3話. 前世チート炸裂!そして濡れる次期王太子候補
魔法の練習って、地道な努力が大事。でも、夜の屋上でこっそり特訓してたら、まさかの猫との運命的(?)な出会いから、大パニックの大魔法暴走事件に発展!?
しかも、最後には絶対にバレちゃいけない風紀委員に目をつけられて……?
「今晩もお星さまがキレイね~。ふふっ、誰も見てないし……遠慮なくやっちゃうよ!」
深夜の寮の屋上、こっそり忍び出たあたしは、夜風でボサボサ髪をそのままに魔法練習スタート。
見上げれば満点の星空。うん、これはもう世界が「がんばれアリアナ!」って応援してくれてるやつ。
アレク先生も言ってくれた。「きみはまだ伸びる」って。なら伸びるしかないでしょ!根っこからぐい~んと!
──でもね?魔法って、そんなに甘くないんだわ。
最初からうまくいくはずないのは分かってる。でも今は気合い十分!
あたしは両手を構えて、そっと息を整えた。
「よーし、今日こそは成功させるよ~!」
その時、足元から「にゃ~ん」って可愛すぎる不法侵入者の声が聞こえた。
「……えっ、尊っっっ!!!」
振り向けば、そこにいたのは黒曜石のごときふわっふわの黒猫。月光でビロードみたいな毛並みがキラッキラしてるし、ビー玉アイであたしをガン見。もう尊死レベル。
「え、待ってなにこの天使!?運命!?召喚獣!?未来の相棒!?」
魔法の練習は秒で中断、黒猫をひっつかんで抱っこスキル全開!
ほっぺすりすり、肉球ぷにぷに、猫吸い連打。
ありがとう地球……いや宇宙。幸福度がもはや銀河を突破した。
「名前つけなきゃ!えーっと、うーん……じゃあ『アレクちゃん』に決定!」
※推しの名前を猫に捧げるという禁断の儀式、無事完了。
「アレクちゃん、ちょっとそこで見ててね!今から本気出すから!」
こうして、あたしの深夜特訓は「癒し」と「魔法」の狭間で揺れながら、なぜか猫中心に進んでいくのだった。
「じゃあいくよ……炎の精霊よ、我が手に宿れ!」
ぽわん。
……出たのは、ビー玉サイズの、ぽよぽよ炎。
「むーん。ちっちゃ!かわいいけど、全然火力不足~!」
期待外れのマッチ棒火にため息をつきながら、ふと夜空を見上げた。
そのとき、不意に頭の中にスルッと忍び込んできたのは、謎の金髪令嬢。
入学してからというもの、なぜか魔法やマナーが、身体に染みついてる気がする。しかも、胸元には見覚えゼロのブローチが燦然と光ってるし。え、これってまさか……
「前世が高貴な魔導師お嬢様だった説、浮上……!?」
いやいやいや、さすがにそれはラノベの世界でしょ。……でも、ゼロじゃないよね?そういう可能性。
頭の中がぐるぐるしながらも、なんか勢いがついてきたあたしはドレスの裾を優雅に持ち上げ(風に見せかけてジャージを軽く摘んだだけ)、謎のブローチをギュッと握る!
「ふふん、わたくしは高貴なるレディですわ!」
執事と侍女に囲まれて豪華馬車から登場──という謎の脳内演出と共に、気分はもう学園の華!
「火の精霊よ、我が手に宿り給え!」
──ブオッ!!
一瞬で炎が噴き上がり、手のひらから火柱が噴き上がった!
「ひゃあああ!?ちょっと待って、なんでこんな急に本気出してきたの!?」
パニックで手をブンブン振ったら、その火が近くの植木にファイア!
「うそでしょ!?やばい、消火、消火~~!!水の魔法、水の魔法って、呪文なに!?」
しかし、焦る脳と裏腹に、口は勝手にスラスラ動き出す。
「水の精霊よ、我が呼び声に応えよ!」
──ドシャアッ!!
大粒の雨が降り出し、あっという間に火を飲み込む。それだけで終わればよかった。なのに──。
「雷鳴よ、我が手に宿りて轟け!──実体魔法、雷雨召喚!!」
空に黒雲が集まり、稲妻が走る。
ゴロゴロッと雷鳴が響き、さらに雨が強まる。
「え、ちょ、まって、まって!?なんでこんな本格的な天気コースに!?」
屋上はすでに嵐のただ中。火は消えたけど、状況はカオス。
そして、なんとなく口にしたひとこと。
「……解呪!」
その瞬間、すべての魔力がぴたりと静まり返った。
抱えていたアレクちゃん(猫)は、ずぶ濡れで「にゃ……」と不満げに鳴いて抗議の目。
ごめん、君まで巻き込むつもりはなかったの。
そのまま猫を抱えて階段を降りる。心はもうジェットコースター。
「……えっと。つまり、アタシって……魔法の才能、ありすぎ?」
うっかりとはいえ、上級魔法を無意識で連発。
ちょっと……いや、かなりヤバいかもしれない。アレク先生に見せたら褒めてもらえるかな。いやでも、これ絶対目立つやつだよね……?
セーブできない力。謎の記憶。前世のお嬢様疑惑。いろんな不安が頭をよぎる。
そんなことを考えながらホールに降りると──。
タオルを手に集まる寮生たちが集まっていた。
その中央には──ずぶ濡れで立ち尽くす、一際目立つ白い制服の一団。
……あ。やばい。ていうか、なんで?
そこにいたのは、あまり関わりたくない貴公子・ジョン様と、その取り巻き騎士三人組。
全員、制服も髪もびっしょびしょで、無言でタオルを握りしめていた。
「……あたしが呼んだ土砂降りに巻き込まれたんだ。ってことは……し、知らんぷりしとこ!」
さりげなく身を翻そうとした、そのとき──
「アリアナ!タオル持ってきて!」
リンダの声が飛んできた。
「う、うん!」と返事をしつつ、そっと耳打ちする。
「で、何しに来たの?」
「寮の抜き打ち監査よ!風紀委員会が来たんだから!」
……なるほど、監査ねぇ。
でもリンダはなぜかテンション高め。丸メガネが曇るほどワクワクしてるし、他の寮生も妙に浮き足立ってる。
いや、なんでそんなに楽しそうなの?
答えはすぐに分かった。
「よーし、始めるぞ!」
護衛の一人、ちょっとぽっちゃりした中級騎士が声を張り上げた瞬間──。
ビクッと驚いたアレクちゃん(猫)が、あたしのジャージの中から飛び出した。
しかも最悪なことに、一直線にジョン様の足元へ。
そして──。
「にゃー」
よりによって、風紀委員長の目の前で猫耳全開のキュートボイスを炸裂させた。
完全にアウト。
「……?」
ジョン様が静かにアレクちゃん(猫)を見下ろす。その沈黙が逆に怖い。
寮生たちの視線が、一斉にこちらに突き刺さる。
まるで「犯人はお前だ」と言われているような空気。
心臓の鼓動は、乙女ゲームでバッドエンド直前のBGMみたいに鳴り響く。
だって、寮内ペットなんて規則違反の最たるもの。
あ……これ、完全に詰んでるやつ。
「え、えっと……その……ちがうんです……」
必死に言い訳を探すけど、ジョン様の静かな圧が強すぎて、脳みそがフリーズ。言葉が、出てこない。
いっけなーい!これは完全にやらかした──!
魔法は予想外に使えたけど、同時にトラブルも量産してしまったあたし。しかも、猫まで堂々と風紀委員長の前に飛び出しちゃって……これはもう、逃げられない!?どうする、どうなる!?