4話. 乙女ゲームならヒロインなのに、現実はギャグ担当です
はぁ~……地味に!静かに!目立たずに生きる予定だったんですよ、アタシ!
ただ猫ちゃん拾っただけなのに、ジョン様(たぶん攻略対象A)に目をつけられ、風紀委員に部屋の片付けを強制され、クラスでは「猫耳モブ女子」って噂される始末。
あたしの平穏な学園ライフ、どこ行ったーー!?
「おいおい、お前、猫なんか飼ってんのかよ!」
騎士のドスの効いた声に、思わず肩がビクッと跳ねる。
「ひぃっ。え、えっと……実は拾っちゃったんです。すごく可愛くて、その……ちょっと面倒見てるだけで……エヘへ」
恥ずかしさを隠しきれずヘラヘラ笑ってみせるけど、風紀委員の騎士は一切容赦なし。
「ダメに決まってんだろ!寮での動物飼育は全面禁止!今すぐ放してこい!」
やっぱりそう言われるよね、とは思ってたけど、こうもバッサリ言い切られると、さすがにショック。アレクちゃんのふわふわの毛並みを撫でながら、「うぅ、こんなに可愛いのに……」と、思わず涙声でつぶやいてしまう。
すると──。
「待て」
突然響いた低い声。声の主は、風紀委員長にして次期王太子候補の筆頭、ジョン・ウィリアムズ様だった。思わず背筋が伸びる。なんでここでジョン様が?
「その猫から、大きな魔力を感じる。お前も気付いているか?」
「魔力?え、いやいや全然!そんなの微塵も感じませんけど?」
「突然降り出した雷雨。あの威力と展開速度は明らかに上級魔法。それも正確な制御が必要な実態魔法だ。誰かが猫を媒体にして、意図的に発動させた可能性が高い」
……え?なにそのカッコつけ理論。
雷雨の正体は、金髪のわたし(前世?)の暴走なんですけど。でもそれ、絶対言えない。
「よって命じる。この猫を学園の重要監視対象とする。お前は当面、その監視役を務めろ。ひとときも目を離すな」
「えっ、つまり飼ってもいいってことですか?」
「監視だ」
ジョン様の声は冷徹そのもの。
でも、言い換えれば飼育許可ってことよね!? 嬉しいっ!
「承知いたしました。アリアナひとりでは大変でしょうから、寮生一同で協力します!」
リンダが嬉しそうにメガネを曇らせながら、代わりに返事をしてくれた。
こうして、アレクちゃんは正式に「監視対象」として寮に迎え入れられることになったのだった──。
「よーし、それじゃ各部屋のチェックを始めるぞ。まずはアリアナ、お前の部屋からだ」
「へっ!?部屋のチェック!?」
一瞬で血の気が引く。まさか、このカオス空間を見せることになるなんて……!
「あ、あの~、騎士さん?」
「ガレスだ。ガレス・エルトン。フルネームで覚えておけ」
「はい、ガレスさん!えっと、ちょっとだけ待ってください!」
「待たねぇ!さっさと案内しろ!」
もうダメだ。抵抗むなしく、問答無用で部屋に突入されてしまった。
案の定、そこには地獄絵図が広がっていた。
ベッドには脱ぎっぱなしの服が山積み、机の上は魔法の教本やらラクガキ帳やらで埋もれ、床には食べかけのお菓子まで転がっている始末。
「うわぁ……」
「……これはひどいな」
ジョン様まで無言になるレベルの惨状。
あたしの顔は、真っ赤な茹でダコ状態。
「明日までに絶対片付けろ!次来たときに散らかってたら、罰則もんだからな!」
ガレス・エルトン(やたら圧強め)にビシッと怒鳴られ、あたしは小さくうなだれた。
「ひぃぃっ、すみませんっ!」
マジで消えたい。地面に埋まりたい。
でも、リンダが「大丈夫!一緒にやろう!」って、満面の笑みで救世主ムーブをかましてくれたおかげで、なんとか夜中までには片付け完了。
……正直、あたし一人だったら永遠に終わらなかったわ。リンダ、マジで女神。推し変しかけた。友達力、SSR超えてUR級なんですけど!なにその人徳、前世でどれだけ徳を積んだの~~~っ!?
──って、感動した翌朝。
リンダと一緒に登校してるんだけど……なんか、視線が熱い。いや、熱視線どころか、刺さる。バリバリ刺さる。
何故なら、あたしの頭の上には、ふわふわモフモフのアレクちゃんが乗っかっているから!
しかも、絶妙に髪と一体化して、まるで「猫耳ヘアにしたモブ女子」みたいな見た目になっている。
「アリアナ、その髪型、攻略対象を狙う新手のモテテク?」
「いやいやいや!そんな裏技どこにも載ってないから!」
「でも可愛いよ~!猫ちゃんまでセットとか反則!」
「もはや髪型じゃないのよ!」
周りの視線が『何あれウケる』と『なにあの小動物カワイイ』の二極化していて、あたしは地面にめり込みたい。
地味に生きたいのに、なぜか乙女ゲームの悪目立ちヒロインみたいになってる!?
教室に入っても話題は止まらない。
「猫連れてるのって、もしかして風紀委員長の許可があるってこと?」「すごーい!まさかの公式認定ペット!?」「うわぁ~まさに王太子ルート突入じゃん!」
──そんな噂が爆速で広まる。
おかげでアレク先生まで「アレクちゃ~ん」と呼びながら頬ずりしてくる始末。
「ちょっ!せんせー!やめてください!それ、名前の元ネタが先生だってバレるぅぅ!」
「え?私から取ったのでしょう?名誉なことですよ?」
「恥ずかしいですっ!どこぞのモブが教師にガチ恋してるって誤解されるじゃないですかぁぁぁ!」
「ふふ、照れなくてもいいのです」
「やだぁぁぁ!黒歴史が追いかけてくるぅぅ!しかも足速ぇぇ!」
そんな悲鳴を上げた数分後──
「おい、アレクちゃんの魔力、ちょっと分けてもらったら?」
火力不足でおなじみのあたしは、いつものようにクラスメイトにイジられる。でも、今日のリンダは違った。
昨夜のジョン様(攻略対象A)との接触イベントが効いたのか、リンダの魔力は爆上がり。
りんご大の炎をぽんっと出して、「どう?ちょっとヒロインっぽくない?」とキラキラした目で見せつけてくる……。
*
「あー羨ましいなリンダはー。もぐもぐ」
「うふふ、私、ついに覚醒の時が……というほどでもないか。もぐもぐ」
お昼休み、学食のすみっこで『脇役女子の嘆き』をリンダと語っていたら──。
「お、ここにいたか。アリアナ!」
見覚えのあるデカい丸顔がぬっと出現。
「うわっ!……えっと」
「まさか名前忘れてねぇよな?」
「ガレス・エルトンさん!」
リンダが秒で答える。さすが、攻略対象A(ジョン様)とのフラグ管理に余念がない。
「で、部屋はきれいになったか?」
「昨夜リンダが手伝ってくれたので、ばっちりです!……もぐもぐ」
「ん?そこで食う?」
「えへへ、お掃除確認ですね!問題ありません!」
リンダがにっこりフォロー。
「なら良し。それより、お前ら二人放課後、上級クラスに来い」
「えっ、私まで!?」
「ああ。我らの隊長が直々にお呼びだ」
隊長?誰だっけ?
「はいっ!全力で参ります!」
リンダがめっちゃ前のめりで即答。
その横で、あたしは「絶対ろくなことにならないヤツじゃん……」とモブの勘が警鐘を鳴らしていた。
まさかの「監視対象」認定で、アレクちゃんと一緒にいる理由はできたけど、周りの誤解はどんどん広がるばかり。いや、ただのモブ女子のはずなんですけど!?こうしてまた、あたしの日常は波乱に満ちたものになりそうです……。