1話. 処刑された王女、宿る魂はまさかのモブ生徒!?
ようこそ、モブ乙女の(?)波乱万丈ストーリーへ!
処刑された王女の魂が、まさかのモブ生徒に宿った!?
──でもまあ、大丈夫。あたしは地味に生き抜きます!たぶん!
処刑台の中央で、わたくしは磔にされていた。
血に濡れた手首は錆びた鉄の枷に囚われ、足元には古代魔導師ですら逃れられぬ呪詛魔法陣が刻まれている。
王族だろうと、どれほどの魔力を持とうと、この陣に囚われたが最後。ここは、魔法も誇りもすべて奪われる〝死の舞台〟なのだ。
そして、この処刑劇を仕組んだ張本人が、目の前に立っている。
誰も正体を知らない「執行官」。
黒ずくめの痩せた男で、顔は闇色の仮面に覆われ、長いマントが全身をすっぽりと包んでいた。仮面の隙間から、僅かにただれた肌が覗き、袖口から覗く手は干からびて骨ばっている。
「セリーナ王女殿下ぁぁぁ!見てくださいよ、この無様な姿!あんたも〝ただの人形〟に堕ちたんですぜぇええ!」
喉の潰れたカラスみたいな声が、処刑台全体に響き渡る。異様な声に、生徒たちのざわめきは一瞬で消え、誰もが押し黙った。
……この男、何者?
この狂った処刑劇、誰が望んだの?
疑問が渦巻く中、ふと視線を感じて足元に目をやる。処刑台のすぐ下、そこに一匹の黒猫がいた。
光を吸い込むような漆黒の毛並み。
じっと動かず、わたくしを見上げている。
──この猫、知っている。
確かに記憶にある。それなのに、思い出そうとするほど記憶が霧に包まれていく。
「さあ、最後の言葉をどうぞぉ!泣いても叫んでも、もう手遅れぇぇ!ひーっひひひひひっ!」
執行官が仰け反るように笑う。
静かに視線を上げ、処刑台を囲む見物席へと目を向けた。
そこにいたのは──ジョン・ウィリアムズ様。
かつての婚約者であり、今はこの処刑を見届ける男。そして、その隣にはエリザベス・ラングレー。わたくしを陥れ、ジョンを奪った女が、満足そうに微笑んでいた。
わざと皮肉な笑みを返してみせる。
「一言、宜しくて?」
ジョンの瞳が、ほんのわずかに揺れた。
その微かな反応が、胸に小さな火を灯す。
「エリザベスと結ばれれば、きっと後悔しますわ。なぜなら──」
「もういい」
ジョンは冷たく遮った。
けれど、その声の端には、かすかに迷いが滲んでいるように聞こえた。
「お前は感情に飲まれ、実体魔法で学園を破壊した。魔法は人を守るもの。それを忘れた者に、生きる資格はない」
無慈悲に放たれたその言葉は、胸に深く突き刺さる。
わたくしが守ろうとしたものは何だったのか。
どうして、こんなことになったのか。
ふふふっ、ひひひひひひひーーっ!
執行官が足をばたつかせながら床を転げ回り、狂ったように笑い出す。
「王族の処刑劇!悪役令嬢の末路!最高のエンタメだろぉぉ!でもなぁ、そろそろ終わりにしょうじゃねえかぁぁ!」
強い風が吹きつけ、土と血と鉄の臭いが辺りに満ちる。純白だったドレスは泥にまみれ、裾は裂け、見る影もない。それでも胸元のペンダントブローチだけは、王女としての誇りを失わぬように、最後の輝きを放っていた。
……悔しい。悔しくてたまらない。
この悔しさ、絶対に忘れませんわ。
この処刑台に次に立つのは──貴方よ、執行官!
そう心に誓った瞬間、胸に鋭い衝撃が走る。
剣が突き立てられ、冷たい鉄の感触が肉を裂き、骨を貫いていく。
視界がゆっくりと暗闇に染まる。
身体の力が抜けていき、意識も遠のいていく。
けれど、その先に──懐かしい温もりがあった。
わたくしの中に、確かに魔力が戻ってくる。
それは何故か、確信に似た感覚だった。
最後の力を振り絞り、心の中で強く念じる。
『──力を与えて!この記憶を残して!そして心を操られないよう、マインドブロックを!』
誰かに、何かに、届いてください。
光を失った処刑台の上で、一筋の涙がこぼれ落ちる。
*
「アリアナ~!急いでったら急いでー!遅刻しちゃうよっ!」
「うわぁっ、待って!リンダ~!」
朝っぱらから友達の叫び声で目が覚めて、バタバタと歯磨きしてる最中。鏡の前で泡だらけになりながら、爆発ヘアと戦っていた。
寝起きのボブは、見事に四方八方へ自由の翼を広げている。
直す時間?あるわけない。もう気にしないことに決定。
ただ──
なんか違和感あるんだけど?
何この胸元のブローチ!?めちゃくちゃ高そうなんですけど!?見覚えもないし、身分不相応感ハンパないんですけど!?え、待って待って、いつの間にこんな高級アクセつけてた!?
「あたし誰なの?……いや、あたしだよ、あたし」
改めて、自己紹介しよう。
女子力ゼロ!幼児体型!運動オンチ!
魔力はまさかの底辺ランキング入り!
ついでに平民!
ヴァレンシア魔法学園きっての薄味キャラ!
──のはず、なんだけど……
なぜか頭に浮かぶのは、
金髪ロングの縦ロール、
ふわっふわドレスの麗しきセレブ嬢。
え、何そのラスボス感。
ついでに豪邸と執事までワンセットで記憶に浮かんでくる。
しかも最後、処刑されてませんでした!?
……いやいやいや、寝ぼけてるだけ、きっとそう。寝起きの夢ってリアルすぎるときあるもんね。胸元のブローチは謎だけど、ま、いっか!モブに深掘りは必要ないし!
ということで、モブ乙女アリアナちゃん!今日も地味~~に目立たず生き抜きます!
「アリアナ~!もう行くからねーっ!」
「ごめんごめん!今行くーっ!」
リンダに引っ張られるようにして、急いで学園へダッシュ。
さっきの記憶?
うん、とりあえず忘れとこう。
地味で目立たないモブライフ最高!
平和って素晴らしい!
……ただ、胸の奥で
「このままじゃ絶対済まない気がする」
そんなイヤな予感が、じわりと湧いていたのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
モブとして平和に生きるはずが、なんだか波乱の予感が……?
次回もよろしくお願いします!