祭?え、何の競技ですか?」
「二人三脚リレーだ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
リンダと二重奏で絶叫する。
体育祭──それは運動音痴を社会的に抹殺する最恐イベント。
「ご、ごめんなさい隊長!私たち、本当に運動ダメで!ご期待には……」
「大丈夫大丈夫。今日の体育の授業、ここから双眼鏡で見てたから」
「盗み見!?」
「君、走りながら二回転んで、三回目は自分の足に引っかかって倒れたよね」
「恥ずかしすぎて死ぬわ!」
──また黒歴史、追加されました。
「まあ、勝ち負けはどうでもいいんだ」
「そうなんですか?」
「知ってる?このクラスの三角関係カオス具合」
リンダが「知ってる知ってる~!」と完全にワイドショーのコメンテーター顔に。
「ジョンを巡って、ご令嬢二人がバチバチ女バトルしてるんだよね。一応、婚約者はエリザベスってことになってるけど、セシリアがガン攻めしてて……で、最近エリザベスの冷気魔法の威力が増してきたんだよ」
「何それホラーですか!?」
「うん。そろそろ本格的に〝氷の乙女〟とか呼ばれ始めてるから、ガチでこのままだと教室が冷凍庫になる」
「いや魔法の撃ち合い怖すぎん!?この学園、命の保証あります!?」
「だから、イベント挟まないとヤバいなって思ったんだよね。手ぇ繋いで仲良く二人三脚でもすれば、少しは空気和むかなって」
「えっ、そんな平和戦略、実行するのあたしたちなんですか!?」
「うん。で、私と君たち初級コンビ。そして、ジョンandご令嬢ズで仲良しチームを組んでもらう」
「……」
「友情・努力・愛と平和の体育祭だよ!」
「……もう帰っていいですか?」
「許しません!」
──イベント強制参加、逃げ場なし。
てか待って?これ、絶対地獄の修羅場案件では!?
「はいっ!楽しそうですし、喜んで参加します!」
リンダァァァァァ!!!
ノリノリのリンダに腕引っ張られ、あたしの運命は完全終了。
ああ、もう終わった。
体育祭……それはモブ乙女が一番関わっちゃいけないイベント……。
──そして、なぜか脳裏の奥底がざわついてる。
この体育祭、ただのカオス修羅場で終わる気がしない。
モブ乙女に、平和維持の責任重すぎませんか!?
まさかの二人三脚リレー!?モブ乙女の平和はどこへやら、修羅場フラグが乱立する体育祭編の幕開けです。果たしてあたしは無事に乗り切れるのか!?