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8.趣味を作ろう

 最近はちゃんと生活も安定するようになってきて。

 頑張れば自由な時間も増えるようになって……。

 だけどそんな中でも、俺には一つ問題がある。


「ん……今、何してたっけ?」


 部屋の真ん中に一人、今日は楽しい休日……。

 えーと何しよう、またあの二人とトランプ……はもういいかな。

 最近休みのたびにトランプやって、単細胞なアリビアは勿論のこと、ヒーコのカードの善し悪しまでわかってきた。

 ……じゃあ、何する?


「…………暇だああああああああああああ!」


 そう、深刻な問題……それは暇なことである。

 今思えば我が祖国日本には、たくさんのアニメ、ゲーム、映画、本、スポーツにカラオケまで。

 様々な暇つぶしがあったんだなと自覚させられる。


 死ぬことないし、痛い思いをするわけでもない。

 いちいちそんなことで騒ぐんじゃない。

 そう思っている人は一度考えて欲しい。

 ある日、突然何もない真っ白な部屋に入れられて食事やトイレなど最低限のことはできるがそれ以外のことはできない。

 そんな状況にどれくらいの日数耐えられるかを。


 ……まあ、ちょっと極端な話をしたがそれだけ暇すぎるというのは人間にとって悪影響ということだ。

 時間を潰すなら図書館、ある程度は読んだし正直あまり本を読み続けるのは得意ではない。

 だとすれば酒場で……ないな、ないない。


 とにかく、ある程度お金はあるのだ。

 なんなら余分にヒーコに預けているくらいだし、それでも手元にあるお金を使わないというのはむしろ不健康なのかもしれない。


 俺は町に飛び出して、何か趣味になりそうなものを探し始める。

 雑貨屋に寄ってみたり、暇そうな人の動向を追ってみたり、だが特別ワクワクするような趣味を持っている人は見当たらない。


 ……こんなところに細い道?そういえば大通りに面した場所しか行ったことがなかったな。

 ちょっと、冒険がてら行ってみるか。


 そう考えた俺は奥の道まで行って、遂に見つける。

 俺にとっての、最高の趣味となりうる存在。


「皆……ありがとー!

 まだまだ歌い足りないけど、明日は仕事だからそろそろラストソングにするよ!

 それじゃ聞いてください、ハッピーハッピー!」


 その歌、その踊り。

 ああ、最早懐かしさすら覚える。

 前世、俺には物凄くハマったものがある。


 それが今みたいなアイドル、そういえば必死にpcに張り付いて、生配信を追いかけたりライブを見るためにアルバイトを追いかけたり……色々やったなぁ。

 その好きっぷりは、俺の死因がアイドルにスパチャ読まれたのが嬉しすぎたから……というところからも伝わるだろう。


「ハッピー!ハッピー!ハーッピー!!

 ……今日もありがとうございました!これからも応援、お願いします!」

「ひゅー、良いぞー!」


 俺は、そんな感動のあまり彼女の前に置かれていたシルクハットにお金を入れてしまう。


「ありがとう……ああ!

 新聞配達してくれてた人だよね、覚えてる!」

「……え、ま、マジで?

 もうやめちゃったんだけど、今は冒険者してるんだ」

「えー、じゃあモンスターから私たちを守ってるんだ!

 凄いね!」

「か、かな……へへ」


 と、横目には沢山のグッズが並んでいる。


「これも、これも買っていい?」

「良いけど……お金使いすぎは駄目だよ……?」

「うん、勿論!

 これとこれとこれ……とこ……こんなもんで」


 やばい、グッズを全部買おうとしたらお金足りない。

 流石にアイドルグッズに使い切るわけにはいかないし。

 仕方ない……コツコツ稼いでまた来よう。


「ありがと、またここでライブやるから!

 名前はメメメ!良かったら覚えてね!

 それから……次は最初っから遊びに来てよね!」

「……うん!」


 俺の他に見に来ていたファン二人とも交流。

 やっぱりこういう少人数規模はアットホームであったかいなぁ。


「でも、グッズほしー……お金……お金を稼がなきゃ」

「おーい、お金を求める声が聞こえたぞ?」


 気づけば隣に人が立っている。

 ……げっ、大学生トリオのギャンブル担当。


「……やけに、気分良さそうですね」

「分かるかい?

 私は勝ってしまったんだよ、100倍の勝負に……」

「100倍!!?」


 ギャンブルさんは俺の口を塞ぐ。


「シッ……あまり大きい声を出すなよ。

 分かってしまったんだよ、私は勝つ方法を」

「勝つ方法……それは」

「それは…………勝つまで辞めない、だ!」


 期待して損した。

 悪いが俺はそういうのに手は出さない。

 出さない……出さない……出さない。

 俺の財布の中を覗く……100倍の勝負……もし勝ったとしたら、俺はあのグッズたちを余裕で。


「い、一回だけやってみよっかな……」

「君……中々に良い目をしているね」


 俺たちがやってきたのは、山奥にある謎の施設。

 その大きさに圧倒されるが、町にいた時にはこんな巨大施設があるとは思いもしなかった。

 二人で施設内に入りこみ、一旦レースを見る。


「何じゃこりゃ!?」


 目の前でレースをしているドラゴンたち、黒に白に赤に青に……とにかく数頭のドラゴンたちがぐるぐるとレース場を駆け回っている。


「どうだい、これがドラゴンレース……まあ一度やってみると良い」


 もう賭け事云々じゃなくて普通に面白そうである。

 ……とりあえず、遊んでみるとするか。


「え……え……え……これ、ブルードラゴン来てません?

 は、は、おおおおおおおおお……よっしゃあ!!」


 俺のお金は一瞬にして桁を一つ増やした。

 どうやら俺はあっちの世界の知識で分かってしまう。

 どのドラゴンがどれだけの強さを持つのか。

 こうして、一時間が経った頃……


「はぁ!?ブラックドラゴンなんて強いって相場が決まってるだろ!

 グリーンドラゴンは、回復役とかで一位を取るわけないんだぁ!」


 ……案の定、全部溶かした。


「わ、私の100倍にまで膨れ上がったお金たちがぁ。

 あれは……夢だったのか……」


 俺たちはお互いの傷を舐め合うように、肩を叩き合ってドラゴンレース場を後にする。

 そういえば、今日は休みだから料理しないってヒーコが言ってたな。

 ポケットに手を入れると奇跡的に、この世界の通貨100ゲルが入っていた。


「そういえば、町に50ゲルで食べられるラーメン屋あるらしいですよ?どうっすか?」

「もう行こう……ご飯で忘れよう全部……」


 俺たち二人は猫背になった背中で、ラーメン屋への道をゆっくりと、ため息と共に歩いていくのだった。

 

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